旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2024年9月16日更新
共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

遊園地のレストランのステーキは驚愕の美味、ニューヨークの有名店を超えた! シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第7回】

△ニューヨークのブルックリン地区にあるピーター・ルーガー・ステーキハウスの看板をバックに走るニューヨーク地下鉄(2024年5月、大塚圭一郎撮影)zoom
△ニューヨークのブルックリン地区にあるピーター・ルーガー・ステーキハウスの看板をバックに走るニューヨーク地下鉄(2024年5月、大塚圭一郎撮影)

(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第6回】から続く)
 夏の猛暑で疲弊していた今年7月に向かった遊園地「富士急ハイランド」(山梨県富士吉田市)の園内のレストラン「フードスタジアム」では、夏ばて気味だった私を鼓舞してくれるように「暑さに負けるな!夏限定!肉フェア」を開催していた。肉フェアで提供されていた甲州ワインビーフのステーキは一口味わっただけで驚愕するほどの美味で、5月に訪れたアメリカの最大都市ニューヨークの有名ステーキ店「ピーター・ルーガー・ステーキハウス」の味を超えたとの印象を抱いた(個人の感想で、個人差があります)。

△ニューヨーク・ブルックリンのピーター・ルーガー・ステーキハウス(2024年5月、大塚圭一郎撮影)zoom
△ニューヨーク・ブルックリンのピーター・ルーガー・ステーキハウス(2024年5月、大塚圭一郎撮影)

 【ピーター・ルーガー・ステーキハウス】アメリカ・ニューヨークのブルックリン地区で1887(明治20)年に創業したステーキハウス。牛肉の滋味を引き出すためのドライエージング(乾燥熟成)手法を使い、温度500度の高熱ブロイラーで焼き上げたサーロインとフィレのTボーンステーキが看板メニュー。
 店名は創業者であるドイツ系移民、ピーター・ルーガーに由来する。店の近くとニューヨーク中心部のマンハッタンを結ぶウィリアムスバーグ橋が1903年に開通したことでマンハッタンからの来店客が押し寄せるようになり、店の名声が一気に高まった。2021年10月には東京店(東京・恵比寿)を開業しており、2人用のステーキ「ステーキ・フォア2」の価格は3万4千円。

△ニューヨークのブルックリンにあるピーター・ルーガー・ステーキハウスでTボーンステーキを味わう筆者(2024年5月)zoom
△ニューヨークのブルックリンにあるピーター・ルーガー・ステーキハウスでTボーンステーキを味わう筆者(2024年5月)

 ▽猛暑を乗り切る体験を重ね…
 富士急ハイランドに足を踏み入れて以来、「これでもか」と言わんばかりに猛暑を乗り切るために清涼感を味わえそうな体験を重ねてきた。
 冗談満載の看板に書かれた「オヤジギャグ」に「サブっ」と自分のことを棚に上げてつぶやき、ボートが坂を滑り降りるアトラクション「クールジャッパーン」が着水した際にずぶぬれになった。
 乗れるのは54歳までと〝定年〟が迫ったジェットコースターに乗り込んで冷風を浴び、肝を冷やそうとお化け屋敷「戦慄迷宮(せんりつめいきゅう)~闇に蠢(うごめ)く病棟~」を全館踏破した。

△富士急ハイランドのレストラン「フードスタジアム」に立てられていた肉フェアの看板(2024年7月、山梨県富士吉田市で大塚圭一郎撮影)zoom
△富士急ハイランドのレストラン「フードスタジアム」に立てられていた肉フェアの看板(2024年7月、山梨県富士吉田市で大塚圭一郎撮影)

 ▽普通のレストランに驚愕のメニュー
 残るは食の夏バテ対策だとばかりに、「暑さに負けるな!夏限定!肉フェア」を実施していたフードスタジアムに飛び込んだ。
 店内のフードコートの名称が「高B舎」や「戦慄麺Q」などとアトラクション名をもじった「お笑い」のセンスは富士急ハイランドらしいものの、一見すると遊園地にありがちな普通のレストランだ。
 ところが、食事を注文するために券売機のメニュー画面を眺めていると、肉フェアの一環で普通のレストランではお目にかからないような驚愕のメニューが目に飛び込んできた。

△フードスタジアムで肉フェア期間中に提供された「甲州ワインビーフステーキセット」(2024年7月、大塚圭一郎撮影)zoom
△フードスタジアムで肉フェア期間中に提供された「甲州ワインビーフステーキセット」(2024年7月、大塚圭一郎撮影)

 ▽価格は5桁!
 その名は「甲州ワインビーフステーキセット」で、「山梨県を代表する甲州牛を贅沢に使ったステーキプレート」という触れ込みだった。1人分で価格は1万円、何と5桁だ!
 甲州ワインビーフは、地元山梨県の特産品のワインを搾って残ったブドウの搾り粕を混ぜた飼料を食べさせて育てたウシの肉だ。関連サイトによると、ポリフェノールが多く含まれたぶどうの搾り粕の飼料を食べさせることで肉の酸化が進みにくく、肉の臭みも抑えられるとされる。
 日々の昼食代をケチっている私の第一声は「なにコレ!?高っ!」と、ニュースサイト「47NEWS」や「Yahoo!ニュース」などに連載中のコラム名(『鉄道なにコレ!?』)に引っかけたような奇声を発してしまった(これは広告です)。
一方、今年5月までの勤務先のワシントン支局駐在中に新型コロナウイルス禍後の物価高と、追い打ちを掛ける円安ドル高で金銭感覚が麻痺して「ポチッ」と押したくなってしまう自分もいた…。節約と食欲の綱引きの結果は、火を見るよりも明らかだった。

△夕暮れの富士急ハイランド(2024年7月、富士吉田市で大塚圭一郎撮影)zoom
△夕暮れの富士急ハイランド(2024年7月、富士吉田市で大塚圭一郎撮影)

 ▽〝高級〟ステーキを食べた結果は…
 満を持して甲州ワインビーフステーキが手元に届くと、第一印象は「焼き肉のように薄いステーキ肉だなあ」とやや肩を落とした。
 しかし、一口食べた感想は「なにコレ!?めちゃくちゃおいしい!」だった。柔らかい肉は一口かんだだけで肉の滋味が口いっぱいに広がり、まろやかながら実に奥行きが深い味なのだ。
 添えられていたタレとも合うのだが、塩を付けるだけでも十分に堪能できる。その味わいは、今年5月にニューヨーク・ブルックリンのピーター・ルーガー・ステーキハウスで食したTボーンステーキを超越しているというのが個人的な受け止めだ。
 1万円というのは遊園地のレストランのメニューとしては高額に感じられたものの、「この高クオリティーならばリーズナブルかもしれない」とさえ思えた。同じく8月31日に終了した肉フェアのメニューの一つで、甲州ワイン豚の韓国風焼き肉「甲州ワイン豚のサムギョプサル」(2200円)も美味だった。
 かくして暑さを忘れさせてくれる冷涼感を求めて富士急ハイランドを訪れた私は、懐も寒くなった―。
(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」最終回【第8回】に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。2024年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
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