旅の扉

  • 【連載コラム】歩く、撮る、書く。とっておきの風景を探して。
  • 2026年8月5日更新
フォトグラファー、ライター、編集者:小坂 伸一

淡路島に誕生した『THE PASONA natureverse retreat』を歩く[後編]  美食とウェルネスが導く、新しいリトリート体験

美食、ウェルネス、文化が調和する「THE PASONA」。(左上から時計回りに)海を望むウェルネスクリニックのラウンジ、「Terre」の円形テーブル席、音楽ホール「岐美(きみ)」、竹鶴政孝氏の愛称にちなむ「Massan's Bar & Lounge」zoom
美食、ウェルネス、文化が調和する「THE PASONA」。(左上から時計回りに)海を望むウェルネスクリニックのラウンジ、「Terre」の円形テーブル席、音楽ホール「岐美(きみ)」、竹鶴政孝氏の愛称にちなむ「Massan's Bar & Lounge」

前編では、建築家・坂茂氏が設計した「THE PASONA natureverse retreat」の圧倒的な建築空間をご紹介した。しかし、この施設の魅力は建築だけではない。
パソナグループがこの場所で目指しているのは、食、睡眠、医療、運動、文化を通じて心身を整える「未病リトリート」という新しい滞在の形だ。内覧会では、その中核となるガストロノミーとウェルネス施設についても詳しく説明を受けることができた。

◎ミシュランシェフたちが淡路島に集結
施設内には、館内には5つのレストランとバーラウンジが設けられ、そのうち3店はミシュランで星を獲得したシェフが監修・プロデュースを手がける。日本料理、現代精進料理、摘草料理、イノベーティブフレンチと、それぞれ異なるジャンルの第一人者が淡路島に集結した。目指しているのは単なる美食ではない。身体を整え、健康寿命の延伸にもつながる「未病ガストロノミー」である。

◎淡路島の恵みを味わう5つの食体験
創作割烹「淡路東迎」を監修するのは、日本料理店「おおさか料理 淺井東迎」の店主・東迎高清氏。和食を軸に沖縄の食文化も取り入れ、各地から厳選した食材と淡路島の旬を独創的な一皿へと昇華させる。
現代精進料理「淡路宗胡」は、東京・愛宕の名店「醍醐」でミシュラン二つ星を獲得し、その後「宗胡」を開いた野村大輔氏がプロデュース。伝統的な精進料理を現代的な感性で再構築した料理を提供する。

淡路島の食材を「未病ガストロノミー」という視点で表現するレストラン群。(左上から時計回りに)創作割烹「淡路東迎」の店内、季節の恵みを生かした料理、現代精進料理「淡路宗胡」の店内、旬の野菜を主役にした一皿zoom
淡路島の食材を「未病ガストロノミー」という視点で表現するレストラン群。(左上から時計回りに)創作割烹「淡路東迎」の店内、季節の恵みを生かした料理、現代精進料理「淡路宗胡」の店内、旬の野菜を主役にした一皿

摘草料理「淡路美月」をプロデュースするのは、京都・美山荘四代目で、『ミシュランガイド京都・大阪2026』で三つ星を獲得した中東久人氏。野山の恵みと淡路島の旬を融合させ、日本料理の原点ともいえる摘草料理を現代に表現する。

イノベーティブフレンチ「Terre」は、パリのミシュラン一つ星レストラン「Restaurant Sola」のオーナーシェフ・鍋多光介氏が監修。淡路島の食材にフランス料理の技法と日本の発酵文化を融合させ、「未病ガストロノミー」を象徴する一皿を生み出している。

そして、本格鮨店「鮨 美波」は、淡路島の人気鮨店「亙(のぶ)」が監修。淡路島近海で水揚げされた旬の魚介を主役に、この土地ならではの海の恵みを存分に味わわせてくれる。

