- 2026.06.06
イタリア北西部地中海に面したジェノバ。コロンバスの出身地で、中世から近世にかけて隆盛を極めた海洋都市国家だ。港町としてのイメージが強いが、ジェノバ湾背景に押し迫ったアペニン山脈山麓の街並みには、栄華を物語る邸宅、教会、博物館、劇場、老舗商店などが並ぶ。
その中でも16~17世紀に建てられた貴族の豪邸42軒と通りが2006年にはユネスコ世界遺産に認定され、年2回一般公開される。こうした文化行事や祭典が年間を通して数多く開催され、旅行者は海と山の自然に加え、豊かな都市文化を体験できる。
旧市街地の中心、ジェノバを代表するミュージアムとなったドカーレ宮殿が建つ広場に通じるベンテ・セプテンブレ通りは、ジェノバ随一の目抜き通り。モザイク大理石の歩道とアーチ回廊、味わいのあるクラシックなショーウィンドーの老舗店などが往年の風情を醸し出している。
この中心部に創業120年を迎えたのが、「ホテル・ブリストル・パレス」。ネオ・バロック建築のアーチをくぐり、豊かな時間にゆっくりと遡るかのように回転扉を押して中に入る。艶やかに磨きあげられた大理石の床とシャンデリアの柔らかい光に包まれる。
ホテル・ロビー中央には、ランドマークとなっているアール・ヌーボー様式の楕円形螺旋階段があり、見上げると瞳のようなモザイク・ガラス天井が。階段の上からロビーを見下ろすと吸い込まれそうだ。ここを定宿にしていたのがサスペンスの帝王と称され、後世に多大な影響を与えた映画監督、アルフレッド・ヒッチコック。この螺旋階段をヒントに代表作の映画『めまい』(1958年)を制作したという。
ホテルは、エリザベス・テーラーやクラーク・ゲーブルといった俳優、チャーチルなどの政治家、実業家など多くの著名人がゆっくりと滞在した、社交場でもあった。今も当時の贅沢な調度品が残されており、優雅な雰囲気がそのまま漂う。
「スロー・フード」と並ぶ「スロー・フィッシュ」を謳うシーフードで定評のあるレストランは、パレスの名に相応しい壮麗な内装だ。夏の期間は張り出したテラスにもテーブルが用意され、通りの賑わいを眺めながら寛げる。ジェノバ湾まで1キロ程、時を誘うような地中海からの風が時折吹き抜ける。
Hotel Bristol Palace
https://preferredhotels.com/hotels/italy/hotel-bristol-palace
キャプション:
(1)ジェノバの目抜き通り、人目を惹くネオ・バロックの建築
(2)ヒッチコックの映画『めまい』を生んだ螺旋階段、上から見下ろす
(3)朝食、夕方のアペリテフ時に人気のテラス席
寄稿記事
ジャーナリスト 篠田香子
《篠田香子 プロフィール》
国際不動産開発を専門に取材する傍ら、世界各地で激減する旅の原風景を私的に綴る。東京とミラノが拠点。著書に「世界でさがす私の仕事」(講談社)など


