旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年8月1日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

航空便の接続は1時間、新型コロナ対策強化の中で成否は!? シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【2】

△航空機から見たモントリオールの街並み。最先端技術に強く、ゲームや人工知能(AI)などの開発が盛んだ(22年7月、筆者撮影)zoom
△航空機から見たモントリオールの街並み。最先端技術に強く、ゲームや人工知能(AI)などの開発が盛んだ(22年7月、筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【1】」からの続き)
 カナダにある北海道より大きな島へ向かうためにエア・カナダグループの航空便同士を乗り継ぐカナダ東部モントリオール国際空港では、接続時間が1時間しかない。新型コロナウイルス感染拡大防止の対策が強化された後にカナダへ入国するのは初めてで、入国審査が順調に進むのかどうかが不安だった。果たしてその成否は―。

△ワシントン・ナショナル空港に隣接した地下鉄「ワシントンメトロ」から空港への通路。場末感が満ちたムードで「歓迎」してくれる(22年7月、筆者撮影)zoom
△ワシントン・ナショナル空港に隣接した地下鉄「ワシントンメトロ」から空港への通路。場末感が満ちたムードで「歓迎」してくれる(22年7月、筆者撮影)

 ▽“定番”の座席に
 アメリカ(米国)の首都ワシントンで乗り込んだのは全長が約36メートルある「カナダエア・リージョナル・ジェット(CRJ)900」だ。三菱重工業がカナダの航空機メーカー、ボンバルディアから2020年6月に事業買収したリージョナルジェット機、CRJシリーズの一つで、ビジネスクラス12席、エコノミークラス64席の計76席ある。
 ビジネスクラスというと国際線の座席が平らになるフルフラットシートを思い浮かべがちだが、座席幅が約53センチとエコノミークラスより約10センチ広く、座席の前後間隔が94センチと約15センチ広いだけ。貧乏性の私には“定番”のエコノミークラスで十分であり、かつ自分に似つかわしい(笑)、窓際に腰かけた。
 CRJ900の後方に2基ある米国ゼネラル・エレクトリック(GE)製のジェットエンジンは、まるで軽自動車のような軽快な音を立てながらファンブレードを回してロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港(DCA)の滑走路から飛び立った。

△エア・カナダグループのCRJ900(2022年7月、ワシントン・ナショナル空港で筆者撮影)zoom
△エア・カナダグループのCRJ900(2022年7月、ワシントン・ナショナル空港で筆者撮影)

 ▽出発、到着空港の共通点
 出発、および到着した両空港に共通しているのは元首脳の名前を冠していることだ。日本では安倍晋三元首相が2022年7月8日に奈良市で街頭演説中に銃撃されて亡くなる事件が起きてしまったが、DCAに付けられた故ロナルド・レーガン元米国大統領(在任1981~89年)は同じく銃撃されたものの一命を取り留めた。
 レーガン氏は在任中の81年3月に首都ワシントンのホテルを出て大統領専用車に乗り込む時に銃撃されたが、俳優だっただけに当時の米紙ワシントン・ポストの記事などによると冗談を連発して気丈に振る舞った。病院に駆け付けた故ナンシー夫人に「弾丸を避けるのを忘れていたよ」とおどけた。
 レーガン氏は共和党所属だったため、手術を受ける前に外科医に「あなたたちが共和党員だって言ってくれ」と懇願した。執刀を主導したベンジャミン・アーロン医師は実は民主党員だったが、「今日は全員が共和党員ですよ」と答えてレーガン氏を喜ばせたという。手術は大成功し、レーガン氏はおよそ3週間で公務に復帰した。

△開放的で清潔感のあるモントリオール国際空港(18年6月、筆者撮影)zoom
△開放的で清潔感のあるモントリオール国際空港(18年6月、筆者撮影)

