旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年12月18日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

カナダの嗜好用大麻解禁から4年、入手しやすい環境を憂慮 シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【27】

△カナダ東部ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズにあるムースのはく製を飾ったパブ(2022年7月、筆者撮影)zoom
△カナダ東部ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズにあるムースのはく製を飾ったパブ(2022年7月、筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【26】」からの続き)
 カナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島が美しくてとても素晴らしい旅行先であり、皆様にもお薦めしたいことはここまで読んでいただいて強く伝わっていると確信している。ただ、どんな場所にも「負の側面」はあり、観光名所が豊富でフレンドリーな人が多いニューファンドランド島も例外ではない。カナダは嗜好用のマリフアナ(大麻)を合法化して今年10月で4年となり、私は一切吸っていないものの入手しやすい環境なのを知って憂慮した。日本は大麻の所持と取引などを大麻取締法で禁じ、処罰の対象としており、日本国外でも適用されることがあるだけに日本人旅行者の皆様には注意いただきたい。

△セントジョンズの目抜き通り「ジョージ通り」(2022年7月、筆者撮影)zoom
△セントジョンズの目抜き通り「ジョージ通り」(2022年7月、筆者撮影)

 ▽合法化の狙いは
 カナダのトルドー政権の肝いりだった嗜好用の大麻の所持、使用を認める法律は2018年6月21日に成立し、同年10月17日に施行された。大麻使用を国家として合法化したのは南米ウルグアイに続き2カ国目となり、先進7カ国(G7)では初めてだった。
 カナダでは合法化前も医療用に限って解禁していたが、「密売を通じて娯楽用にも広がっていた」(カナダ人)とされる。ジャスティン・トルドー首相は合法化前に「子供たちが大麻を入手したり、犯罪者が(大麻販売で)利益を得たりするのが簡単すぎる状態だ」と問題視し、合法化による管理強化で密売をなくして未成年者の入手を難しくする狙いがあると説明していた。

△大勢の客で賑わうジョージ通りにあるパブ(7月、筆者撮影)zoom
△大勢の客で賑わうジョージ通りにあるパブ(7月、筆者撮影)

 ▽異なる「成人」の規定
 カナダの法律は嗜好用大麻に関する規定で、成人は30グラム以内の大麻を所持したり、他の成人と共有したりできると定めた。しかし、成人の規定は10州、3つの準州でつくる地方政府によって18歳または19歳と異なるという日本から見るとかなり不思議に写る状況になっている。
 具体的には1988年冬季オリンピック(五輪)が開かれたカルガリーがある西部アルバータ州、穀倉地帯で有名なウィニペグがある中部マニトバ州、主要都市の1つのモントリオールがある東部ケベック州の成人年齢は18歳だ。一方、ニューファンドランド島があるニューファンドランド・ラブラドール州などの7州と3つの準州は19歳以上を成年としている。

△パブの店内にあるステージで演奏する様子(7月、筆者撮影)zoom
△パブの店内にあるステージで演奏する様子(7月、筆者撮影)

 ▽未成年提供で14年以下の罰則
 カナダで成年に認められている飲酒も、私が今回の旅行で経由したモントリオールは18歳以上ならば可能だ。これに対し、目的地となったニューファンドランド島の主要都市セントジョンズは19歳以上でないと飲酒が許されない。
 同じことが大麻にも適用されており、カナダは州法・準州法で定めた大麻使用の最低年齢に達していない未成年に大麻を販売または提供すれば懲役14年以下の罰則が科されると法律に定めた。つまり仕組み上は、18歳の消費者がモントリオールでは大麻を合法的に入手できても、航空機に乗ってセントジョンズへ行けば一転して違法になるのだ。
 なお、大麻のカナダ国外への持ち出しと、カナダへの持ち込みは合法化後も違法となっている。

△パブの店内で音楽に合わせて踊る客ら(7月、筆者撮影)zoom
△パブの店内で音楽に合わせて踊る客ら(7月、筆者撮影)

 ▽合法化時に盛り上がる
 私はニューファンドランド島を2022年7月に初訪問するまで、この島に3つの大きな印象を抱いていた。犬種ニューファンドランドの原産地ということ、豪華客船「タイタニック」が氷山にぶつかって沈没した事故現場に近いこと(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【25】」ご参照)、そして残る1つは東京に住んでいた18年10月17日に大麻が合法化された際に数百人が販売店に列をつくって盛り上がっていたテレビのニュース映像だった。
 その印象を裏付けるような光景に遭遇したのが、セントジョンズ中心部の目抜き通り「ジョージ通り」にあるパブで地元住民らとビールを飲みながら会話を楽しんでいた時だ。ある男性に「これはいるかい?」とたばことは異なる箱に入った紙で巻いた物を見せられた。
 「それは大麻なの?」と尋ねると、男性はうなずいて吸い始めた。私は「日本では違法だし、たばこも吸わないくらいだからいいよ」とあっさりと断った後、「どこで買っているの?」と質問した。
 男性が買った販売店はセントジョンズの中心部から少し離れた場所にあり、ショーケースにいくつもの種類を展示している中から選び、合法的に使える19歳以上なのを示す身分証明書を見せると売ってくれるということだった。
 このパブはステージ上で音楽の生演奏が繰り広げられる中、中高年夫婦らが曲に合わせて踊っている陽気な雰囲気だった。陰惨とした雰囲気とはかけ離れた場所でも、大麻が平然と吸引されていることに驚きを禁じ得なかった。

△大麻が合法化されているアメリカの首都ワシントンの店舗(9月、筆者撮影)zoom
△大麻が合法化されているアメリカの首都ワシントンの店舗(9月、筆者撮影)

 ▽毎日吸うと最大半分が依存症に
 私は一切吸ったことがないので医療関係者から聞いた話などに基づくと、大麻を吸うと眠気を引き起こしたり、反応が鈍くなって注意力が低下したり、記憶力を悪化させたりといった副作用があるとされる。また、大麻を毎日吸っている人の最大半分が依存症に陥るとの調査結果もある。実際、大麻を楽しんでいた人はすごくハイな雰囲気で盛り上がった後、眠気を催して連れの人に伴われて帰って行った。
 22年のサッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会で決勝トーナメント進出を果たした日本代表の森保一監督が試合中にノートにメモを取る姿が話題になったが、私も本シリーズをしたためるためにノートに相当量のメモを取っている。しかし、パブでの会話を含めてノートを取るのを控えた場面もあり、記憶力に頼ってお伝えしている事柄も多い。
 このようにニューファンドランド島について既に27回にもわたってお伝えできているのは魅力にあふれた島で無事に滞在することができ、離れてから半年近くたっても記憶力がしっかりしているのは「触らぬ神にたたりなし」のおかげだろう。大麻に安易に手を出してしまわないように注意されたい。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【28】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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