旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年8月31日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

カナダのホエールウオッチングで禁句なのは… シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【12】

△母親と子どもとみられる2頭のザトウクジラ(2022年7月、カナダ・ニューファンドランド島で筆者撮影)zoom
△母親と子どもとみられる2頭のザトウクジラ(2022年7月、カナダ・ニューファンドランド島で筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【11】」からの続き)
 北海道でも楽しめるホエールウオッチングを未体験だった私は、日本から見て地球の反対側にあるカナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島でも楽しむことにした。遊覧船の運航会社の公式ホームページは免責事項として「クジラが見られる保証はない」と宣言している。果たしてクジラは現れるのだろうか―。

△ニューファンドランド島でホエールウオッチングの遊覧船を運航する企業ギャザオールズの事務所(7月、筆者撮影)zoom
△ニューファンドランド島でホエールウオッチングの遊覧船を運航する企業ギャザオールズの事務所(7月、筆者撮影)

 ▽6月半ば~8月半ばに「見られる傾向」
 ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズ近郊で遊覧船を運航している企業ギャザオールズ(Gatherall’s)は、地元の人から「ギャザオールさん一族が経営している」と教えてもらった。オール(皆)をギャザー(集める)とは遊覧船運航企業を経営するには実に験のいい名字だ。
 ホームページには「6月半ばから8月半ばまではクジラを見られる傾向だ」との記述もあり、期待を込めて参加した。

△ギャザオールズの定員が約100人の遊覧船(7月、ニューファンドランド島で筆者撮影)zoom
△ギャザオールズの定員が約100人の遊覧船(7月、ニューファンドランド島で筆者撮影)

 ▽ミニバンで中心部から送迎も
 ギャザオールズの船着き場はセントジョンズの中心部から車で約25分の距離にあり、主要ホテルからのミニバンでの送迎サービス(有料)も用意している。
 遊覧船は2022年ならば5月14日から最短でも9月20日までは運航する。夏休みシーズンの7月1日~8月15日は1日当たり最多で5便を運航し、所要時間は約1時間半。料金は70カナダドル(約7400円)だ。私が乗った午前10時半に出発する便は、定員約100人の船が出発までに満員となった。

△ウィットレス湾自然保護区を泳ぐナガスクジラ(7月、ニューファンドランド島で筆者撮影)zoom
△ウィットレス湾自然保護区を泳ぐナガスクジラ(7月、ニューファンドランド島で筆者撮影)

 ▽最終便以外は満席
 船の最前部のデッキへ行こうとしたが、乗組員によると「安全上の理由で13人限定」だそうで既に埋まっていた。このため上の階にある操舵室の横から海上を見渡すことにした。
 共同経営者のマイケル・ギャザオールさんは「夏休みを迎えて多くのお客さんが訪れており、本日は午後4時半発の便以外は全て満席だ」と盛況ぶりを明かした。

△潮を吹くナガスクジラ(7月、ニューファンドランド島で筆者撮影)zoom
△潮を吹くナガスクジラ(7月、ニューファンドランド島で筆者撮影)

 ▽DJが案内
 船は出発後に自然豊かなウィットレス湾自然保護区を進み、乗組員がDJとなって船内放送で冗談を交えながら周辺について案内してくれる。「昨日の乗った運が良いお客さんたちはクジラを間近で楽しんだよ!」という言葉に否が応でも期待が高まる。
 すると、出発の約30分後に乗組員が「左側に大きなナガスクジラが見えるぞ!」と絶叫した。私も船の左側へ行くと、確かにクジラの黒い巨体の上部が見えた。船が速度を落としながらクジラのほうへ近づくと、潮を吹く様子を間近に眺められた。周囲の乗船客は「ワオ!」「すごい!」などと口々に叫び、興奮した様子だ。

△ナガスクジラはホエールテール(尻尾)も大きい(7月、ニューファンドランド島で筆者撮影)zoom
△ナガスクジラはホエールテール(尻尾)も大きい(7月、ニューファンドランド島で筆者撮影)

 ▽にらまれる禁句は…
 そんな中で私が「おいしそうに見える」と冗談を言ったところ、カナダ人乗船客ににらまれた。そう、捕鯨文化のある一部先住民を除いてクジラを食べないカナダ国民に「おいしそう」と言うのは禁句なのだ。
 小学校時代に給食でクジラの竜田揚げを普通に味わい、日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退して2019年7月1日に商業捕鯨を再開した際には山口県下関市で捕鯨船を見学した者の“心の声”だったのは確かだ。しかし、この地では残酷に聞こえてしまうようだ。
 船が南へ進むと、「あそこにクジラがいるわ!」と女性客が大声で知らせた。ナガスクジラより一回り小さいザトウクジラ2頭が並んで泳いでおり、乗組員が「あれは母親と子どものようだ」と解説した。
 クジラの親子連れが雄大な海で泳いでいるのをほほ笑みながら眺めている乗船客たちを前に、私も二の轍を踏むまいと「おいしそう」という言葉を“封印”した。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【13】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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