旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年8月8日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

「赤毛のアン」の舞台とは宿命のライバル? シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【5】

△プリンスエドワード島の牧歌的な風景(2018年6月、筆者撮影)zoom
△プリンスエドワード島の牧歌的な風景(2018年6月、筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【4】」からの続き)
 カナダ東部のモントリオール国際空港で乗り込んだエア・カナダグループのAC7782便は2時間6分遅れで出発し、北海道より大きいニューファンドランド島の主要都市セントジョンズへ向かった。座席前の液晶画面でフライトマップを見ていると、日本人にも人気がある小説「赤毛のアン」の舞台、プリンスエドワード島が近づいていることに気付いた。同じカナダ東部にある二つの島は「お互いにライバル意識を持っている」(地元事情に詳しいカナダ人)という。

△ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズを見下ろした風景(22年7月、筆者撮影)zoom
△ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズを見下ろした風景(22年7月、筆者撮影)

 ▽広さは九州の3倍
 エンブラエル(ブラジル)が製造したリージョナルジェット旅客機「E175」で運航されたセントジョンズ行きのAC7782便はモントリオールを午後3時11分に出発し、離陸すると映画のタイトル「北北西へ進路を取れ」ならぬ北東へ進路を取った。
 ニューファンドランド島は広さが約10万8900平方キロと北海道(約8万3400平方キロ)より大きい。元福岡市民で、祖先が鹿児島県に住んでいた者としてのこだわりで九州(約3万6800平方キロ)とも比べると3倍近くある。

△ニューファンドランド・ラブラドール州が原産の犬、ニューファンドランド(左)とラブラドール・レトリバーが並んだ像(22年7月、セントジョンズで筆者撮影)zoom
△ニューファンドランド・ラブラドール州が原産の犬、ニューファンドランド(左)とラブラドール・レトリバーが並んだ像(22年7月、セントジョンズで筆者撮影)

 ▽日本と「同じ広さ」に人口は0・4%
 ニューファンドランド島はカナダ東部にあるラブラドール地区を含めたニューファンドランド・ラブラドール州に所属しており、地元の旅行パンフレットは州全体で「広さは40万5720平方キロあり、日本とほぼ同じ面積だ」と紹介している。日本は約37万8千平方キロなので、さらに約2万7700平方キロも広い。
 カナダ統計局によると、ニューファンドランド・ラブラドール州の2022年4月1日時点の人口は約52万2875人だった。日本は22年7月1日時点の概算で1億2484万人だったため、ニューファンドランド・ラブラドール州はほぼ同じ面積に日本の0・4%しか住んでいない計算になる。

△ニューファンドランド島に停泊中の沖合で原油を採掘する船舶(22年7月、筆者撮影)zoom
△ニューファンドランド島に停泊中の沖合で原油を採掘する船舶(22年7月、筆者撮影)

 ▽名犬の原産地
 読んでいただいている愛犬家の皆様もそうだと思うが、私もニューファンドランド・ラブラドール州と言えば名犬の原産地としてなじみがあった。大型犬「ニューファンドランド」は主に黒色のもふもふとした毛並みを持ち、ラブラドール・レトリバーは映画「盲導犬クイールの一生」に登場する盲導犬「クイール」の犬種だ。
 盲導犬への理解が深まるとても良い作品だが、個人的には映画館で見た時にはクイールが盲導犬候補として子犬の時から1歳前後まで育てるボランティア「パピーウォーカー」のもとを巣立つ場面から涙がこぼれ、終わりまであらゆる場面で泣かされて大変だった。

△プリンスエドワード島の主要都市シャーロットタウンの街並み(18年6月、筆者撮影)zoom
△プリンスエドワード島の主要都市シャーロットタウンの街並み(18年6月、筆者撮影)

 ▽資源分野に強み、絶好の漁場
 ニューファンドランド島は大西洋の沖合で採掘できる原油・天然ガスが経済の大きな原動力になっており、カナダ統計局によるとニューファンドランド・ラブラドール州の域内総生産(GDP)のうち資源分野が34・3%を占める。
 ニューファンドランド島は漁業も盛んだ。北極海から南下する寒流のラブラドール海流が、北東に進む暖流のメキシコ湾流と接しているため島の周辺は絶好の漁場をなっている。
他に観光客の獲得でも力を入れているが、新型コロナウイルスの流行で打撃を受けて21年に州外から訪れた旅行者数は約18万1305人と新型コロナ流行前の19年より62%減った。新型コロナワクチンの接種拡大で入国規制が緩和されたのを追い風に巻き返しを目指している。

△セントジョンズの目抜き通り(22年7月、筆者撮影)zoom
△セントジョンズの目抜き通り(22年7月、筆者撮影)

 ▽「赤毛のアン」の舞台に対抗心
 セントジョンズは、「赤毛のアン」の主人公アンが教員になるために通ったクイーン学院があるという設定のプリンスエドワード島の主要都市シャーロットタウンの北東約800キロにある。
 勤務先の福岡支社在任中からお世話になっているFMラジオ局、クロスエフエム(福岡県)の栗田善太郎さんがナビゲーターを務める番組「Urban Dusk」(月曜~木曜午後5~8時)で8月2日にニューファンドランド島のことをご紹介した際に「カナダの同じような地域にあるため、ニューファンドランド島とプリンスエドワード島は福岡県で言うところの福岡市と北九州市のようなライバル意識があります」と今回のニューファンドランド島に滞在中の逸話をご紹介した。
 「食事でおいしいジャガイモが出てきて、プリンスエドワード島はジャガイモで有名なので『これはプリンスエドワード島の名物のジャガイモなのですか?』と尋ねると、非常に物腰軟らかな方が『違います!これは地元産のジャガイモなんです』とはっきりと否定してライバル意識を明確に出していました」
 2018年に訪れたプリンスエドワード島は「『赤毛のアン』の世界を堪能できる素晴らしい島です」と振り返った上で、「ニューファンドランド島も本当に素晴らしく甲乙付けがたい」とご紹介した。次回から美しいニューファンドランド島を巡ることにしよう。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【6】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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