京都の名店「美山荘」四代目・中東久人氏がプロデュースする摘草料理「淡路美月」と、本格鮨店「鮨 美波」。(左上から時計回りに)「淡路美月」の店内、野山の恵みと淡路島の旬を融合させた一皿、「鮨 美波」の店内、淡路島近海の旬魚を握る本格鮨zoom
京都の名店「美山荘」四代目・中東久人氏がプロデュースする摘草料理「淡路美月」と、本格鮨店「鮨 美波」。(左上から時計回りに)「淡路美月」の店内、野山の恵みと淡路島の旬を融合させた一皿、「鮨 美波」の店内、淡路島近海の旬魚を握る本格鮨

ジャンルは異なっていても共通しているのは、淡路島という土地への深い敬意だ。肉、魚、野菜、発酵食材。島の豊かな食文化を、それぞれの料理人が独自の視点で表現している。

◎「マッサン」の名を受け継ぐバーラウンジ

海を望む「Massan's Bar & Lounge」。日本のウイスキーづくりの礎を築いた竹鶴政孝氏の愛称「マッサン」を冠し、孫の竹鶴孝太郎氏が監修を務める。ウイスキー文化を受け継ぐ一方、未病リトリートという施設の理念に合わせ、ノンアルコールカクテル(モクテル)も充実。夕暮れに染まる瀬戸内海を眺めながら、自分らしい一杯をゆっくりと味わう。淡路島の自然を感じながら過ごす、そんな穏やかな時間もまた、「THE PASONA natureverse retreat」が提案するウェルネス体験の一つなのだ

◎「淡路には、すべてが揃っている」
今回、フレンチレストラン「Terre」を監修する鍋多光介シェフに話を伺う機会があった。
「淡路島の食材で特に魅力を感じるものは何ですか」
そう尋ねると、シェフは間を置かずに、こう答えてくれた。
「淡路には、すべてが揃っているんです」
その言葉がとても印象的だった。通常、料理人が土地を評価するときには、魚介が新鮮、野菜が素晴らしい、といった話になることが多い。しかし鍋多シェフが語ったのは、もっと大きな視点だった。

イノベーティブフレンチ「Terre」を監修する鍋多光介氏。パリのミシュラン一つ星レストラン「Paris 5区 Restaurant Sola」のオーナーシェフとして活躍し、淡路島の豊かな食材を生かした「未病ガストロノミー」を提案するzoom
イノベーティブフレンチ「Terre」を監修する鍋多光介氏。パリのミシュラン一つ星レストラン「Paris 5区 Restaurant Sola」のオーナーシェフとして活躍し、淡路島の豊かな食材を生かした「未病ガストロノミー」を提案する

淡路島は、玉ねぎの産地として知られる一方、兵庫県内で生産される但馬牛子牛の6、7割を担う、日本有数の繁殖地でもある。ここで育った子牛は、神戸ビーフの素牛として県内の肥育農家へ渡り、日本を代表するブランド牛を支えている。また、島内では淡路ビーフも生産され、海からは生シラスやアカウニ、鱧(ハモ)など、四季折々の豊かな魚介が揚がる。

肉、魚介、野菜――料理人が求める食材が、この島には驚くほど揃っている。淡路島が「御食国(みけつくに)」として古くから朝廷に食材を献上してきた歴史を思えば、その言葉にも納得がいく。この施設のレストランが目指しているのは、単なる高級レストランではなく、淡路島という土地そのものを味わう体験なのだろう。

◎滞在そのものが健康プログラムになる
食と並ぶもう一つの柱がウェルネス。施設全体を通して掲げられているキーワードは「未病」。病気になる前の状態に着目し、心身のバランスを整えることで健康を維持するという考え方である。館内には専門スタッフによるカウンセリングや各種プログラムが用意されており、滞在者一人ひとりに合わせたサポートが行われるという。4階にはウェルネスクリニックも設置され、西洋医学と東洋医学の双方の視点からアプローチする体制が整えられている。

