ムンバイ - 逞しい明日へ誘う、スラム・ツアー
期間:指定なし
[リスヴェル編集部]2018年10月30日公開

エリア:アジア  > インド / ジャンル:観光情報・観光局・現地便り , 

17世紀に七つの島を造成した半島状のムンバイの街。年間経済成長率が7%を超え、今では25000万人の大商都に発展。不動産価格も高騰し、街は北へ急拡大している。それにも拘わらず、街の中心には2キロ平方メートルを占める“スラム・ダラヴィ”が居座っている。政府も外資もこの土地を有効活用したいのだが、人口120万人、家内工業5000件が営まれるダラヴィの最開発は一筋縄ではいかない。

半島の南端は英国統治時代のコロニアル風情漂う街並みが残り、壮麗な旧ビクトリア駅は世界遺産になった。沖合に浮かぶ、中世に築かれたシバ神を祀る石窟の島も世界遺産に登録されている。一方、近年は映画「スラムドック・ミリオネア」のヒットで、ダラヴィのスラム・ツアーが観光名所となりつつある。

ダラヴィは貧民窟ではない。物乞いや行き倒れをみかけることはない。多くの学校や寺院、市場や病院があり、普通に生活を営み、ここから通勤している人も多い。パラボラアンテナをつけた2階屋がある一方、出稼ぎが住む掘っ立て小屋も存在する。その一角の映画館らしきは、床に座った観客達が小さな画面に楽しそうに笑っていた。ダラヴィには悲壮感や倦怠感がない。

スラムからそう遠くないところに、世界で一番高額な個人住宅が聳える。地上27階建て(天井高が倍のため、実際は50階建てに近い)、バッキンガム宮殿とほぼ同価格とされるインドの鉄鋼王の家だ。4人家族と使用人が400人余居住する。だが、スラムからそのタワーを見上げて羨む者も、自分の身を嘆く者もいない。彼らは貧しさを梃子に、前へ進むことだけに全力を注いでいる。

2時間ほどのスラム・ツアー、私を打ちのめしたのは人々の悲惨さではなく、彼らの圧倒されるほどの逞しさ、そして、改めて知る自分自身の軟弱さだった。

寄稿記事
ジャーナリスト
篠田香子


《篠田香子 プロフィール》
国際不動産投資を専門に取材する傍ら、世界各地で激減する旅の原風景を私的に綴る。香港記者クラブ所属、著書に「世界でさがす私の仕事」(講談社)など


インド政府観光局
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