(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第4回】から続く)
盛夏に一服の清涼感を味わうために訪れた遊園地「富士急ハイランド」(山梨県富士吉田市)で、目当ての一つは投資額が約45億円に上った2023年7月導入の最新絶叫マシン「ZOKKON(ゾッコン)」に乗ることだった。富士急ハイランドによると、バイク型の「爽快MAXのコースター」で走り出すと「胸が高鳴るような心地よい体験」が待ち受けているという触れ込みだ。冗談満載の富士急ハイランドらしくない〝クール路線〟に聞こえるものの、初乗車のために乗り場に向かうとあれこれと突っ込みたくなった―。
【富士急ハイランドのジェットコースターの歴史】富士急ハイランドの前身の「富士ラマパーク」は開業2年後の1966年、コースが全長1380メートルとジェットコースターとしては「長さ世界一」と銘打った「ジャイアントコースター」を導入。富士急ハイランドはその後も新機種を積極的に投入し、一例として2回宙返りする「ダブルループ」を80年に、ジェットコースターで世界一の高さ70メートルから落下する「ムーンサルトスクランブル」を83年に、「日本発のシューティングコースター」との触れ込みの「ゾラ7」を88年にそれぞれ営業を始めた。
主な現役機種には「ZOKKON(ゾッコン)」のほかに、高さ79メートル、最大落差70メートル、最高時速130キロがそれぞれ1997年の開業時にギネス世界記録に認定された「FUJIYAMA(フジヤマ)」、総回転数14回が営業を始めた2006年にギネス世界記録を受けた「ええじゃないか」、最大落下角度121度が11年の稼働開始時にギネス世界記録を受けた「高飛車(たかびしゃ)」がある。
▽「胸が高鳴るようなスリリングで心地よい体験」
ゾッコンは、オートバイのような外観のライド本体に乗り込んでハンドルを握りしめ、曲線や起伏に満ちた〝テストコース〟を力走する。途中で加速したり、逆走したりする場面もあるなど風を浴びながら爽快に駆けることができ、富士急ハイランドは「胸が高鳴るようなスリリングで心地よい体験」だと胸を張る。
夜には発光ダイオード(LED)照明が鮮やかに輝く14人乗りのライドには緑色と青色、ピンク色の3編成があり、足元にスピーカーからは音楽が流れる。この曲がさわやかで聴き心地が良いのだが、手がけたバンドの名前は何と「SEKAI NO OWARI」だ。
「ジェットコースターに乗りながら『世界の終わり』に耳を傾けるとは…」とうなった。
▽回転する三角形のロゴに似ているのは…
期待を込めて乗り場へ向かうと、案内画面ではゾッコンのオリジナルロゴが横回転している。富士山のような三角形に「Q」の文字をあしらった富士急グループのロゴを模しているのだが、似ているように感じたのが別のテーマパークにあったアトラクション(遊戯施設)のロゴだ。
大阪市のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ)にあった劇場型アトラクション「ターミネーター2:3―D」に登場する「サイバーダイン社」のロゴだ。サイバーダイン社のロゴは三角形の真ん中に「Y」の文字をあしらっており、同じように画面の中でロゴが横回転していた。ゾッコンでは代わりに真ん中の文字が「Q」になったロゴが、同じように横回転している様子を眺めるのはどこか滑稽(こっけい)だ。
▽「ハンドル」と聞いて思い浮かべるのは
富士急ハイランドの他の絶叫系アトラクションと同じように、ゾッコンでも乗車前に係員から正しい搭乗姿勢のレクチャーを受ける。ライドが最初に急加速し、コースが急旋回し、激しい横揺れ、さらには逆方向に走るという「非常に激しいコースターです!」と注意を促した上で、3点に留意して乗車するように促す。
それらは顔と体を正面に向けることと、ハンドルにつかまって体を支えること、突然の急加速に備えて姿勢を維持することで、係員は利用者に標語の「正面、ハンドル、急加速」と唱和するように求める。
だが、ハンドルと聞くと、自動車の運転席に付いているような丸形のハンドルを思い浮かべて当惑する利用者もいるのではないか。棒状なのを明確にするために標語を「正面、バーハンドル、急加速」に変えた方が良いのではないかと思った。
▽もしや12年前の提案が生かされた!?
ゾッコンのライドは急加速してトンネルを抜けると空に向かって駆け上がり、何とその先のレールは途切れている。この展開を目の当たりにし、「もしや12年前の提案が生かされたのか!?」とやや興奮した。
2012年に富士急ハイランドを訪れた際、富士急行の堀内光一郎社長と人気絵本「かいけつゾロリ」の作者、原ゆたかさんを囲んでの懇談で、原さんが「『かいけつゾロリ』にはレールがなくなるジェットコースターという話が出てくるのですよ」と紹介した。
私が「先のレールが見えなくなるジェットコースターを造ったら面白いですよね」と提案すると、堀内社長は「でも、そんなことをしたら脱線してしまう」と首をかしげた。
そこで、「乗客が怖がるように先のレールが見えなくすればいいのです」と返答した。
行き止まりで停止し、逆走したゾッコンはまさに私が口にしたアイデアを具現化していたのだ。
ただし、日本の代表的なジェットコースターを抱える富士急ハイランドの新コースター開発ともなれば大勢の知恵者が集まる。当然ながら、私の思いつきを超える豊富なアイデアを浮かべたのは疑いようがない。
それでも、提案していた通りのジェットコースターに乗ることができたのは「爽快MAX」の体験で、一度乗り込むとゾッコンにさせられる〝クール路線〟そのものだった。
(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第6回】に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)