 ▽現カナダ首相の父親の名前
 約1時間40分で着いたモントリオールのピエール・エリオット・トルドー国際空港(YUL)は、エア・カナダのハブ(拠点)空港の一つ。エア・カナダは成田空港との間に直行便を運航しており、私は2018年6月に成田発の初便に乗ってプリンスエドワード島を訪れた。
(「本連載コラムのシリーズ『隠れた鉄道天国カナダ』」ご参照」)
 名前を冠した故ピエール・トルドー氏は1968~79年に第20代首相、80~84年に第22代首相を務めて「会った人をすぐに引きつけるような強い魅力があった」とカナダ人から聞く。長男は、2015年から務めているジャスティン・トルドー首相だ。
 CRJ900は定刻の午後0時5分に到着した。だが、乗り継ぐ便の出発まで1時間しかない。カナダは英語とフランス語の両方が公用語だが、モントリオールがあるケベック州では看板にフランス語が優先して表記されている。フランス語で乗り継ぎを意味する「CORRESPONDANCES」と記したカナダ国内線の乗り継ぎ便への通路を示す矢印をたどった。

△東京タワーがある東京(成田空港)までエア・カナダの直行便が結ぶことを就航前に告知した広告(18年5月、モントリオール国際空港で筆者撮影)zoom
△東京タワーがある東京(成田空港)までエア・カナダの直行便が結ぶことを就航前に告知した広告(18年5月、モントリオール国際空港で筆者撮影)

 ▽入国に必要な新型コロナ対策アプリ
 カナダは新型コロナウイルス感染拡大防止のために入国者に対してアプリ「ArriveCAN」のスマートフォンへのインストールと、このアプリを通じた必要書類の申請を義務付けている。私が入国した22年7月時点では、新型コロナワクチンの接種完了者の場合は到着後の自主隔離などは不要で、入国時にランダム(無作為)で選んでいるPCR検査の受診対象になっても自主隔離は必要ないという(入国者の状況などによって異なる場合もあり、今後変更もあり得ますので最近の情報を必ずご確認ください)。
 「ArriveCAN」に入力するのは入国者の個人情報、ワクチン接種完了を示す証明書の写真、カナダに入国する際に利用する航空便の情報などだ。私は思っていた以上にさくさくと手続きを進められると感心した。手続きが完了すると、QRコードが付いた申請済み証明用の画面が表示された。カナダを以前訪れた米国人の友人によると「『ArriveCAN』が必要なのを知らず、空港で焦っている航空便利用者もいた」そうで、そうなれば乗り継ぎ便に間に合わなくなるなどの支障が出かねない。
 カナダに空路で入国する場合に必要な電子渡航認証システム(eTA)とともに、前もって準備をしておくことを留意いただきたい。eTAはインターネットを通じて申請し、1人当たり7カナダドル(約730円)を支払えば最長5年間、またはパスポートの有効期限まで有効となる。eTAはパスポートに紐付けられる。

△モントリオール国際空港にあるティム・ホートンズの店舗(18年6月、筆者撮影)zoom
△モントリオール国際空港にあるティム・ホートンズの店舗(18年6月、筆者撮影)

 ▽審査用端末は日本語にも対応
 カナダ国内線に乗り継ぐ通路の入り口では係員が航空券を確認し、「ArriveCAN」を準備するように伝えるボードを手に持って注意を促していた。その先で別の係員にスマホの「ArriveCAN」の申請済み証明用の画面を見せると、何台も並んでいる入国審査用の専用端末の1台で手続きをするように指示された。
 専用端末は日本語を選ぶこともでき、分かりやすく正しい日本語で手順を説明してくれる。申請人数やカナダを訪れた目的と滞在期間、居住国などの質問に答え、パスポート(旅券)の旅券番号や有効期限などが載ったページをスキャンし、その場で専用端末の内蔵カメラで顔写真を撮影すると手続きが済んだことを示す紙が発券された。
 続いて入国審査官にパスポートと航空券、専用端末で発券された紙を手渡すと、「どこへ向かうのですか?」「何日間滞在しますか?」と尋ねられ、答えると入国を認めてくれた。入国手続きに要したのは10分ほどで、入国審査に時間を取られて乗り継ぎ便に間に合わなくなるとの不安は杞憂に終わった。
 これならば乗り継ぎ便に登場する前にカナダのドーナツ店チェーン「ティム・ホートンズ」の空港内の店舗でコーヒーを楽しめるのではないかと期待した。しかし、その先では新型コロナ禍がもたらした“副作用”によって思わぬ誤算が待ち受けていた…。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【3】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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