旅の扉

  • 【連載コラム】舞台とハワイと時々ニューヨーク
  • 2019年9月25日更新
アート&トラベルライター:青山ルビー

女性起業家がイタリアで教えてくれた、ワイン選びの極意

この春にワイン輸入販売会社を設立した日本人女性起業家ミシェルさん。ワイナリーの視察に訪れたイタリアで、ワイン選びの極意を教えてくれた。zoom
この春にワイン輸入販売会社を設立した日本人女性起業家ミシェルさん。ワイナリーの視察に訪れたイタリアで、ワイン選びの極意を教えてくれた。
視察先はシチリアとトスカーナ

ワインの銘醸地といえば、フランスのボルドーやシャンパーニュ地方、カリフォルニアのナパバレーなど、人それぞれお気に入りがあるはず。イタリアならキャンティなどトスカーナ地方(アグリツーリズモ記事でもご紹介しています)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

イタリアワインの輸入販売会社を興した日本人女性ミシェルさんとの会話のなかで、「今度の視察はシチリアとトスカーナよ」という一言に心動かされ、この夏に急遽同行させてもらいました。現地イタリアで、ワイナリーを営む経営者やワイン造りに携わるプロデューサーと真剣にワイン談義を繰り広げる姿から、ワインに捧げる熱量の高さがひしひしと伝わってきました。そんな女性社長に、イタリアワインの魅力と自分にあったワインの選び方について語っていただきました。

数あるワイン産地国の中から、イタリアを選んだ理由は?

ミシェルさん:もともとワインは全般的に好きで、料理を本格的に学んでいたこともあり、料理と相乗効果を生むワインの研究を兼ねてあらゆる種類を飲んでいました。その中で、職場の近くにこだわりのイタリアワイン専門店があったという出会いもあり、個性豊かなイタリアワインに惹かれたのが始まりです。

また、ビジネス的な観点からも、地元のネゴシアン(卸売業者、ワイン商)が大きな力を持ち、ワイナリー側、輸入者側ともに大手が主役で流通しているフランスよりも、私のように小さな規模でビジネスを行っている会社でも入りやすく、ワイナリーと直接交渉ができる土壌のあるイタリアは、自分がやりたいビジネスモデルに合っていたというのも理由の一つです。
9月初旬に訪れたシチリアとトスカーナのワイナリー。少し早めにブドウの収穫を迎えるワイナリーもあり、実りの秋を実感する。zoom
9月初旬に訪れたシチリアとトスカーナのワイナリー。少し早めにブドウの収穫を迎えるワイナリーもあり、実りの秋を実感する。
シチリアでは二つワイナリーをめぐりましたが、シチリアワインの魅力は?

ミシェルさん:シチリアワインに注目したきっかけは、欧州最大の活火山として知られるエトナ火山のふもとで造られた赤ワイン「エトナ・ロッソ」との出会いです。10年以上前になりますが、ブルゴーニュのように華やかかつ軽やかながら、少々ハードに感じるミネラル感があるけれど、ワインを飲みなれている人には「おっ、おもしろい」と思っていただける大人のワインだと思ったんです。赤ですが、貝類とか白身のお魚料理にも合いそうな。

エトナ山の複数のワイナリーが造るエトナ・ロッソを飲み比べたりもしましたが、どれもミネラル豊富なテロワール(フランス語で土地をあらわす。土壌や気候、風土がワインにもたらす影響全般をまとめて表した言葉)を感じる上品なワインばかり。エトナは赤ワインだけでなく、白ワイン(ビアンコ)も同じで、その優雅な個性と静かな力強さに強く惹かれました。

今回訪問させて頂いたのは、エトナワインのファンになるきっかけとなった、火山の女神をモチーフにした美しいラベルが印象的なワイナリー。そのプロデューサーであるジュゼッペさんにワイン造りのこだわりを伺って、さらにその魅力に惹かれた気がします。
シチリア東部に位置するエトナ火山のふもとはワインの銘醸地。溶岩を含んだ土地が生むワインにはミネラルが豊富とのこと。独特な風味と上品かつ力強い口当たりはそこから来ているのか。zoom
シチリア東部に位置するエトナ火山のふもとはワインの銘醸地。溶岩を含んだ土地が生むワインにはミネラルが豊富とのこと。独特な風味と上品かつ力強い口当たりはそこから来ているのか。
シチリアで2件目に訪れたワイナリーはエトナ山からずっと南に進んだシチリア島の南部、ヴィットリアでした。この地域には地元のブドウ品種ネロ・ダヴォラが広く使われていて、口当たりがよく、木樽と木苺ジャムをほのかに感じるやわらかなニュアンスのワインが得意なところです。ワインを飲みなれていない方でも飲みやすく、肩ひじをはらないテイストで幅広い方々に受け入れられる美味しさです。

大きな島であるシチリアは、まるで小さな大陸のようで、島内でまったく異なるテロワールが混在しています。ブドウ畑も海抜に近いところから標高1,200mのところまであり、土壌も違う。その地域のテロワールによってブドウの品種、製法、出来上がりの個性も全く変わってくるので、それがシチリアワインの大きな魅力となっています。 ネロ・ダヴォラのワインは地元の人が毎日の食卓や週末のガーデンパーティーなど、気取らず気軽に楽しむワイン、しかも美味しい!このようなワインをもっと日本の皆さんにも紹介していきたいですね。

トスカーナでは精力的に3件視察しました。印象に残った出会いは?

