旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年8月19日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

「女性たちが見渡す遊歩道」はカナダ版・伊豆半島!? シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【8】

△カナダ東部ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズの「女性たちが見渡す遊歩道」から眺めた海岸線(2022年7月、筆者撮影)zoom
△カナダ東部ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズの「女性たちが見渡す遊歩道」から眺めた海岸線(2022年7月、筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【7】」からの続き)
 カナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズの目抜き通りのウオーター通りを歩いていて「静岡県熱海市のようだ」との印象を抱いた。セントジョンズにある国定史跡「シグナルヒル」の頂にある石造りの建物「カボットタワー」へ向かうハイキングコースに踏み入れると、熱海市に近い静岡県の伊豆半島をほうふつとさせる美しい海岸線が続いていた―。

△セントジョンズの国定史跡「シグナルヒル」周辺の地図。筆者はオレンジ色の遊歩道を通った後に右折し、ブルー色の「女性たちが見渡す遊歩道」を歩いた(7月、筆者撮影)zoom
△セントジョンズの国定史跡「シグナルヒル」周辺の地図。筆者はオレンジ色の遊歩道を通った後に右折し、ブルー色の「女性たちが見渡す遊歩道」を歩いた(7月、筆者撮影)

 ▽自動車道を避けて迂回
 シグナルヒルのふもとからカボットタワーを見上げると、近道となる自動車道が続いているのが見えた。しかし、アカバナ科の多年草「ヤナギラン」の紫色の花が咲き誇っている美しい野山を散策するのに、ガソリン車の排ガスを浴びたくはなかった。
 掲示されていた大きな地図を見ると、歩行者専用の迂回路でもカボットタワーへ向かえることが分かった。ジョージズ池で自動車道から分かれる砂利が敷かれた歩行者道を進んだ。

△セントジョンズのジョージズ池(7月、筆者撮影)zoom
△セントジョンズのジョージズ池(7月、筆者撮影)

 ▽野鳥への餌やりも厳禁
 ジョージズ池では羽を休めているカモメらの姿を見かけたが、餌をやるのは厳禁。目にしてきた看板で「野生動物に餌をやったり、干渉したりするのは違法で、もしも実行した場合は最低でも390カナダドル(4万円強)の罰金を科せられます」と警告されたばかりだ。
 地図によると歩行者道はジョーンズ池を回り込むように北東へ向かっており、カボットタワーへ行くには途中で分岐する道を南下する必要がある。右に曲がる所を見落とさないように注意しながら歩いた。

△エキゾチックな静岡県熱海市の海外沿いの夜景(20年10月、筆者撮影)zoom
△エキゾチックな静岡県熱海市の海外沿いの夜景(20年10月、筆者撮影)

 ▽「女性たちが見渡す遊歩道」の由来は?
 砂利道を15分ほど歩くと立て看板があり、カボットタワーへと分岐する道は「女性たちが見渡す遊歩道」と名付けられていると説明していた。この名称は「セントジョンズの女性たちが息子や夫、恋人を乗せた船を眺めるためにここを訪れたためだ」と説明していた。
 昔の情景を思い浮かべさせる、何と情緒深い名前だろうか!

△セントジョンズの「女性たちが見渡す遊歩道」の脇に咲いていたヤナギランと大西洋(27月、筆者撮影)zoom
△セントジョンズの「女性たちが見渡す遊歩道」の脇に咲いていたヤナギランと大西洋(27月、筆者撮影)

 ▽海風が吹いてくる夏の日
 分岐した道はかなり険しい登り坂になっているが、歩きやすいように階段を設けるなど配慮がなされている。草木の中を抜ける遊歩道「ノース・ヘッド・トレイル」の一部として整備されているのだ。
 この日は最高気温が30度近かったが、海風が吹いてくるので心地よい。「自動車道を避けるために回り道をして正解だった」と確信しながら階段を上がること5分弱で、一休みできそうな中腹にたどり着いた。

△セントジョンズの「女性たちが見渡す遊歩道」から一望した大西洋(7月、筆者撮影)zoom
△セントジョンズの「女性たちが見渡す遊歩道」から一望した大西洋(7月、筆者撮影)

 ▽まるで城ケ崎海岸
 その地点からは“女性たちの展望台”と呼ぶべき絶景が広がっていた。森林の先にある岸壁の下にはカッコルズ湾がそびえ、海水はひすいのようなエメラルドグリーン色で染め上げられている。彼方先には大西洋の大海原が広がっており、その風景は太平洋に面しているのが静岡県・伊豆半島の城ケ崎海岸(伊東市)を思い起こさせてくれた。
 街中が熱海市のようで、海岸線が伊豆半島に似ている静岡県東部のような地域が地球の反対側のカナダ東部で見つかるのは意外だった。
 学習塾でのアルバイトのため伊豆半島を訪れた際、門脇つり橋が途中に架かる城ケ崎海岸のハイキングコースをたどった学生時代を振り返った。すると、好きな詩人の中原中也の作品「頑是ない歌」の一節が口を突いて出た。
 「思えば遠く来たもんだ」
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【9】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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