(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【6】」からの続き)
童謡「ふるさと」には「うさぎ追いし かの山」という一節があるが、カナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズの代表的な史跡「シグナルヒル」では「キツネが氾濫している」と聞いた。史跡見学を兼ねて「キツネ追いし かの山」とばかりに向かったところ、現地は“緊急事態”を迎えていた―。
▽「キツネの写真の看板」と目撃証言
「シグナルヒルに行ったところ、キツネが大量に氾濫しているそうでキツネの写真が載った看板がそこら中に立てられていた」。セントジョンズで泊まったJAGホテルの他の宿泊客からそんな目撃証言を聞き、居ても立ってもいられなくなって徒歩でホテルを後にした。
前日に空港からホテルまで送ってくれた男性運転手さんは、道中に窓外を指さして「ほら、あの丘の上にアンテナのような物が立っている建物が見えるだろう。あれはカボットタワーという建物で、あの丘がシグナルヒルだ。君が泊まるホテルからふもとまで歩いて15分、そこから頂上まで30分なので徒歩45分だ」と教えてくれた。この日は日差しが強く、比較的暑い日だったが、徒歩45分ならば軽い運動のように往復できるだろうと思った。
▽まるで「カナダの熱海」!?
目抜き通りのウオーター通り(水通り)は夏のレジャーシーズンは歩行者天国になっている。フォーク音楽をずっと流している沿道の飲食店で観光客が昼からビールをごくごくと飲んでいたり、土産物店や雑貨店のウインドーショッピングを楽しむ歩行者がいたりする様子は実におおらかで心地よい。
坂の下にセントジョンズ港が見えるウオーターフロントの環境も相まって「ここはカナダの静岡県・熱海のようだ」という印象を抱いた。食品店があったので立ち寄ってパンを買ったのだが、そのもくろみが外れることはこの時点でまだ分からなかった。
▽起業支援に力を入れる
ウオーター通りを抜けて坂道を歩くと、右手にニューファンドランド・メモリアル大学のホテル跡の建物を活用したという起業支援施設と学生寮が見えた。ニューファンドランド島は漁業のほかに、鉱業や林業、沖合の大西洋で採れる原油や天然ガスといった天然資源に依存してきた。
だが、地球温暖化防止の規制強化をにらみ、島ではよりサステイナブル(持続可能)な産業の育成を目指して「メモリアル大学が中心となって起業支援に力を入れており、新型コロナ流行の打撃を受けたものの着々と育っているベンチャー企業も出てきている」(地元住民)という。ニューファンドランド島の美しい環境を守るためにも持続可能な経済の構築は重要であり、そんな大きな目標に向けて新たな産業のシーズ(種)がまかれていくのが楽しみだ。
▽餌付けには最低4万円強の罰金
さらに進むとカナダ環境省管轄下の国立公園を管理する政府機関パークスカナダの「シグナルヒル国定史跡」と記した看板を見つけた。ホテルを出発してから既に45分ほど過ぎていた。もしもここがシグナルヒルの「ふもと」ならば運転手さんから聞いた「15分」の3倍を要したことになる。
途中で買い物をしたり、風景を撮影したりした時間を除いても30分ほどは要した計算になる。運転手さんは車のハンドルを握っている時間が長いため、実際に歩いたわけではないのかもしれない。近くにキツネの写真が載った看板も立てられており「聞いていた通りだ」と思いきや、そこには語られていなかったおどろおどろしい文言が並んでいた。
黒地の看板はキツネの写真の脇に白い文字で「野生動物に餌をやるな 人間の食べ物は野生動物を殺す」と英語とフランス語で記されていた。その下には「野生動物に餌をやったり、干渉したりするのは違法で、もしも実行した場合は最低でも390カナダドル(4万円強)の罰金を科せられます」と警告していた。2018年に訪れた同じくカナダ東部のプリンスエドワード島でも、野生のキツネに餌をやると処罰されると聞いていた。
▽3匹のキツネを捕獲
シグナルヒルは野生のキツネを巡る“緊急事態”が起きていることを後に知った。「あまりにも多くの旅行者がキツネに餌をやったためキツネが車に近づいてはねられてしまったり、餌を要求して人を噛んだりする行動が問題になっている」そうだ。
地元メディアによると、私がシグナルヒルを訪れた数日後の7月26~27日にはシグナルヒル周辺を一時通行止めにし、パークスカナダの職員らがキツネを捕獲した。「職員らは26日夜に3匹を捕らえ、島内のテラノバ国立公園に移送された。キツネは人間に慣れているため、近づいてきて簡単に捕獲できた」と報じていた。
看板を読んだ私は途中で買ってきたパンを“封印”し、シグナルヒルの頂上にあるカボットタワーに向けてハイキングコースを歩き出した。
(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【7】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)