(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第3回】から続く)
夏の真っ盛りに訪れた遊園地「富士急ハイランド」(山梨県富士吉田市)で看板アトラクション(遊戯施設)となっているジェットコースターに乗り込めば、疾走中の風で涼むことができるのではないかと考えた。2006年の営業開始時に総回転数14回がギネス世界記録を受けた「ええじゃないか」に向かうと、入り口の看板を見ただけでぞっとする話に首筋が寒くなった。乗車できる年齢制限が54歳に引き下げられており、絶叫マシンが大好きな私も搭乗できなくなる〝定年〟まで4年に満たない―。
【富士急ハイランドのアトラクションの年齢上限】富士急ハイランドのアトラクションのうちジェットコースターの「ええじゃないか」と「高飛車(たかびしゃ)」の利用できる年齢上限を54歳と定めている。他のジェットコースターの「FUJIYAMA(フジヤマ)」と「ZOKKON(ゾッコン)」、ボートに乗って高さ30メートルの滑り台から落下する「クールジャッパーン」、高速回転ブランコ「鉄骨番長」などの絶叫系アトラクションは年齢上限を64歳としている。
▽一気に10歳も〝若返り〟
「ええじゃないか」の入り口にある注意事項を記した看板に、「利用できる方」の条件として「54歳以下の方」と明記されていた。私は勤務先のワシントン支局に駐在していたため約5年ぶりの富士急ハイランド訪問となり、64歳が上限だと記憶していただけに驚いた。
富士急ハイランドを抱える富士急行によると、2023年6月にジェットコースター「ええじゃないか」と「高飛車」の年齢上限を64歳から54歳へ一気に10歳も〝若返り〟させたという。
搭乗できる猶予が4年に満たなくなった私にはゆゆしき事態で、乗り込むのは「今でしょ!」と乗車口へ向かった。
▽背景に「ド・ドドンパ」での負傷申告
背景にあるのは、富士急ハイランドの安全対策強化に向けたアトラクション運営態勢の見直しだ。出発から1・56秒で時速180キロに達する加速力が売りだったジェットコースター「ド・ドドンパ」は利用者から骨折したなどの負傷の申告が相次いだ問題を受けて2021年8月から営業を休止し、24年3月には営業終了を正式に決めた。
富士急行はド・ドドンパについて「お客様の負傷リスクと(走行中の)逆走停止リスクを完全に除去し、安全運行を確信できる手段についてメーカーと協議を重ねてきたが、具体化は困難であるという結論に至った」とし、「安全第一の遊園地営業という企業としての社会的責任を果たすべく営業終了を決定した」と説明した。
私はド・ドドンパ、およびコースの一部をリニューアル前の「ドドンパ」の両方に計10回近く乗ったものの何のトラブルも起きていない。ただし、絶叫マシンも安全最優先が前提となるだけに、万全な態勢を確保できなかった以上は継続できなかったのは致し方ないと私は受け止めている。
▽「わっしょい、わっしょい」の標語で意識
富士急ハイランドは併せて、他のアトラクションの安全対策も強化した。特にハードな動きをする「ええじゃないか」と「高飛車」を利用できる年齢の上限を下げたほか、他のジェットコースターなどでも安全に乗ってもらうために「搭乗中は常に正しい姿勢を維持してください」と注意事項を以前よりも強調して伝えるようになった。
「ええじゃないか」では、係員が足をしっかりと下ろしてふくらはぎを押し付ける、安全バーを握って体を支える、頭をヘッドレストに押し付けるという3点を意識して乗るように指導。利用者に覚えてもらうため、手拍子とともに標語の「足、バー、頭、わっしょい、わっしょい」を一緒に唱和してもらうようになった。
乗車している方向とは逆に向かって最高時速126キロで約1・1キロのコースを駆ける「ええじゃないか」は、とにかく「よく回る」のが売りだ。座席が前後方向に回転し、ループで宙返りし、コースをひねった部分でも回るという3種類の回転を楽しめる。
高さ76メートルから垂直で落下する部分もあってスリルがあるのは間違いないのだが、私は座席が回転する仕組みが怖さを〝割引〟しているのではないかと受け止めている。あまりにも回転数が多いのでどこを走っているのかが分からなくなり、「高い場所から落ちる」といった迫力を実感しにくいのだ。
▽最もお気に入りのコースター
これに対し、私が最もお気に入りのジェットコースターが2011年に登場した「高飛車」だ。8人乗りのコースターはスタート時に一気に加速して暗闇の中で宙返りし、最大落下角度121度のえぐるような角度で落下を楽しめるなど起伏に富んだコースが魅力だ。
面白いのは最大落下角度121度の落下を前にして高さ約43メートルまで垂直で上がると、頂上でいったん停止する場面だ。「正面の富士山をご覧ください」と言わんばかりに眺望を楽しめるのだが、あえて停止させることで恐怖感をあおっているようにも感じられ、なんとも滑稽(こっけい)だ。
高飛車を乗る前にも、係員は乗っている間に頭をヘッドレストに押し付け、背中をシートに押し付け、足を床につけて踏ん張るようにと注意を促した。そして、利用者も一緒になって「頭、背中、安全バー」の標語を口にした。
指示された通りに頭と背中を押し付け、足を床につけて踏ん張った姿勢を守ることで、私も〝定年〟までは何とか踏ん張って乗車したい。
(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?」【第5回】に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)