- 2025.07.25
イタリア・トスカーナ州とフランス・コートダジュールという地中海を代表する2つのワイン産地が、革新的なワイン熟成プロジェクトを共同でスタートさせた。トスカーナ沖とコートダジュール沿岸の海底にワインボトルを沈め、一定期間海中で熟成させるという取り組みで、その名も「Tiramisu(ティラミス)」。海の力を活用して新たな味わいを引き出す、これまでにない試みに注目が集まっている。
このプロジェクトは、欧州連合の地域協力プログラム「Interreg Italy–France Maritime」の支援を受けて展開されており、イタリア側はリヴォルノ県、フランス側はプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏とコルシカ島が参加している。ワインの熟成環境として海底を選んだ理由は、年間を通じて温度が安定し、直射日光が届かず、酸素の供給も限られる海中は理想的な貯蔵環境であることだそうだ。また、この技術は化学添加物の使用を一切行わず、自然に存在する条件のみに依存しており、伝統的なワイン醸造手法に代わるエコサステナブルな代替案としても期待されている。
特に注目されるのは、海流による緩やかな揺らぎと水圧。ワインボトルの内部で澱(おり)が絶えず動き続けることで、味にまろやかさや奥行きが生まれるという。この現象は、陸上のセラーでは再現が難しく、海底ならではの恩恵とされている。トスカーナ側では、スカルリーノ港沖にワインボトルを沈める実験が既に始まっており、同様の取り組みがフランス側の沿岸でも進行中。
プロジェクトには、ピサ大学やイタリア国立核物理研究所(INFN)といった研究機関も参加しており、熟成期間中の成分変化や香りの分析など、科学的なアプローチでその効果を検証している。ワインの出来栄えを定量的に把握することで、将来的には「海中熟成ワイン」のブランド化も視野に入れている。
海中熟成ワインは、すでにフランスやクロアチアなど欧州各地で実践例があり、ノルマンディー地方ではシャンパーニュを海底で熟成させた「泡のワイン」が話題を集めた。クロアチアのペレシャツ半島では、アンフォラ(土器)に詰めたワインを海中に沈めるユニークな手法も登場しており、海の中で眠るワインという新たなストーリーが欧州のワイン愛好家を魅了している。
今回の試みは、単なる実験にとどまらず、観光資源としての活用も視野に入れている。ワインの沈下や引き揚げの様子を見学できる体験型ツアー、海底ワインのテイスティングイベントなど、ワインツーリズムの新しいコンテンツとしての可能性が広がる。自然環境と調和しながら感動を提供するこの体験は、持続可能な観光モデルとしても評価されるかもしれない。
詳細(イタリア語):https://www.corriere.it/cook/news/25_giugno_04/vino-affinato-mare-toscana-costa-azzurra-italia-francia-insieme-un-progetto-innovativo-f729ff9c-3b3d-11f0-b24a-664a6af52da2.shtml