旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2020年8月28日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

長崎・上五島、29の教会が迎える祈りと癒しの島へ5~島の手仕事にふれる~

ツバキが実を付けるのは8~10月。すべて手摘みされ、中にはこんな種が入っています。zoom
ツバキが実を付けるのは8~10月。すべて手摘みされ、中にはこんな種が入っています。
十字架の形の島に複雑に入り組んだ海岸線が続く上五島で、島ならではの自然とその恵みを生かし、古くから行われている手仕事を見学&体験できるスポットを訪ねてみました。

手摘みした実の種から採れる、ツバキ油作り
五島列島はツバキの島。その歴史は古く、遣唐使の時代の7~9世紀には種から搾ったツバキ油を貢物として贈っていたとの記録が残っています。五島列島で見られるのは、ツバキの原種に近いヤブツバキ。五島全体で約900万本があり、その数は全国一。そのうち上五島には半分以上の680万本が自生し、常緑照葉樹の艶やかな葉が四季を通じて山々を彩っています。

観賞用のツバキより控えめで、可憐な花を付けるヤブツバキが実を付けるのは8~10月。手摘みした実を1週間ほど天日干しにしてから中の種を取り出します。さらに2週間天日干しにした実を搾ったものが上五島の特産品、ツバキ油です。
石臼ですり潰した種を蒸し圧搾機で搾る、昔ながらのツバキ油の搾油体験。お土産におすすめのスキンケアアイテムもいろいろ。zoom
石臼ですり潰した種を蒸し圧搾機で搾る、昔ながらのツバキ油の搾油体験。お土産におすすめのスキンケアアイテムもいろいろ。
昔ながらの採油方法を紹介し、体験できる『つばき体験工房』を訪ねました。約1時間半の体験では、まず乾燥させたツバキの種を石臼に入れ、杵で潰していきます。ゴリゴリと潰すこと約15分、細かくなった種から油が滲み出てきたら、晒(さらし)に包んでセイロで蒸します。これを圧搾機で搾ると、純度100%のツバキ油のでき上り。1kgの種から約300mlが採れ、搾りたての油はお土産として持ち帰ることができます。

植物油の中で最もオレイン酸が豊富なツバキ油は、肌や髪の毛の保湿力に優れていることから美容オイルとして人気があります。また、紫外線から肌を守る働きがあるほか、動脈硬化や高血圧などの生活習慣病改善も期待できるのだとか。五島のツバキ油は、大手化粧品メーカーのヘアケア製品にも使われています。搾りかすは本来、たい肥にするのだそうですが、その美容効果を利用できないかと思い、少しだけ分けてもらいました。試しに膝や肘、かかとをケアするスクラブ代わりに使ってみたら、すべっすべに!
かつては島には集落ごとに製油所があり、ツバキから採れる油を調理用にも使っていたといいます。現在でも、日本三大うどんに数えられる『五島手延うどん』にツバキ油は欠かせません。独特のツヤとコシ、滑らかなのど越しは、うどんを延ばす工程でツバキ油を麺に塗ることで生まれるのだそうです。

●つばき体験工房
長崎県南松浦郡新上五島町小串郷1071-2
TEL 0959-55-3219(新上五島振興公社)
9:00~16:00 お盆・年末年始休
体験料:1540円(所要約1時間30分、材料代別途)
※2人以上で実施、2日前までに要予約
https://shinkamigoto.nagasaki-tabinet.com/activity/10393

ヤブツバキの花の見ごろは12~3月。青い海とのコントラストが美しく、島内のさまざまな場所で見ることができます。zoom
ヤブツバキの花の見ごろは12~3月。青い海とのコントラストが美しく、島内のさまざまな場所で見ることができます。
上五島でヤブツバキの花が見られるのは12~3月。最北端にある『津和崎灯台・椿公園』を訪れると、木々の間を散策できる遊歩道が整備され、青い海と赤い花が描き出す美しい景色を眺めることができます。ここ以外にも島のあちこちで自生しているため、行く先々で迎えてくれる可憐な花々に出合うのは、冬の上五島の楽しみです。

