旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年12月11日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

カナダ東部の島を93年前に襲った大地震、比較した日本の震災は シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【26】

△カナダ東部ニューファンドランド島の「ジョンソン・ジオセンター」(22年7月、筆者撮影)zoom
△カナダ東部ニューファンドランド島の「ジョンソン・ジオセンター」(22年7月、筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【25】」からの続き)
 現在住んでいる首都ワシントン近郊を含めてアメリカ(米国)東部で通算8年半ほど暮らしてきたが、日本に住んでいた時期と異なる一つは有感地震を経験していないということだ。だが、カナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島では93年前の1929年にマグニチュード(M)7・2の大地震が起きて27人が命を落とした悲劇を知った。そこで比較されていた日本の大地震は、私が想定していたM9・0の2011年3月11日の東日本大震災ではなかった。

△「We Are Open!」(営業中です!)と記した3枚の紙を貼り付けたジョンソン・ジオセンターの“玄関”部分(7月、筆者撮影)zoom
△「We Are Open!」(営業中です!)と記した3枚の紙を貼り付けたジョンソン・ジオセンターの“玄関”部分(7月、筆者撮影)

 ▽モダンな外観
 主要都市セントジョンズの国定史跡「シグナルヒル」のふもとにスロープのような青屋根を備えたガラス張りの建物があり、モダンな外観にひかれて近づいた。この施設は地学博物館「ジョンソン・ジオセンター」で、地球の歴史やニューファンドランド島が形成された変遷といった地質学分野、および天文学に関して豊富な展示品を紹介している。
 施設名に冠した「ジョンソン」は、地元出身で地域貢献のために多額の寄付をした企業家の故ポール・ジョンソン氏(1929~2015年)を顕彰して付けられた。

△土星の模型がつり下げられた入り口(7月、筆者撮影)zoom
△土星の模型がつり下げられた入り口(7月、筆者撮影)

 ▽「営業中です!」と張り紙
 ところが、建物の改修工事が進んでおり、扉をくぐって入館しても人けがない。「工事中なので休館にしているのかな」と早とちりして引き返そうとした次の瞬間、テーブルに貼り付けた「We Are Open!」(営業中です!)と記した3枚の紙を見つけた。
 うち「We」の紙がめくれていたこともあり、危うく見落とすところだった。ここはあくまでも“玄関”であり、エレベーターで降りて階下から入館する構造になっていた。

△館内では長い歴史で形成された地層を見ることもできる(7月、筆者撮影)zoom
△館内では長い歴史で形成された地層を見ることもできる(7月、筆者撮影)

 ▽土星がお出迎え
 エレベーターが階下に到着すると入り口があり、土星の模型が頭上にある宇宙空間のようなフロアが待ち受けていた。入館料は大人で12カナダドル(約1200円)、学生とシニア層が9カナダドル、5~17歳が6カナダドル、4歳以下は無料だ。
 特に興味を持ったのはニューファンドランド島が「約4億年前の大陸移動により、世界の 3つの領域が合わさって形成された」という説明だった。

△ニューファンドランド島で1928年に起きた大地震を伝える掲示(7月、筆者撮影)zoom
△ニューファンドランド島で1928年に起きた大地震を伝える掲示(7月、筆者撮影)

 ▽ニューファンドランド島東部は元々…
 ニューファンドランド島の西部は北米の一部が分離し、中央部は約5億年前には北米とアフリカ大陸の間の海底だった部分が隆起したとされる。そしてセントジョンズがある東部は、北アフリカと一緒だったのが分離したという目からうろこが落ちる説明を受けた。
 展示を指さしながら男性係員は「ニューファンドランド島東部の海岸線は、北アフリカの西部にある海岸線とジグソーパズルのように組み合わさります。これは2つがかつて一緒の地域だったことを示しているのです」と解説してくれた。

△新潟地震について解説したパネル(7月、筆者撮影)zoom
△新潟地震について解説したパネル(7月、筆者撮影)

 ▽教科書で見た横倒しの団地写真
 展示ではニューファンドランド島で1929年に発生し、27人が命を落とした大地震(M7・2)も自然の脅威として紹介されていた。津波が押し寄せ、家を押し流すなど被害が広がったという。
 隣のパネルには日本の震災について説明していたが、それは地震後の大津波による大きな被害も出て計1万8423人もの死者・行方不明者(2022年2月時点)を出した東日本大震災ではなかった。
 掲示された写真は、小学生時代に社会科の教科書で見たことがある団地の建物がいくつも横倒しになった様子だった。一目で「新潟地震だ」と分かった。最初の東京オリンピック(五輪)が開かれた1964年に起きた新潟地震はM7・5で、26人が亡くなった。
 地震の規模と犠牲者数がニューファンドランド島の地震と近く、津波が押し寄せて建物を倒壊したのも共通している。そうした面もあり、比較対象に選んだようだ。日本に比べて地震の頻度が極めて少ない米国東部に住んでいる間も、東京在住時に経験した東日本大震災を忘れずに防災意識は持ち続けなければならないと改めてかみしめた。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【27】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
risvel facebook