(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【9】」からの続き)
カナダ東部オンタリオ州の東オンタリオ鉄道博物館にさりげなく展示された赤い箱形の貨車「有蓋車」は現役時代、世界初の大量生産車「T型フォード」をオンタリオ州の組み立て工場からカナダ西部へ運ぶという重要な使命を担っていた。大ヒット車を運ぶために東奔西走したが、同博物館のトニー・ハンフリーさんは「代わりに東部へ向かう帰路に何を載せるのかが課題となった」と指摘した。空荷のまま戻る“一方通行”に防ぐために目を付けたのが、カナダが誇る特産品だった。
【T型フォード】アメリカ(米国)の自動車大手、フォード・モーターが1908年に生産を始めた大衆車。英語の車名は「モデルT(MODEL T)」。大量生産によって造るコストを低減し、販売価格を抑えたことで大ヒット商品となり、米国などで自動車が普及するのを後押しした。1927年まで20年弱にわたって製造され、世界での累計販売台数が1500万台を超えた。
▽車を「できるだけ多く運ぶ」工夫
車体が細長い木の板でできた有蓋車は、カナディアン・カー・アンド・ファウンドリーで1927年に製造された。
ハンフリーさんは「T型フォードのシャーシ(基本骨格)をできるだけ多く運べるように器具を使って斜めに立てかけ、シャーシの上部をチェーンで固定して運んでいました」と説明した。シャーシに載せる車体は別の有蓋車で輸送していた。
▽東部へ運搬した特産品は…
車を運搬後、代わりにカナダ西部で積み込んだのがカナダの特産品である小麦やライ麦、大麦といった穀物だった。貨車の壁には穀物を積載できる上限が穀物名と線で記されている。最も低い位置に線があるのは小麦、次いでライ麦で、最も高いのが大麦だ。
ただし、貨車の片側側面には車を積み降ろしするための両開き扉があり、穀物をそのまま輸送すると隙間から外に漏れてしまう恐れがあった。
▽漏れを防ぐための工夫は…
「そのため扉の枠全体に木の板を取り付け、隙間を埋めるために紙も貼り付けて封じていました」とハンフリーさんは明かした。それらの細工をした上で線路脇にある穀物貯蔵施設から穀物を投下することで、運搬中に流出する穀物の量を減らすことができたという。
カナダ東部の目的地に到着後は作業員がショベルを使って穀物を運び出した。穀物の漏れを防ぐために用意した板と紙は廃棄されたという。
▽最大出力が格段に小さい背景
ハンフリーさんは元機関士としての腕を発揮し、カナディアン・パシフィック鉄道(現在のカナディアン・パシフィック・カンザスシティー)のディーゼル機関車「6591 S3」を博物館内の線路で運転した。モントリオール・ロコモーティブ・ワークスが1957年に製造し、最大出力は600馬力と現在主力の4400馬力と比べて格段に小さい。
これは操車場で列車を組成するために使う入れ換え用の機関車だったという背景がある。1982年に引退するまでオンタリオ州スミスフォールズ地区で任務に当たり、85年にスミスフォールズにある東オンタリオ鉄道博物館に寄贈された。
大ヒット車や穀物を運んで東奔西走した有蓋車とは対照的に、スミスフォールズに“生涯”根付いて活躍を続けている。
(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【11】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)