ミシェルさん:それぞれが個性的で、どこの体験も忘れ難いものでした。1件目のカルミニャーノのFattoria Ambraさんでは、ブドウ収穫の初日を迎えたときで、ワイナリー全体が喜びに満ちていた感じがしました。1年を通しての農作業の末の収穫ですから、この日を皆待ち望んでいるわけです。若手はみな作業に追われていたので、ファミリーのおじいちゃんが、丁寧にお相手してくださいました。サンジョベーゼの収穫、ワクワクしました!そして2件目はメディチ家の狩りをするための広大な敷地であった場所にあるワイナリーさん。その昔おじいちゃんが買い取りワイナリーにされたとか。孫娘にあたるマンマがワインのお供にガーデンから摘みたてのトマトやハーブでサラダを作り、暖炉でブルスケッタのパンを焼いてくださった。ワインもサンジョベーゼでほどよいミディアムヘビー、美味しいの一言でした。
フィレンツェから車で1時間ほどで訪れることができる地に、ブドウ畑やオリーブ畑などが広がる。ここからキャンティをはじめイタリアが誇るトスカーナワインが生まれる。zoom
フィレンツェから車で1時間ほどで訪れることができる地に、ブドウ畑やオリーブ畑などが広がる。ここからキャンティをはじめイタリアが誇るトスカーナワインが生まれる。
そして3件目は、広大なトスカーナのブドウ畑を見下ろす、かつては関所のような役割を果たしていた小さな建物のワイナリーさんでした。こちらも代々伝わる造り手さんで、ワインや製法など、おじいちゃんの思い入れがとても強く残っていて、みな忠実に守り続けているという素敵なワイナリーさんでした。エチケット(ワインのラベル)がおじいちゃんと小さな孫のお顔のイラストでした。ファミリーでずっとやってきたんだという伝統と誇り。そして、それはこれからも脈々と続くのだという悠久の時の流れの感覚。日頃味わえない感動を頂きました。そしてその夜に宿泊したワイナリー兼アグリツーリズモのお庭から見下ろすブドウ畑とその向こうの山々の果てに沈む壮大な夕日の美しさは記憶に残る、言葉にできないほどのものでした。

現在取り扱っているワイナリーとの出会いと契約の決め手を教えてください

ミシェルさん:イタリア、トレンティーノ=アルト・アディジェ州のワインは昔からその丁寧な作り方と上品で華やかな香りとテイストが大好きでした。そして一般的な白ワインと圧倒的に差別化される花畑のような華やかなアロマの香り高さが衝撃の出会いでした。このたびワインの輸入販売会社を興して、最初にお話をしに行きたいと思ったのがこの土地でした。そこで、去年イタリアに向かい、アルト・アディジェのワイナリーを巡って、直接造り手にお会いしお話を伺ってきました。その旅で出会ったのが、タルクザル・ファミリーでした。
すでに取り扱いを始めているワイナリー「de TARCZAL(タルクザル)」の素敵なファミリー。ワインの秀逸な美味しさはもちろん、造り手一家のワイン造りへの真摯で純粋な想いに共感して契約を決意したとのこと。 zoom
すでに取り扱いを始めているワイナリー「de TARCZAL(タルクザル)」の素敵なファミリー。ワインの秀逸な美味しさはもちろん、造り手一家のワイン造りへの真摯で純粋な想いに共感して契約を決意したとのこと。 
400年続くブドウ畑を100年前から受け継ぎ、由緒正しい伝統的な手法でワインとスパークリングワインを手作りしています。地元とイタリア国内の数か所で売り切ってしまうというファミリー・オペレーションですが、自分たちのワインを好んで大切に飲んでくれる人がいるならば、と日本への輸出を承諾してくれました。

たとえば、繊細な泡が秀逸な麦わらイエローのスパークリングワインBrut de TARCZAL TRENTO DOCは、シャンパーニュと同じ瓶内2次発酵製法にて造られており、しっかりとした味わいながら、すっきりドライなテイスト。エレガントな香りはアペリティフにはもちろん、すべての料理に寄り添う素晴らしい仕上がりです。私はただワインを売るだけでなく、造り手さんから託された想いや、彼らのこだわりとそのワインが生まれた背景を含め、お客様にお伝えしていきたいと考えています。

