- 2025.06.27
ベルギーフランダース地方のアントワープは、ヨーロッパ1、2を争う巨大港湾だが、スヘルデ河畔に広がる町は、歴史的な建物と豊かな緑に恵まれた、落ち着いた佇まい。コンテナ船などが忙しく往来する波止場は、北海に近いスヘルデ川下流で町からは20㎞ほど離れている。
だが、港町のリベラルな気風は多文化を育む住民や、ファッション発信地としての活気に表れている。細い路地や個性的なブテイックの並ぶ通りを歩き回るのは楽しい。コンパクトな中心部には、世界遺産をはじめ見所が集中している。
観光に一番便利なのは自転車だ。
地形は平坦で、自転車優先路が整備されている。壮麗な中央駅(地下に広大な駐輪場が)周辺のレンタ・サイクル店で自転車を借り、河畔の旧市街地へ。
世界に誇るダイヤモンド店が軒を並べ、黒い山高帽にもみ髭姿の超正統派ユダヤ商人が行き交う。旧市街中心部には世界遺産の市庁舎とノートルダム大聖堂、印刷博物館。ファッション文化の殿堂モード博物館、ルーヴェンスの家などなど・・・。
早朝に出発して、ランチはハムとチーズのワッフルで簡単にすますとしても、たっぷり一日はかかる。夕方は海風に誘われてスヘルデ川沿いにドックに向かう。もともとはナポレオンが整備したドックだったが、町にも近いため今では人気のウォーター・フロントに。
レストランやカフェが並び、高層のMAS博物館が聳える。アントワープ港の歴史などを展示、最上階からは町と港が一望にできた。少し遠いが、北海を背景にきらきら輝く巨大な切子ガラスを施したような建物があった。
向かってみると、それは旧消防署を覆う構造の港湾局だった。アラブ出身の女性建築家、故ザッハ・ハディトの遺作だ。確かザッハはジュエリーのデザインも手掛けていた。微妙なカッティングを施した斬新な建築は、北ヨーロッパの夏の陽ざしを浴びて、巨大なダイヤモンドのように輝いていた。
アントワープ市観光局
https://visit.antwerpen.be/en
VISITFLANDERS
https://www.visitflanders.com/en
写真 キャプション
1.スヘルデ河畔に広がるアントワープの旧市街地©Visit Flanders
2.マリーナ風ウオーター・フロントに変貌したドック©Visit Flanders
3.1929年に建てられた旧消防署の上に、2016年に造られた港湾局
寄稿記事
ジャーナリスト 篠田香子
《篠田香子 プロフィール》
国際不動産開発を専門に取材する傍ら、世界各地で激減する旅の原風景を私的に綴る。東京とミラノが拠点。著書に「世界でさがす私の仕事」(講談社)など