旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2018年6月13日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

「北米のパリ」と日本をつなぐ架け橋 エア・カナダの新路線初便に搭乗【新連載「隠れた鉄道天国カナダ」第1回】

△エア・カナダのボーイング787(モントリオールで筆者撮影。就航初日の機種と異なります)zoom
△エア・カナダのボーイング787(モントリオールで筆者撮影。就航初日の機種と異なります)

 日本とアメリカ(米国)、カナダ、欧州の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)がカナダ東部ケベック州シャルルボワで開幕するのを控えた6月2日、エア・カナダが成田空港(千葉県)とモントリオール国際空港(ケベック州)を結ぶ定期便を開設した。「北米のパリ」と呼ばれる美しい街並みが特色のモントリオール都市圏は約380万の人口を抱えるカナダで2番目の大都市ながら、日本と結ぶ定期便の誕生は初めて。成田発の初便に乗り込んだ。

△成田空港での成田―モントリオール線の就航記念式典でのテープカット。右から4人目がモントリオール市のプランテ市長、5人目がバーニー駐日カナダ大使(筆者撮影)zoom
△成田空港での成田―モントリオール線の就航記念式典でのテープカット。右から4人目がモントリオール市のプランテ市長、5人目がバーニー駐日カナダ大使(筆者撮影)

 ▽待ち焦がれていた“架け橋”
 「モントリオールは最先端技術が花開いており、人工知能(AI)、ライフサイエンス、フィンテック、データセンターなどが日本を含めた世界からの注目を集めており、新路線が就航するのは時宜を得ている」。イアン・バーニー駐日カナダ大使は成田空港で6月2日、成田―モントリオール線の就航記念式典で強調した。
 その言葉を耳にして、モントリオールが最先端技術で存在感を高めているのを知っていた私は膝を打った。というのも、5月にモントリオールを訪問したばかりで、AI分野の大家で「ディープラーニング(深層学習)の第一人者」として知られるモントリオール大学のヨシュア・ベンジオ教授から「モントリオールはAIのホットスポットになっている。カナダ政府や自治体が成長分野なのを理解し、投資をして後押ししているのも利点だ」と聞いたばかりだったからだ。日本のゲーム大手、スクウェア・エニックスが開発拠点を設けるなどゲーム産業で強みを持ち、「ゲーム大国」の日本との親和性も良い。
 最先端技術都市として将来有望なのに加え、旧市街に昔の風情を残す建物が並ぶなど国連教育科学文化機関(ユネスコ)のデザイン都市に認定されている観光都市としても魅力的なモントリオール。温故知新を体現したカナダ第2の都市との直行便の誕生は、日本にとって待ち焦がれていた“架け橋”と言えよう。
 モントリオール発成田行きの初便を使い、初来日したモントリオール市のバレリー・プランテ市長は「直行便の就航でモントリオールと日本との絆がより強まればいい」と期待を込めた。また、エア・カナダのネットワークプランニング担当副社長のマーク・ガラード氏は「日本とカナダの友好関係は旅行と留学、ビジネスでさらに発展すると確信しております」と意気込んだ。

△「北米のパリ」と称されるモントリオールの旧市街(筆者撮影)zoom
△「北米のパリ」と称されるモントリオールの旧市街(筆者撮影)

 ▽ボーイング787で攻勢強める
 全日本空輸(ANA)と同じ航空連合「スターアライアンス」に加盟するエア・カナダが開設した成田―モントリオール線は、10月下旬までの夏の期間に1日1往復し、冬の期間(10月下旬から翌年3月下旬)も週3往復する。これで東京圏と結ぶ路線はカナダ最大都市のトロント―羽田空港線、中部カルガリーを経由する成田―トロント線、西部バンクーバー―成田線とともにカナダ4都市と直結するようになった。
 東京圏以外はビジネスクラスを備えていない航空機で運航するエア・カナダルージュが関西空港(大阪府)―バンクーバー線に加え、昨年6月に中部空港(愛知県)―バンクーバー線が就航。関係筋によると、うち関西―バンクーバー線は来年5月からエア・カナダの運航に切り替える計画で、「ビジネスを含めた利用が好調に推移しており、ビジネスクラスも備えたボーイング787で運航することにした」という。
 このようにエア・カナダが路線拡大のために活用している戦略機材が、ボーイング787だ。炭素繊維複合材を多く採用して軽量化した機体は、燃費性能が優れているため日本と北米東海岸を直行できるのがメリット。さらに、標準型の787―8型はビジネスクラス(20席)とプレミアムエコノミー(21席)、エコノミークラス(210席)の計251席と、大型機ボーイング777―300ER(計400席)に比べて座席数が少ないため、一定の利用者を確保すれば高い搭乗率を確保して採算良く飛ばせる。