原料は目の前の海から汲み上げた海水だけ! 古代から伝わる“海水塩”作り
変化に富んだ上五島の海岸線の総延長は429km。いくつもの入り江に黒潮と対馬海流が流れ込み、深みを帯びたブルー、明るいエメラルドグリーン、濃い群青など、様々な海の色が目を楽しませてくれます。
そんな自然豊かな湾の一つ、奈摩湾にある矢堅目(やがため)公園は、夕日の名所としても知られた場所。湾の入り口に位置する円錐型の奇岩はその昔、湾に侵入する外敵の見張りのため、矢を持った守備隊を配備したことから“矢堅目”と呼ばれるようになり、そのまま地名として残ったのだそうです。
目の前の海から汲み上げた海水を薪で炊き、結晶化させて作る昔ながらの海水塩作り。zoom
目の前の海から汲み上げた海水を薪で炊き、結晶化させて作る昔ながらの海水塩作り。
海から汲み上げた海水を釜で炊く、シンプルな方法で作った塩が“海水塩”。島に古くから伝わるこの方法で塩作りを行っている工房が、島の特産品販売ショップを併設する『矢堅目の駅』。工房の入り口に大釜が並び、赤々と燃える炎の上で湯気が立ち上がっています。

案内してくれたのは、『矢堅目の塩本舗』代表の川口秀太さん。“平釜式”と呼ばれる海水を直火炊きで煮詰めて作る、昔ながらの方法で塩作りを行っています。原料となる海水は、目の前の奈摩湾にきれいな海水が流れ込む上げ潮のタイミングで採取。これを一昼夜、薪を炊き続けながら水分を蒸発させ、3%の塩分濃度から20%以上になるまで煮詰めていきます。
工房内を案内し、海水から塩ができるまでの工程を紹介してくれた、代表の川口さん。zoom
工房内を案内し、海水から塩ができるまでの工程を紹介してくれた、代表の川口さん。
次に、水槽のような平釜に移し、弱火で4日間炊き上げます。さらに仕上げの窯で塩が結晶化するまでに4日間を要し、でき上がる塩は汲み上げた海水の量のわずか100分の1。夏には50~60℃以上にもなる窯場での作業は、大変な重労働です。
「五島の海は塩分濃度が高く、すっきりとした味わいの塩が採れます。薪で炊くと、海水のミネラル分が失われにくいんです。結晶化させるときは沸騰させず、ゆっくりと炊き上げます。強火で一気に加熱すると、旨みが飛んで舌を刺すような辛い塩になるんですよ」と川口さん。
ここで作られているのは、定番の『矢堅目の塩』のほか、海藻と一緒に炊き上げた『藻塩』、五島産のツバキ茶をミックスした『椿塩』など。おにぎり専用、刺身や焼き物の付け塩、肉料理に合うものなど、用途に合わせて選べます。
用途によってさまざまな種類がある『矢堅目の塩』。同じ海水から採れた塩でも仕上げの方法によって味わいが変わるのだそう。zoom
用途によってさまざまな種類がある『矢堅目の塩』。同じ海水から採れた塩でも仕上げの方法によって味わいが変わるのだそう。
ここでぜひ味わってみたいのが、矢堅目の塩とにがりを使った『塩ソフトクリーム』。目の前の海を眺めながら味わうのがおすすめです。ソフトクリームを味わったら、奇岩の向こうに沈む夕日を眺めることもお忘れなく。

●矢堅目の駅(矢堅目の塩本舗)
長崎県南松浦郡新上五島町網上郷688-7
TEL 0959-53-1007
営業時間:9:00~17:00 無休
https://www.yagatame.jp/salt

上五島ではほかにも、『五島うどん作り』、干したサツマイモを餅に混ぜて作る『かんころ餅作り』、『漁師体験』なども可能です。お土産は島の特産品センターや土産物店で手に入りますが、その作り方を間近で眺めたり体験すれば、この土地の文化や暮らしをもっと身近に感じられるはずです。
島ではそろそろヤブツバキが実を付ける季節。残暑が収まったタイミングで、訪れてみてはいかがでしょうか。
●体験の申し込みと問い合わせ
新上五島町観光物産協会 TEL 0959-42-0964

※上五島で必ず訪れたい教会と、温泉&グルメが楽しみなリゾートホテルは、こちらから!
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長崎・上五島、29の教会が迎える祈りと癒しの島へ
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 6 島の美味しいものを食べ尽くす!

【協力】
長崎県/新上五島町
https://shinakamigoto.com/tour/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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