(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第5回】から続く)
真夏の猛暑の中で遊園地「富士急ハイランド」(山梨県富士吉田市)で、涼しさを味わうには肝を冷やすのが近道とばかりにお化け屋敷に潜入した。2024年7月20日にリニューアルオープンした「戦慄迷宮(せんりつめいきゅう)~闇に蠢(うごめ)く病棟~」は「身の毛もよだつ恐ろしさから途中でリタイアする人が続出!」という触れ込みで、富士急ハイランドによるとリタイア率が10%を超える日もあるとか。さて、効果のほどは―。
【富士急ハイランドのお化け屋敷】来場者が建物内を歩き、亡霊役を演じる人らが脅かす仕掛けのホラー型アトラクション(遊戯施設)。ホテル跡の廃墟という設定だった一時期を除き、廃業した病院の跡地という設定になっている。1999年に「呪われた病棟」の名称で開設され、2001年のリニューアル後に「戦慄迷宮」の名称が使われるようになった。「戦慄迷宮~闇に蠢く病棟~」の利用料は、原則として自由にアトラクションを利用できるフリーパスを持っている人ならば1組当たり4千円(4人まで)、フリーパスがない場合は1組8千円(4人まで)がかかる。
▽舞台の病院が廃業した理由とは…
「戦慄迷宮」は不気味な外観の2階建ての施設内を来場者が歩くウオークスルータイプで、人間が亡霊役を演じて脅かす。
1999年に開設した「呪われた病棟」を手始めに改装を重ね、歩行距離の全長は約900メートルと当初(約500メートル)の2倍弱となった。富士急ハイランドは、踏破するのに40分以上かかると説明している。
舞台として設定されているのが、富士急ハイランドに冠した「富士急」と引っかけた名称の「慈急総合病院(じきゅうそうごうびょういん)」跡の建物だ。
もちろんフィクションだが、富士急ハイランドはこの病院がのろわれたお化け屋敷と化した背景を次のように説明している(一部表現は筆者の判断で改編)。
「1893年に地域コミュニティに基本的な医療サービスを提供する小規模な診療所としてスタートし、次第に規模と名声を拡大して大規模な総合病院となった。しかし、1980年代に入ると、臓器売買や非倫理的な医療実験を実施して多くの犠牲者を出していたという前代未聞の忌まわしいスキャンダルが発覚した。社会的な非難を浴び、89年に閉院に追い込まれた。閉院後に病院の建物は放置されて廃墟化した…」
▽ホラー動画の〝二度漬け〟で早々にリタイア!?
慈急総合病院のこのような怪奇的な歴史を来場者に知らせるため、戦慄迷宮では最初に身の毛がよだつような動画を上映する。暗闇に包まれ、病院時代の〝残り香〟である消毒液のにおいが鼻を突く中での観賞は相当刺激的だ。
追い打ちを掛けるようにグループごとに個別の部屋に案内され、再び猟奇的な動画を目にすることになる。
ホラー動画の〝二度漬け〟により、富士急ハイランドの関係者は「動画を見ただけで怖さに耐えられず、早々にリタイアする来場者も出てくると期待している」と打ち明ける。ただ、個別の部屋で動画を流すのにはより大きな理由がある。
来場者同士が一緒になって大勢で歩き、怖さが軽減されてしまうのを避けるためなのだ。個別の部屋での動画が終了後、係員はグループごとにコースを進むように案内しており、次のグループと十分な距離を確保しようと腐心していた。
▽「怖くない」と思えてしまう理由は…
個別の部屋から出るように案内された後、係員から「怖いのは大丈夫ですか?」と質問された。私は「全く平気です」と即答したのだが、種明かしをするとこんな理由がある。
お化け屋敷の亡霊役はどんなに大声を出したり、物音を立てたり、来場者を追ったりしても、来場者に触れることは絶対にないからだ。幽霊役が手出しをしてくることはないという絶対的な安心感がある以上、幽霊役の動きはまるで劇場の客席からミュージカルを見ているように受け止めてしまうのだ。
よって、朽(く)ち果てた霊安室や、血まみれの医療リネン室などを通りながらも、私は壁面に貼られているポスターを冷静に読破する余裕さえあった。ポスターの末尾にある病院名の表記は「慈急診療所」と「慈急病院」、「慈急総合病院」の3種類があった。「次第に規模と名声を拡大して大規模な総合病院となった」だけに、昔ながらの「診療所」の呼び方も続いていたのかと推察した。
また、壁面のカレンダーが閉鎖した1989年のままになっているのも心憎い仕掛けだ。
▽診察結果は〝職業病〟!?
中には「患者:がんを早期発見できる機会が入ったと聞いたのですが?」と記された張り紙もあり、「『機会』は誤変換で、正しくは『機械』だ」と独り言で突っ込んでいた。廃墟と化した病院だけに医師の診察は受けられなかったにもかかわらず、思わず自らの〝職業病〟を露呈しまった…。
同じく私の〝職業病〟で、つい展開を先読みしてしまう癖があることも恐怖感を和らげてしまった。改装の目玉には過去最長となる直線の廊下、過去最大の最終部屋もあるが、これらの場所に立ち入ると「間違いなく亡霊役がいるな」と先読みしてしまうのだ。
結論としては、私が戦慄迷宮で肝を冷やす場面は全くなかった(個人の感想で、個人差があります)。ただ、約50分にわたって涼しい屋内で避暑ができたので、これでよしとしよう。
(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第7回】に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)