(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【27】」からの続き)
カナダにある北海道より大きな島、ニューファンドランド島の上空をエア・カナダの小型旅客機が飛んでいき、主翼の先に突き出たウイングレットが二つに分かれた形状からアメリカ(米国)の航空大手、ボーイングの小型機737の最新型「MAX」だと分かった。2度の墜落事故で一時は引き渡しを停止したが、現在は優れた燃費性能を生かしてエア・カナダでも存在感を発揮している。
▽アザラシを見下ろすメープルリーフ
1週間滞在したニューファンドランド島東部の主要都市セントジョンズでの滞在も最終日を迎え、現地で知り合ったセントジョンズ観光局のジャネット・イエットマンさんが「航空機の出発まで、近くの観光地へ車で連れて行ってあげるわ」と提案してくださった。
案内してくださったのはニューファンドランド・メモリアル大学の水産研究施設だ。オスのタテゴトアザラシ「タイラー」と娘の「ダイアン」(写真は「
▽2度の大惨事
この機体はエア・カナダがカナダ最大の都市、トロントからセントジョンズへ向かうボーイング737MAXだと分かった。ボーイングの主力工場がある米国西部ワシントン州内のグラント郡国際空港を2016年9月に訪れた際は737MAXの試験機があり、ウイングレットにアイルランドの格安航空会社(LCC)の社名である「ライアンエア」と記した緑色の737MAXも試験飛行中だった。
日本の航空会社は737MAXをまだ運航していないこともあり、ニューファンドランド島では約6年ぶりに飛行中の姿を明確に認識できた。
この間に737MAXは大きな試練に直面した。18年10月にインドネシアの格安航空会社(LCC)、ライオンエアの首都ジャカルタからスマトラ島のデパティ・アミール空港へ向かっていた機体が離陸直後に海に墜落して乗客と乗員189名全員が亡くなり、19年3月にエチオピア航空のエチオピアの首都アジスアベバからケニアの首都ナイロビへ飛んでいた機体も墜落して乗客と乗員157名全員が犠牲になった。
米連邦航空局(FAA)は、計346名が命を落とした2つの墜落事故の類似性が見つかったとして米国の航空会社と国内領域での運航を19年3月から約1年9カ月にわたって禁じていた。日本の国土交通省も19年3月から一時、日本の領域への乗り入れを停止させた。
▽度重なる改良の落とし穴
大惨事が繰り返されてしまった背景には登場から半世紀余りも前に登場した機体をベースにしながらも、航空業界が直面する脱炭素化と燃費性能改善という至上命題に応えるための改良を急いだ落とし穴があった。
1967年に初飛行した737は改良を重ね、2018年には累計生産が初めて1万機を超える航空機となったベストセラー機だ。737MAXはでは客室の標準的な座席数が138席から204席にまたがる737―7型、8型、9型、10型の4つの機種を開発し、手始めに737―8型(標準座席数162~178席)の引き渡しを17年5月に開始。
737MAXの累計受注は5千機を大きく超えており、ボーイング幹部は「受注は非常に好調だ」と手応えを示した。全日本空輸(ANA)の親会社、ANAホールディングスも737―8型の最大30機(うち確定20機、オプション10機)の最終購入契約を結んだと22年7月に発表した。ANA側に25年以降に引き渡しが始まる見通しだ。
737MAXは主翼につり下げた2基のジェットエンジンに、米GEアビエーションとフランスのスネクマの合弁会社、CFMインターナショナルが製造した改良型エンジンを採用。持ち味の燃費性能がさらに改善し、ボーイングは「737の従来機種よりも燃費性能を14%改善し、最大のライバルである欧州エアバスの小型機A320シリーズに比べて1座席当たりの燃料消費量を5%減らした」と胸を張る。
▽改良型エンジンでバランスに苦慮
しかし、737MAXは搭載した改良型エンジンは737の従来機より直径が大きくなり、エンジン下部と地面の距離を確保するために主翼に取り付ける位置を従来機より前に移動させた。この影響で機体のバランスが取りにくくなり、飛行中に機体の先頭部が上がり過ぎて失速しやすくなるリスクが生じた。
対策としてパイロットの操縦を支援する操縦特性補助システム(MCAS)を導入。先頭部に取り付けたセンサーが、角度が上がりすぎていると判断した場合は水平尾翼にあるスタビライザー(水平安定板)の角度を自動的に下げてバランスを取れるようにした
ところが、2度の墜落事故が起きてしまったのは先頭部が上がりすぎていると誤って判断し、先頭部が下がり続けたMCASのトラブルが原因だったとされる。
▽「安全運航を確実に」と運航担当副社長
ボーイングは再発防止策として、MCASの誤作動防止や異常検知機能の追加などを実施。ブラジルのGOL(ゴル)航空が20年12月に737MAXの営業運航を再開したのを手始めに、他の航空会社も追随した。
737―8型を40機抱えているエア・カナダは21年2月に再開し、マレー・ストルム運航担当副社長は「当社のパイロットと整備士は最高水準まで訓練されており、航空機の安全運航を確実にできるようにしている」と理解を求める。もちろん737MAX以外の機種もそうだが、航空輸送の使命である安全輸送を徹底できるようにたゆみない努力を続けてほしい。
(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【29】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)