旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年8月15日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

「キツネ追いし かの山」と向かった国定史跡は“緊急事態” シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【7】

△カナダのプリンスエドワード島で見た野生のキツネ(2018年6月、筆者撮影)zoom
△カナダのプリンスエドワード島で見た野生のキツネ(2018年6月、筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【6】」からの続き)
 童謡「ふるさと」には「うさぎ追いし かの山」という一節があるが、カナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズの代表的な史跡「シグナルヒル」では「キツネが氾濫している」と聞いた。史跡見学を兼ねて「キツネ追いし かの山」とばかりに向かったところ、現地は“緊急事態”を迎えていた―。

△カナダのニューファンドランド島の主要都市セントジョンズにある国定史跡シグナルヒルのカボットタワー(22年7月、筆者撮影)zoom
△カナダのニューファンドランド島の主要都市セントジョンズにある国定史跡シグナルヒルのカボットタワー(22年7月、筆者撮影)

▽「キツネの写真の看板」と目撃証言
 「シグナルヒルに行ったところ、キツネが大量に氾濫しているそうでキツネの写真が載った看板がそこら中に立てられていた」。セントジョンズで泊まったJAGホテルの他の宿泊客からそんな目撃証言を聞き、居ても立ってもいられなくなって徒歩でホテルを後にした。
 前日に空港からホテルまで送ってくれた男性運転手さんは、道中に窓外を指さして「ほら、あの丘の上にアンテナのような物が立っている建物が見えるだろう。あれはカボットタワーという建物で、あの丘がシグナルヒルだ。君が泊まるホテルからふもとまで歩いて15分、そこから頂上まで30分なので徒歩45分だ」と教えてくれた。この日は日差しが強く、比較的暑い日だったが、徒歩45分ならば軽い運動のように往復できるだろうと思った。

△セントジョンズのウオーター通りは夏のレジャーシーズンは歩行者天国になっている(7月、筆者撮影)zoom
△セントジョンズのウオーター通りは夏のレジャーシーズンは歩行者天国になっている(7月、筆者撮影)

 ▽まるで「カナダの熱海」!?
 目抜き通りのウオーター通り(水通り)は夏のレジャーシーズンは歩行者天国になっている。フォーク音楽をずっと流している沿道の飲食店で観光客が昼からビールをごくごくと飲んでいたり、土産物店や雑貨店のウインドーショッピングを楽しむ歩行者がいたりする様子は実におおらかで心地よい。
 坂の下にセントジョンズ港が見えるウオーターフロントの環境も相まって「ここはカナダの静岡県・熱海のようだ」という印象を抱いた。食品店があったので立ち寄ってパンを買ったのだが、そのもくろみが外れることはこの時点でまだ分からなかった。

△高台から見下ろしたセントジョンズの街並み(7月、筆者撮影)zoom
△高台から見下ろしたセントジョンズの街並み(7月、筆者撮影)

 ▽起業支援に力を入れる
 ウオーター通りを抜けて坂道を歩くと、右手にニューファンドランド・メモリアル大学のホテル跡の建物を活用したという起業支援施設と学生寮が見えた。ニューファンドランド島は漁業のほかに、鉱業や林業、沖合の大西洋で採れる原油や天然ガスといった天然資源に依存してきた。
 だが、地球温暖化防止の規制強化をにらみ、島ではよりサステイナブル(持続可能)な産業の育成を目指して「メモリアル大学が中心となって起業支援に力を入れており、新型コロナ流行の打撃を受けたものの着々と育っているベンチャー企業も出てきている」(地元住民)という。ニューファンドランド島の美しい環境を守るためにも持続可能な経済の構築は重要であり、そんな大きな目標に向けて新たな産業のシーズ(種)がまかれていくのが楽しみだ。

△ニューファンドランド・メモリアル大学のホテル跡を活用した起業支援施設と学生寮(7月、筆者撮影)zoom
△ニューファンドランド・メモリアル大学のホテル跡を活用した起業支援施設と学生寮(7月、筆者撮影)

 ▽餌付けには最低4万円強の罰金
 さらに進むとカナダ環境省管轄下の国立公園を管理する政府機関パークスカナダの「シグナルヒル国定史跡」と記した看板を見つけた。ホテルを出発してから既に45分ほど過ぎていた。もしもここがシグナルヒルの「ふもと」ならば運転手さんから聞いた「15分」の3倍を要したことになる。
 途中で買い物をしたり、風景を撮影したりした時間を除いても30分ほどは要した計算になる。運転手さんは車のハンドルを握っている時間が長いため、実際に歩いたわけではないのかもしれない。近くにキツネの写真が載った看板も立てられており「聞いていた通りだ」と思いきや、そこには語られていなかったおどろおどろしい文言が並んでいた。
 黒地の看板はキツネの写真の脇に白い文字で「野生動物に餌をやるな 人間の食べ物は野生動物を殺す」と英語とフランス語で記されていた。その下には「野生動物に餌をやったり、干渉したりするのは違法で、もしも実行した場合は最低でも390カナダドル(4万円強)の罰金を科せられます」と警告していた。2018年に訪れた同じくカナダ東部のプリンスエドワード島でも、野生のキツネに餌をやると処罰されると聞いていた。

△シグナルヒルのふもとにあったキツネの写真を載せた野生動物への餌やりを警告する看板(7月、筆者撮影)zoom
△シグナルヒルのふもとにあったキツネの写真を載せた野生動物への餌やりを警告する看板(7月、筆者撮影)

 ▽3匹のキツネを捕獲
 シグナルヒルは野生のキツネを巡る“緊急事態”が起きていることを後に知った。「あまりにも多くの旅行者がキツネに餌をやったためキツネが車に近づいてはねられてしまったり、餌を要求して人を噛んだりする行動が問題になっている」そうだ。
 地元メディアによると、私がシグナルヒルを訪れた数日後の7月26~27日にはシグナルヒル周辺を一時通行止めにし、パークスカナダの職員らがキツネを捕獲した。「職員らは26日夜に3匹を捕らえ、島内のテラノバ国立公園に移送された。キツネは人間に慣れているため、近づいてきて簡単に捕獲できた」と報じていた。
 看板を読んだ私は途中で買ってきたパンを“封印”し、シグナルヒルの頂上にあるカボットタワーに向けてハイキングコースを歩き出した。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【7】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
risvel facebook