(左上から時計回りに)ジムトレーニング、タラソテラピー、海を望むテラスでのヨガ、エアリアルヨガ。運動、リラクゼーション、マインドフルネスを組み合わせ、一人ひとりのコンディションに合わせて心身を整え、健康寿命の延伸をサポートするzoom
(左上から時計回りに)ジムトレーニング、タラソテラピー、海を望むテラスでのヨガ、エアリアルヨガ。運動、リラクゼーション、マインドフルネスを組み合わせ、一人ひとりのコンディションに合わせて心身を整え、健康寿命の延伸をサポートする

◎客室にも息づく「整える」という思想
客室にも、この施設のコンセプトが色濃く反映されている。全室には温泉を完備。泉質はナトリウム―塩化物温泉で、保温性に優れ、湯上がり後も身体の温かさが持続するという。滞在中は好きな時間に温泉を楽しみながら、心身をゆっくりとリセットできる環境が整えられている。
さらに最上級カテゴリーの「プレジデンシャル スイート」の客室には、ニトリとミネベアミツミが共同開発した「センサーベッド」を導入。大阪・関西万博の「PASONA NATUREVERSE」館で注目を集めた「未来の眠り」のコンセプトベッドに採用された技術を実用化したもので、睡眠中の呼吸や心拍、寝返りなどを検知しながら、一人ひとりに合わせた快適な睡眠環境をサポートする。

200㎡を超える広さを誇り、最先端のセンサーベッドも備えた、最上級カテゴリーの「プレジデンシャル スイート」。(左上から時計回りに)ゆったりとしたダイニング、和の設えを取り入れたベッドルーム、リビングルーム、瀬戸内海を一望する天然温泉のビューバスzoom
200㎡を超える広さを誇り、最先端のセンサーベッドも備えた、最上級カテゴリーの「プレジデンシャル スイート」。(左上から時計回りに)ゆったりとしたダイニング、和の設えを取り入れたベッドルーム、リビングルーム、瀬戸内海を一望する天然温泉のビューバス

温泉で身体を癒やし、テクノロジーが睡眠の質を高める――。単に宿泊するための部屋ではなく、滞在そのものがウェルネスプログラムの一部として設計されていることが伝わってくる。

◎淡路島という土地の力を体感する場所
今回の内覧会で強く感じたのは、「THE PASONA natureverse retreat」が単なるラグジュアリーホテルではないということだ。坂茂氏が設計した自然とつながる建築。ミシュランシェフたちが表現する淡路島の食。そして、一人ひとりの心身に寄り添うウェルネスプログラム。そのすべてが目指しているのは、淡路島という土地の力を生かして、心と身体を整え、健康寿命を延ばすことにある。建築に感動する人も、美食を求める人も、健康と向き合いたい人も、この場所で過ごす時間を通して、自分自身の身体や暮らしを見つめ直すきっかけを得られるだろう。

「淡路には、すべてが揃っている」
鍋多シェフの言葉は、この施設の本質を物語っているように思えた。自然、食、建築、そして最先端のウェルネス。そのすべてを通して、自分の心身の状態に気づき、整え、健康寿命を延ばしていく。施設を見学し、関係者の話に耳を傾けるなかで、「THE PASONA natureverse retreat」が目指しているのは、そんな新しいリトリートのかたちなのだと強く感じた。

THE PASONA natureverse retreat HP
https://thepasona.com/


→淡路島に誕生した『THE PASONA natureverse retreat』を歩く[前編]
坂茂が描いた「海と山、その間に佇む美」に戻る


取材協力:パソナクループ

フォトグラファー、ライター、編集者:小坂 伸一
海外旅行ガイドブックの編集長を経て独立。現在はフォトグラファー、ライター、編集者として、企画立案から取材、撮影、執筆、編集までを一貫して手がける。旅や文化、自然をテーマにしたコンテンツ制作を得意とし、書籍やパンフレットなどの紙媒体からウェブまで、幅広いジャンルで活動している。映画やドラマのロケ地を巡る旅をライフワークとしており、雑誌連載などを通じて、その魅力を発信中。

小坂 伸一 公式ウェブサイト「La BUSSOLA」:https://www.la-bussola.info
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