旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2024年8月24日更新
共同通信社デジタルコンテンツ部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

肝を冷やすお化け屋敷、猛暑にうってつけ!?改装オープンの「戦慄迷宮」に潜入 シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第6回】

△富士急ハイランドの「戦慄迷宮」の舞台となる「慈急総合病院」跡の建物(いずれも2024年7月、山梨県富士吉田市で大塚圭一郎撮影)zoom
△富士急ハイランドの「戦慄迷宮」の舞台となる「慈急総合病院」跡の建物(いずれも2024年7月、山梨県富士吉田市で大塚圭一郎撮影)

(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第5回】から続く)
 真夏の猛暑の中で遊園地「富士急ハイランド」(山梨県富士吉田市)で、涼しさを味わうには肝を冷やすのが近道とばかりにお化け屋敷に潜入した。2024年7月20日にリニューアルオープンした「戦慄迷宮(せんりつめいきゅう)~闇に蠢(うごめ)く病棟~」は「身の毛もよだつ恐ろしさから途中でリタイアする人が続出!」という触れ込みで、富士急ハイランドによるとリタイア率が10%を超える日もあるとか。さて、効果のほどは―。

△戦慄迷宮の入り口にある注意事項を記した看板zoom
△戦慄迷宮の入り口にある注意事項を記した看板

 【富士急ハイランドのお化け屋敷】来場者が建物内を歩き、亡霊役を演じる人らが脅かす仕掛けのホラー型アトラクション(遊戯施設)。ホテル跡の廃墟という設定だった一時期を除き、廃業した病院の跡地という設定になっている。1999年に「呪われた病棟」の名称で開設され、2001年のリニューアル後に「戦慄迷宮」の名称が使われるようになった。「戦慄迷宮~闇に蠢く病棟~」の利用料は、原則として自由にアトラクションを利用できるフリーパスを持っている人ならば1組当たり4千円(4人まで)、フリーパスがない場合は1組8千円(4人まで)がかかる。

△慈急総合病院跡の建物は不気味な雰囲気が漂う…zoom
△慈急総合病院跡の建物は不気味な雰囲気が漂う…

 ▽舞台の病院が廃業した理由とは…
 「戦慄迷宮」は不気味な外観の2階建ての施設内を来場者が歩くウオークスルータイプで、人間が亡霊役を演じて脅かす。
 1999年に開設した「呪われた病棟」を手始めに改装を重ね、歩行距離の全長は約900メートルと当初(約500メートル)の2倍弱となった。富士急ハイランドは、踏破するのに40分以上かかると説明している。
 舞台として設定されているのが、富士急ハイランドに冠した「富士急」と引っかけた名称の「慈急総合病院(じきゅうそうごうびょういん)」跡の建物だ。
 もちろんフィクションだが、富士急ハイランドはこの病院がのろわれたお化け屋敷と化した背景を次のように説明している(一部表現は筆者の判断で改編)。
 「1893年に地域コミュニティに基本的な医療サービスを提供する小規模な診療所としてスタートし、次第に規模と名声を拡大して大規模な総合病院となった。しかし、1980年代に入ると、臓器売買や非倫理的な医療実験を実施して多くの犠牲者を出していたという前代未聞の忌まわしいスキャンダルが発覚した。社会的な非難を浴び、89年に閉院に追い込まれた。閉院後に病院の建物は放置されて廃墟化した…」

△殺人罪で指名手配された慈急総合病院の元院長。戦慄迷宮で巡っている途中で消息を知ることになるzoom
△殺人罪で指名手配された慈急総合病院の元院長。戦慄迷宮で巡っている途中で消息を知ることになる

 ▽ホラー動画の〝二度漬け〟で早々にリタイア!?
 慈急総合病院のこのような怪奇的な歴史を来場者に知らせるため、戦慄迷宮では最初に身の毛がよだつような動画を上映する。暗闇に包まれ、病院時代の〝残り香〟である消毒液のにおいが鼻を突く中での観賞は相当刺激的だ。
追い打ちを掛けるようにグループごとに個別の部屋に案内され、再び猟奇的な動画を目にすることになる。
 ホラー動画の〝二度漬け〟により、富士急ハイランドの関係者は「動画を見ただけで怖さに耐えられず、早々にリタイアする来場者も出てくると期待している」と打ち明ける。ただ、個別の部屋で動画を流すのにはより大きな理由がある。
来場者同士が一緒になって大勢で歩き、怖さが軽減されてしまうのを避けるためなのだ。個別の部屋での動画が終了後、係員はグループごとにコースを進むように案内しており、次のグループと十分な距離を確保しようと腐心していた。

△戦慄迷宮のホラー感に満ちた土産物売り場(プライバシー保護のため画像を一部加工しています)zoom
△戦慄迷宮のホラー感に満ちた土産物売り場(プライバシー保護のため画像を一部加工しています)

 ▽「怖くない」と思えてしまう理由は…
 個別の部屋から出るように案内された後、係員から「怖いのは大丈夫ですか?」と質問された。私は「全く平気です」と即答したのだが、種明かしをするとこんな理由がある。
 お化け屋敷の亡霊役はどんなに大声を出したり、物音を立てたり、来場者を追ったりしても、来場者に触れることは絶対にないからだ。幽霊役が手出しをしてくることはないという絶対的な安心感がある以上、幽霊役の動きはまるで劇場の客席からミュージカルを見ているように受け止めてしまうのだ。
 よって、朽(く)ち果てた霊安室や、血まみれの医療リネン室などを通りながらも、私は壁面に貼られているポスターを冷静に読破する余裕さえあった。ポスターの末尾にある病院名の表記は「慈急診療所」と「慈急病院」、「慈急総合病院」の3種類があった。「次第に規模と名声を拡大して大規模な総合病院となった」だけに、昔ながらの「診療所」の呼び方も続いていたのかと推察した。
 また、壁面のカレンダーが閉鎖した1989年のままになっているのも心憎い仕掛けだ。

△慈急総合病院の前にある慈急バスの「慈急病院前」停留所。時刻表は空白だったzoom
△慈急総合病院の前にある慈急バスの「慈急病院前」停留所。時刻表は空白だった

 ▽診察結果は〝職業病〟!?
 中には「患者:がんを早期発見できる機会が入ったと聞いたのですが?」と記された張り紙もあり、「『機会』は誤変換で、正しくは『機械』だ」と独り言で突っ込んでいた。廃墟と化した病院だけに医師の診察は受けられなかったにもかかわらず、思わず自らの〝職業病〟を露呈しまった…。
 同じく私の〝職業病〟で、つい展開を先読みしてしまう癖があることも恐怖感を和らげてしまった。改装の目玉には過去最長となる直線の廊下、過去最大の最終部屋もあるが、これらの場所に立ち入ると「間違いなく亡霊役がいるな」と先読みしてしまうのだ。
 結論としては、私が戦慄迷宮で肝を冷やす場面は全くなかった(個人の感想で、個人差があります)。ただ、約50分にわたって涼しい屋内で避暑ができたので、これでよしとしよう。
(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第7回】に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社デジタルコンテンツ部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年5月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
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