(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【7】」からの続き)
カナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズの目抜き通りのウオーター通りを歩いていて「静岡県熱海市のようだ」との印象を抱いた。セントジョンズにある国定史跡「シグナルヒル」の頂にある石造りの建物「カボットタワー」へ向かうハイキングコースに踏み入れると、熱海市に近い静岡県の伊豆半島をほうふつとさせる美しい海岸線が続いていた―。
▽自動車道を避けて迂回
シグナルヒルのふもとからカボットタワーを見上げると、近道となる自動車道が続いているのが見えた。しかし、アカバナ科の多年草「ヤナギラン」の紫色の花が咲き誇っている美しい野山を散策するのに、ガソリン車の排ガスを浴びたくはなかった。
掲示されていた大きな地図を見ると、歩行者専用の迂回路でもカボットタワーへ向かえることが分かった。ジョージズ池で自動車道から分かれる砂利が敷かれた歩行者道を進んだ。
▽野鳥への餌やりも厳禁
ジョージズ池では羽を休めているカモメらの姿を見かけたが、餌をやるのは厳禁。目にしてきた看板で「野生動物に餌をやったり、干渉したりするのは違法で、もしも実行した場合は最低でも390カナダドル(4万円強)の罰金を科せられます」と警告されたばかりだ。
地図によると歩行者道はジョーンズ池を回り込むように北東へ向かっており、カボットタワーへ行くには途中で分岐する道を南下する必要がある。右に曲がる所を見落とさないように注意しながら歩いた。
▽「女性たちが見渡す遊歩道」の由来は?
砂利道を15分ほど歩くと立て看板があり、カボットタワーへと分岐する道は「女性たちが見渡す遊歩道」と名付けられていると説明していた。この名称は「セントジョンズの女性たちが息子や夫、恋人を乗せた船を眺めるためにここを訪れたためだ」と説明していた。
昔の情景を思い浮かべさせる、何と情緒深い名前だろうか!
▽海風が吹いてくる夏の日
分岐した道はかなり険しい登り坂になっているが、歩きやすいように階段を設けるなど配慮がなされている。草木の中を抜ける遊歩道「ノース・ヘッド・トレイル」の一部として整備されているのだ。
この日は最高気温が30度近かったが、海風が吹いてくるので心地よい。「自動車道を避けるために回り道をして正解だった」と確信しながら階段を上がること5分弱で、一休みできそうな中腹にたどり着いた。
▽まるで城ケ崎海岸
その地点からは“女性たちの展望台”と呼ぶべき絶景が広がっていた。森林の先にある岸壁の下にはカッコルズ湾がそびえ、海水はひすいのようなエメラルドグリーン色で染め上げられている。彼方先には大西洋の大海原が広がっており、その風景は太平洋に面しているのが静岡県・伊豆半島の城ケ崎海岸(伊東市)を思い起こさせてくれた。
街中が熱海市のようで、海岸線が伊豆半島に似ている静岡県東部のような地域が地球の反対側のカナダ東部で見つかるのは意外だった。
学習塾でのアルバイトのため伊豆半島を訪れた際、門脇つり橋が途中に架かる城ケ崎海岸のハイキングコースをたどった学生時代を振り返った。すると、好きな詩人の中原中也の作品「頑是ない歌」の一節が口を突いて出た。
「思えば遠く来たもんだ」
(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【9】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)