ワインへの理解を深めるポイントと自分にあったワインの選び方を教えてください

ミシェルさん:ワインは数百年に渡り人々に寄り添ってきました。時に神様へ捧げるお酒の役割の時もあれば、日常で食事と共に楽しんだり、また、人と人を繋げる飲み物であるとも言われています。日常で気の合う友人や恋人に出会うがごとく、さまざまなワインと接していると、自分の好みがわかってきます。お花のブーケのような華やかで軽やかなものがいいのか、どっしりとブドウの豊潤さを感じるものが好きなのか。料理との相性とよく言われますが、まずは自分との相性の方が大切な気がします。

例えば、魚料理には白ワイン、肉料理には赤ワイン、と絶対条件のように思っていらっしゃる方が多いと思いますが、もっと自由でいいと思います。 例えば、泡好きな方がいらしたら、最初のアペリティフから最後の肉料理まで、シャンパーニュやスプマンテで通したっていいわけです。私もワインクリームソースの白身魚のポワレなどブルゴーニュの赤でいただいたりします。ご自身が今、どんな気分で何を飲みたいか、の方が重要なので、ワインを選ぶ際には、どうぞ心の声としばし会話してみてください。そして、どんな感じのワインが飲みたいかがはっきりしてきたら、お店の方に「こんな感じのワインをお願いします」と預けてしまうのもよい方法です。「今日の食事に合うワインを持ってきてください」とお願いしてしまうのもいいですね。お店にあるものの中で、希望に近いものをお持ちくださるでしょう。無理に自分で選ばなくても全く大丈夫です。ワインの種類も好みも千差万別。一期一会であったり。その出会いを、どうぞ楽しんでください。よい出会いは記憶に残ります。すると次にはご自分の口から「ジュヴレ・シャンベルタンの2013年を」なんて言葉が出てくるかもしれません。
イタリアのワイナリー経営者やワインプロデューサーの中には英語に堪能な人も多いが、やはり彼らにとっても英語は第二言語。それでも熱いワイン談義は尽きない。双方とも見ていて羨ましいほどのプロ意識。ワインへの深い愛には脱帽です。 zoom
イタリアのワイナリー経営者やワインプロデューサーの中には英語に堪能な人も多いが、やはり彼らにとっても英語は第二言語。それでも熱いワイン談義は尽きない。双方とも見ていて羨ましいほどのプロ意識。ワインへの深い愛には脱帽です。 
以上、ミシェルさんにイタリアワインの奥深さと楽しみ方を教えていただきました。思い立って同行させていただいたイタリアワイン視察ツアーでしたが、美味しいお食事やワインと、素敵な造り手の皆さんにお会いできて、ワインにそれほど詳しくなくても、楽しく、学びの多い数日間となりました。イタリアのワイナリーでは、ミシェルさんのようなプロの皆さんだけでなく、一般旅行者にも門戸を開いているところがたくさんあるそうです。ワインのテイスティングと簡単なお食事がセットになった訪問プランを作っているところもありますし、宿泊施設を併設しているワイナリーもあります。イタリアのワインめぐり、是非お試しください。

ミシェルさん略歴:
ワイン歴:20代初期NZ在住時に、週末はワイナリー巡りをして過ごす。帰国後はJALワインアカデミーやL’ecole du Vinでワインを学ぶ。ワインは人生の友との位置づけ。
料理歴:食のプロ養成校Ecole Amy’s Professional Course(南青山)で本格的に料理を学びディプロマを取得。
現在は葉山Studio Foresta del Vinoを拠点に自社輸入イタリアワインと葉山食材を使用した料理サロンや講座を開く。(開催不定期)
青山学院大学大学院国際マネジメント研究科でのMBAコース在学中に、かねてから準備を進めていたワイン輸入販売会社を設立した(今年3月にMBAを取得済)。自ら直接ワイナリーを訪問し、ブドウ畑の視察、製法の確認、オーナーやプロデューサーの考えを深く理解してからワインを取扱うことを信条に事業を展開している。 

フォレスタデルヴィーノ通販サイト:

http://www.forestadelvino.com
アート&トラベルライター:青山ルビー
ミュージカルやバレエなど、舞台に魅せられて約20年。ロンドン、ニューヨーク、東京で足しげく劇場に通う。「オペラ座の怪人」は25回以上、「レ・ミゼラブル」は15回以上、「RENT」は10回以上鑑賞。新作巡りやキャストにもこだわりが。また、ハワイの大自然と文化をこよなく愛し、ハワイ渡航歴25回以上。ハワイ州観光局公式ハワイスペシャリスト上級(ハープウ)。温泉ソムリエ協会認定温泉マスターソムリエ。
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