- 2024.10.07
トルコ西部アナトリア地方に位置するデニズリの古代都市ラオディキアの遺跡にて、スキュラ彫刻群に属する彫刻一式が発掘された。ヘレニズム時代(紀元前334〜30年の約300年間)のバロック様式を反映したこれらの彫刻は、保存状態の良いオリジナルの塗装と芸術洋式が際立っている。
今回の彫刻は、トルコ人の考古学者によってユネスコ世界遺産暫定リストに登録されているラオディキアの西劇場にある舞台建物の修復中に発見され、人食い怪物スキュラ(神話に登場する上半身は美しい女性、で半身は何頭かの野犬の海の怪物)の頭部と手、オデュッセウスの胴体、スキュラの下半身の野犬に襲われて死んだ仲間の上半身の彫刻2体、オデュッセウスの船の舳先が含まれる。
スキュラの彫刻群は、紀元前2世紀初頭にロードス島の彫刻家アタナドロス、ハゲサンドロス、ポリドロスによって制作。その後、ローマ時代初期(紀元後14~37年)に作られたこの彫刻群の複製は、1957年にイタリアのスペロンガの洞窟の前で発見された。ラオディキアのスキュラ群はアウグストゥス帝の時代(紀元前27年~紀元後14年)に遡り、現在までに発見されたこの種の彫刻の中で最も古いもので、塗料、様式、美学、芸術的な質がそのままで最も独創的なもの。例えば、スキュラの頭部のバロック様式の職人技、スキュラが持つボートのオールの塗料、獰猛なスキュラ犬に襲われた人物のリアルな苦痛の表情は精巧である。この彫刻群は、古代には西洋劇場の舞台棟の2階に展示されていたようで、それが塗料の保存に役立ったとされている。そのまま現在まで残ったものもあれば、異教からキリスト教への移行により壊れて楽屋裏の下の盛り土に捨てられたものもある。
加えて、この彫刻群が舞台上に展示されている間に、語り部(ラプソドス)がホメロスの不朽の名作『オデュッセイア』を劇場の観客に向けて朗読していたことが確認されている。ホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』は、古代における最も重要な文学作品のひとつ。『イリアス』がトロイア戦争を描いているのに対し、『オデュッセイア』はイサカの王オデュッセウスが10年ぶりに故郷に戻るまでを描いている。叙事詩によれば、オデュッセウスと海の怪物スキュラとの出会いが重要な意味を持ち、スキュラはメッシーナ海峡(イタリア沖)で待ち伏せしていると描写されている。
今回彫刻が発見されたラオディキアは、セレウコス朝の王アンティオコス2世テオスによって築かれ、その妻ラオディケ王妃にちなんで名付けられた。この都市は、歴史上最大の交易の中心地のひとつとして知られている。ラオディキアはまた、キリスト教世界にとっても大きな意味を持っており、新約聖書に登場する7つの教会のうち、現存する最古のもののひとつであるラオディキア教会は、東ローマ時代初期にこの都市を大都市レベルの宗教的中心地として確立させた。