(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【14】」からの続き)
世界遺産に指定されているカナダ東部オンタリオ州のリドー運河で操縦したモーター付きの船舶は、「ハウスボート」の名前通りに船内で寝泊まりできる。私が2023年10月に船内で宿泊するのは同じカナダつながりで、カナダ海軍のフリゲート艦「カルガリー」がアメリカ(米国)海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)から佐世保基地(長崎県佐世保市)へ太平洋と南シナ海を経由して2泊3日で向かった18年以来、約5年ぶりとなった。洋上を進む軍艦と比べると水面は穏やかだが、ハウスボートでも陸酔(おかよ)いが起きるのかどうかが気になっていた―。
【フリゲート艦カルガリー】カナダ海軍の太平洋海上軍(MARPAC)に配備した軍艦の一種のフリゲート艦。全長が134メートル、幅が16メートルあり、1995年に就役した。名称は1988年に冬季五輪が開かれたカナダ西部の大都市カルガリーに由来しており、西部ブリティッシュ・コロンビア州のバンクーバー島のエスキモルト基地を母港とする。前方に航空機やミサイルなどを迎撃する直径57ミリの速射砲を一つ備え、側面には24発のミサイルを設けている。また、後方の甲板にはヘリ1機が発着できるヘリポートも備えている。
日本と米国が2018年10~11月に約2週間実施した共同統合演習「キーン・ソード」にカナダは初めて参加し、カルガリーと補給艦「アストリクス」の2隻が米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)。キーン・ソードは海洋進出を強め、日本を含めた周辺国と軋轢(あつれき)を生じさせている中国をけん制する狙いがあり、カナダはジャスティン・トルドー政権が2017年に発表した新たな国防方針に盛り込まれた「アジア太平洋地域の安全保障への関与強化」に基づいて参加した。
筆者が勤務先の共同通信社から配信したカルガリーに同乗取材した記事のリンク先はこちらから。
「日米演習『初参加』のカナダ軍艦に“潜入” 2泊3日の艦内ルポ 独占取材(1)」
「日米演習『初参加』のカナダ軍艦に“潜入” 大揺れの海上で洋上給油 艦内ルポ(2)」
「【動画】日米演習初参加の軍艦公開 カナダの『カルガリー』」
▽左手に操舵輪、右手にレバー
リドー運河で、船舶免許を持っていない私でも約1時間の出航前講習を受ければ操縦が認められているル・ボート(Le Boat)から借りたハウスボートの2階の甲板にある操縦席に乗り込んでいた。
船が進む方向を調整する操舵輪に左手を置き、速度を制御するスロットルレバーを右手で握りしめながら航行する。担当マネージャーのリサ・マクリーンさんの適格なアドバイスを受けられたおかげで順調に進んだ。
水位が異なる区間を船舶で航行できるようにするための「閘門(こうもん)」のビバリッジロックを抜けると、運河というよりも「湖」と呼ぶべき広々とした水面を進んだ。
▽ポールに載っていたのは…
青空にもくもくと沸き立つ雲や紅葉した木々が水面に反射し、まるで上下が対照になった空間を突き破って進んでいるような気分だ。
船が間を通るように指示する緑色と赤色のポールを先まで見渡すと、上に何かが載った緑色のポールがある。近づいて確認すると、羽を休めているカモメだった。
ビバリッジロックから18・4キロ先に、次の閘門「ナローズロック」があった。その名の通り、湖同士に挟まれてナロー(狭隘)になった水路だ。マクリーンさんの「先に到着した船が通り抜けるので、手前で順番待ちましょう」との助言を受けて船体を手前の岸壁に横付けし、前方の船が通り抜けてから2つのゲートに挟まれた水域に入った。
▽6時間の航行、自動車ならば…
後方のゲートが閉鎖された後、前方のゲートが開いて徐々に水が流れ込んでくる。水位が運河の前方に徐々に近づいてくる時、岸辺で愛犬を連れて日光浴を楽しんでいた女性が「写真を撮ってあげるわ」と声を掛けてくれた。
船と岸辺の間には運河があり、私が現在駐在している米国ならばカメラを渡した瞬間に「あばよ」と持って行かれることも警戒した方がいい展開だ。
しかし、大のカナダファンである私は「ここはカナダだから大丈夫だ」と確信した。お礼を言ってカメラを渡して撮ってもらい、私も「お撮りしましょうか」と申し出たが「せっかくだけれどもいいわ」と言われた。確かに乗船写真を撮影してもらう意義はあっても、船から撮影しても面白い構図になるわけではない。
リドー運河はキングストンまで続いているが、この日の目的地は途中のウエストポートだ。リドー運河から右へ舵を切り、ウエストポート・パブリック・ワーフに滑り込んだ。
スミスフォールズの出港から6時間近くたっていたが、進んだ距離は約44キロ。マクリーンさんの「自動車ならば40分で着く距離よ」という言葉にあぜんとした。
▽ハウスボートの寝心地は
借りたハウスボートの1階には台所と居間、そして4つの寝室がある。寝室にはベッドになる部分に敷くためのマットレス、ブランケット、枕を備えており、それぞれの寝室には洗面所とシャワーも付いている。
船内での宿泊は、2018年11月に日本の沖合を進むカナダ海軍のフリゲート艦「カルガリー」で2泊3日して以来だ。訓練のために銃で武装した乗組員たちの姿に最初は怖じ気づいたが、唯一外部の同乗者だった私の取材に誰もが明るく、快く応じてくれた。艦長らの大らかな人柄も大きかったのだと思うが、撮影禁止区域が一部あったのを除くと艦内のあらゆる区域を見せてくれ、質問に対して恐縮するほど誠実に答えてくれた。
そんな心優しい乗組員たちと3段寝台が並んだ寝室で一緒に過ごしたのはとても良い思い出だ。今でも交流サイト(SNS)でカルガリーの乗組員の活躍ぶりを伝える投稿を見かけると「いいね!」を押している。
一方、忘れられないのが目的地の米海軍佐世保基地で下船した時のことだ。おかよいになり、まるで地震で地面が揺れ続けているような錯覚に陥ったのだ。
ハウスボートも水に浮かんでいるため、翌朝に陸酔いが待ち受けていることを覚悟して就寝した。ところが宿泊施設で過ごしたのと変わらないような寝心地で、起床後に陸に上がっても普段通りだった。
ハウスボートの威力を実感しながら散歩していると、見慣れない光景が目に飛び込んだ。
「アレは何だ!?」
(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」最終回【16】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)