旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年10月25日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

島を横断した夜行急行列車、まるで家政婦主人公のテレビドラマの一場面? シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【20】

△カナダ東部ニューファンドランド島を横断していた夜行急行列車の食堂車を再現した展示(いずれも2022年7月、セントジョンズの鉄道博物館で筆者撮影)zoom
△カナダ東部ニューファンドランド島を横断していた夜行急行列車の食堂車を再現した展示(いずれも2022年7月、セントジョンズの鉄道博物館で筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【19】」からの続き)
 「“鉄分”サプリの旅」というコラム名にもかかわらず、鉄道の話題で“鉄分”補給ができないのは看板倒れに受け止められてしまうかもしれない。実は北海道より大きいカナダ東部の島、ニューファンドランド島ではかつて、南東部にある主要都市セントジョンズと南西部ポルトーバスクを東西883キロにわたって結ぶ鉄路を夜行急行列車が駆けていた。セントジョンズにある鉄道博物館では当時の列車の車内が再現されており、乗務員の様子がまるで家政婦が主人公のテレビドラマの一場面のようで足が震えた―。

△ニューファンドランド島をかつて走っていた鉄道の路線図zoom
△ニューファンドランド島をかつて走っていた鉄道の路線図

 ▽駅舎跡が博物館に
 鉄道博物館「レールウェイ・コースタル・ミュージアム」は、かつてセントジョンズの玄関口だった石造りの立派な駅舎跡の建物に入居している。入場料は大人8カナダドル(約840円)だ。
 ニューファンドランド島では、英国の植民地だった1881年に鉄道建設が始まった。建設主体が資金難から破産に追い込まれるなどの紆余曲折を経て、セントジョンズ―ポルトーバスク間を結ぶ本線が98年に全線開業した。

△往年の夜行急行列車の二段式になった寝台車のベッドメーキングをした状態zoom
△往年の夜行急行列車の二段式になった寝台車のベッドメーキングをした状態

 ▽狭軌で北米最長の鉄道
 本線のほかに支線も建設された鉄路を旅客列車や貨物列車が往来し、博物館は「鉄道が内陸部の鉱業や林業の開発でも大きな役割を果たした」と強調する。
 ピーク時には総延長1458キロと東京―鹿児島中央間の営業キロに相当する路線を抱えた。線路の幅はJR在来線と同じ1067ミリの狭軌で「狭軌としては北米最長の鉄道だった」と説明を受けた。

△昼に走る時の座席にした状態の寝台車zoom
△昼に走る時の座席にした状態の寝台車

 ▽カナダ連邦加入後、SLからディーゼル機関車へ
 夜行急行列車は長年にわたって蒸気機関車(SL)が客車を引いていた。だが、ニューファンドランド島が1949年にカナダ連邦に加わったのに伴い、鉄道を引き継いだカナディアン・ナショナル鉄道(CN)は、53年から60年にかけてディーゼル機関車を53両導入してSLを置き換えた。
 ディーゼル機関車の中心勢力となった「900クラス」は最高出力1200馬力のディーゼルエンジンを搭載しており、力強い走りを見せた。
 列車は島とカナダ本土との行き来にも利用され、ポルトーバスクではカナダ東部ノバスコシア州ノースシドニーと結ぶ旅客船と乗り継ぐことができた。

△食堂車で出していたステーキ(左)と魚料理zoom
△食堂車で出していたステーキ(左)と魚料理

 ▽2段式寝台で好まれたほうは…
 博物館の一角で再現した寝台車は、2段式のベッドになっている。日中は対面式の座席として使っている腰かけと背もたれを引き伸ばすと、下のベッドになる。上のベッドは壁面に収納されており、車内で乗客の手伝いをする乗務員のポーターが「手前に引っ張り出してベッドメーキングをした」(博物館の説明)という。
 子ども部屋に二段ベッドを置くと、どちらが上のベッドで寝るのかで兄弟げんかの種になることがあると聞く。しかし、大枚をはたかないと乗れない寝台車の利用者は「大部分が窓からの景色を楽しむことができ、通路に出やすい下段のベッドを好んだ」とされる。
 長旅だったため、日中は乗客が退屈しないようにポーターが座席にテーブルとして使える台を用意し、トランプを配ったという。

△食堂車のスチュワードが、まるでテレビドラマ「家政婦は見た!」の主人公のように客席をうかがう様子zoom
△食堂車のスチュワードが、まるでテレビドラマ「家政婦は見た!」の主人公のように客席をうかがう様子

 ▽食堂車はまるで「家政婦は見た!」?
 旅行中の目玉だったのは、「上質な味の食事と卓越したサービスで定評があった」という食堂車だった。窓に沿って対面になった4人掛けと2人掛けのテーブルが計24席あり、美しく敷いたテーブルクロスの上に白亜の陶磁器でできた皿や、フォークやナイフ、スプーンの銀食器が並べられた。
 朝食にはオムレツやハムを提供し、昼食は島の特産品のタラのムニエルや羊肉の料理を提供。夕食にはステーキや、焼いたウミマスなどを味わうことができ、食後にはアイスクリームなどのデザートも饗された。
 面白かったのが接客などを差配するスチュワードが、まるでテレビドラマ「家政婦は見た!」で故市原悦子さんが演じた主人公である家政婦のようなポーズで厨房から食事を楽しむ乗客をのぞき込むようなポーズを見せていたことだ。といっても、依頼主の秘密を探ろうとするドラマに登場する家政婦とは異なり、乗客の様子を注意深く見守り、細心の気配りをしていたのであろうが…。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【21】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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