△成田空港を出発時にすれ違った全日本空輸のスター・ウォーズ塗装機(筆者撮影)zoom
△成田空港を出発時にすれ違った全日本空輸のスター・ウォーズ塗装機(筆者撮影)

 ▽モントリオール経由の利点
 そんなボーイング787の導入が追い風となって成田―モントリオールが開設したことで、カナダ東部にとどまらず、米国東海外のニューヨーク、ボストンなどへの乗り継ぎ利用が便利になった。成田からモントリオール経由で米国へのエア・カナダ便に乗り継ぐ場合、モントリオールではカナダの入国審査は不要で、米国の入国審査だけで済む。しかも同じ日に乗り継ぐ場合、預け入れ荷物を目的地まで受け取らなくて済む。
 ニューヨークで到着するのは中心部マンハッタンに近いラガーディア空港で、ANAや日本航空(JAL)の羽田空港からの直行便が到着するジョン・F・ケネディ国際空港、ユナイテッド航空の成田からの直行便が着くニューアーク空港(ニュージャージー州)よりもアクセスが優れているのも売りだ。私が2016年までニューヨーク支局に駐在中は、通勤に使っていた「メトロノース鉄道」の途中駅、ハーレム125丁目駅から路線バス1本で向かえるラガーディア空港を好んで利用していた。

△ニューヨークのメトロノース鉄道の電車「M―8型」。川崎重工業製だ(米国コネティカット州で筆者撮影)zoom
△ニューヨークのメトロノース鉄道の電車「M―8型」。川崎重工業製だ(米国コネティカット州で筆者撮影)

 ▽北米で唯一の四つ星エアライン
 しかも特筆すべきなのは、エア・カナダは英国調査会社スカイトラックスの航空会社ランキングで、北米の航空会社で唯一四つ星を獲得しているのが証明するサービスの質の高さだ。2017年のスカイトラックスの航空会社ランキングでは29位と、健闘しているデルタ航空でも32位、アメリカン航空とユナイテッド航空はそれぞれ74位、78位と低迷している米国勢をいずれもしのぐ。
 日本から北米に向かう際に「日本の航空会社は航空券が高い」と二の足を踏んだり、「海外に出る際は外国航空会社に乗りたいけれども、米国航空会社のサービス水準には不満だ」と嘆いたりする顧客層にベストマッチのエアライン。それがエア・カナダだ。

△モントリオール国際空港に掲げられた東京との直行便就航を知らせる広告と筆者zoom
△モントリオール国際空港に掲げられた東京との直行便就航を知らせる広告と筆者

 ▽行き先はシャルルボワにあらず
 成田を出発する際、存じ上げているバーニー駐日カナダ大使に「あなたはシャルルボワへ行ってG7サミットを取材するのですか?」と尋ねられた。「米国第一主義」を掲げる米国のドナルド・トランプ大統領が同盟国の日本やカナダを含めた大部分の国・地域に対して鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課す輸入制限など強硬な通商政策を連発し、米国と他の6カ国の間で亀裂が深まる泥沼の展開になるのを私は容易に予測できた。
 それが現実になったのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が厳しい表情で机に手を置き、腕組みするトランプ氏に迫る写真が公開されたり、米国の輸入制限を批判した議長国カナダのジャスティン・トルドー首相に対してトランプ氏が「不誠実で弱虫だ」と不当な人格攻撃をしたりしたことが如実に物語る。
 私がバーニー大使に「シャルルボワではトランプ氏の傲岸不遜な態度に(米国を除く)6カ国が反発し、険悪なムードになると確信しています。私はシャルルボワを避けて素晴らしい目的地へ向かいます」とお話しし、行き先を告げた。すると、バーニー大使は「それはシャルルボワへ向かうよりもずっと楽しそうですね!」とほほ笑んだ。果たして私が向かった渡航先とは。「隠れた鉄道天国」で待ち受けていた旅とは。本連載「隠れた鉄道天国カナダ」で、次回以降にご紹介したい。
 (「連載『隠れた鉄道天国カナダ』第2回」に続く)
(連載コラム(「“鉄分”サプリの旅」)の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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