旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2019年8月17日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

ハワイの若手トップシェフ、クリス・カジオカが挑む新たな食のシーンとは?

ハワイ出身のシェフ、クリス・カジオカ氏。左手にあるのは、自ら合羽橋に出掛けて見つけてきた土鍋。zoom
ハワイ出身のシェフ、クリス・カジオカ氏。左手にあるのは、自ら合羽橋に出掛けて見つけてきた土鍋。
ここ数年ハワイの、とりわけ首都・ホノルルにおける食のシーンの変貌ぶりには目を見張るものがあります。新しいレストランが続々とオープンしているだけでなく、多民族が集う島の食文化とハワイならではの食材が融合した新ジャンルの料理も誕生。年に2~3回、定期的に現地を訪れている私も、付いていくのが大変なくらい進化のペースが速いのです。
そのホノルルで、再開発が進む「ワードビレッジ」の飲食部門ディレクターに今、ハワイで最も注目されている若手シェフ、クリス・カジオカ氏が就任したとのニュースが舞い込んできました。

高級コンドミニアムの建築ラッシュに沸くワードエリア

クリス(ここからは、親しみを込めてこう呼ばせてもらいます)が飲料部門を統括することになった「ワードビレッジ」があるのは、アラモアナ・センターと、ウォールアート巡りが人気となっているカカアコの間に広がるエリア。ワード・センターやシネマコンプレックス、すでに取り壊されたワード・ウエアハウスなど、もともと地元の人に人気が高いショッピング&エンタテインメント施設がある場所です。最近では高級コンドミニアム建設に合わせローカル・アーティストの店が集まる「サウスショア・マーケット」や、ハワイで最大規模を誇る「ホールフーズ・マーケット クイーン」がオープンしたことで話題となりました。
アラモアナの隣に再開発が進む「ワードビレッジ」。人気のダイニングスポットとしても注目度が高まっています。zoom
アラモアナの隣に再開発が進む「ワードビレッジ」。人気のダイニングスポットとしても注目度が高まっています。
米国各地のミシュランレストランで腕を磨いたロコボーイ

飲料部門ディレクターに就任したクリスは、ハワイ出身。5歳から料理に興味を持ち、ハイスクール時代にはホノルルの有名レストランでアルバイトをしていたそう。世界一の料理大学"と呼ばれるCIA(カイナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ)に進み、卒業後は米国内各地のミシュランレストランで修業を重ねた経歴をもちます。会員制レストラン(当時)「ヴィンテージ・ケーヴ」の初代料理長に抜擢されホノルルに戻ったのち、2014年にはニューヨークで活躍していたロンドン出身のアンソニー・ラッシュ氏と共同プロデュースしたレストラン「セニア」をダウンタウンにオープン。ここは瞬く間に人気店となり、"ホノルルで最も予約を取りにくいレストラン"に数えられるまでになりました。「ライジング・スター・シェフ賞」、「2013年度トップ10ディッシュ」など数々の受賞歴をもつ、名実ともにハワイのトップシェフに名を連ねる料理人のひとりです。

就任発表会では日本の食材を駆使した料理を堪能

先日、クリスの飲料部門ディレクター就任報告会を兼ねたランチ・レセプションが東京で催されました。彼の料理は一度だけダウンタウンの「セニア」で味わったことがあり、お皿の上に広がるアート作品のような美しさと、想像をはるかに超えた食感と味わいに、いちいち歓声をあげながら食した記憶があります。
京都産のジン、山梨産の旬などを使ったウエルカムカクテル。zoom
京都産のジン、山梨産の旬などを使ったウエルカムカクテル。
ビッグ・アイランド産キャベツとともに、日本の食材を中心に作られたこの日のメニュー。zoom
ビッグ・アイランド産キャベツとともに、日本の食材を中心に作られたこの日のメニュー。
この日のメニューは、
・京都のジン「季の美」、山梨の桃、カボスとソーダのカクテル
・北海道産トマトとキャビア、ローストした豆乳とタラゴンオイルのソース
・ビッグアイランド産の焦がしキャベツ(隠し味に塩昆布を使っています)
・黒トリュフとマス、イクラの炊き込みご飯
・なめたけレリッシュとシイタケ
・太田牛のサーロイン
・デザートに、白桃、トンカマメのクリームソース添え、食用菊のトッピング

「焦がしキャベツ」はホノルルの「セニア」のシグネチャーメニュー。そのほかの料理には日本の旬の食材がずらり! 通常、ハワイでは手に入らないと思われるものも多く、これらを使うことを思いついた理由をクリスに尋ねてみました。
「日本の食材の多彩さ、調理法や繊細な味付けにとても興味があり、日本を訪れるたびにできる限り各地の食材を試してみるようにしています。僕が日系人であることも、少なからず影響しているかもしれないけれど」とのこと。
マスとイクラの炊き込みご飯には黒トリュフをたっぷり散らして。お焦げのでき具合も申し分ありませんでした。zoom
マスとイクラの炊き込みご飯には黒トリュフをたっぷり散らして。お焦げのでき具合も申し分ありませんでした。
それにしても、使い慣れたハワイのキッチンとは異なる環境で、初めて使う食材もあるなか、これだけの完成度に仕上げた彼の力量には感服するばかり。
「炊き込みご飯に使った土鍋は、僕が合羽橋に買いに行ってきたんだよ」
とても楽しそうに語るコメントにも、彼の人柄や好奇心がよく表れている気がしました。

多彩なフードシーンを牽引し、いつかは日本出店の夢も

「ワードビレッジ」にはすでにダウンタウンの人気店「ザ・ピッグ&ザ・レディ」の姉妹店「ピギー・スモール」や、彼にとってハワイのレストラン界において大先輩ともいえるピーター・メリマン氏のレストランなどもオープンしています。これに対してクリスは、
「すでにワードビレッジで活躍されている優れたシェフの方々やレストランと協働し、ともに世界のグルメ都市に肩を並べる美食のデスティネーションを築き上げていけるこのチャンスを光栄に思い、わくわくしています」
と、謙虚ながらも熱く語ってくれました。

料理中のクリス。いつかは日本にもレストランを出店するのが夢なのだそう。zoom
料理中のクリス。いつかは日本にもレストランを出店するのが夢なのだそう。
今後はファストフードからカジュアル、高級ダイニングまでそろう「ワードビレッジ」でメニュー考案だけでなく、人材の採用や教育にまで携わっていくとのこと。将来のハワイの食のシーンを大きく変えていく可能性もある重責を担ったクリスですが、いつかは日本でレストランを構える夢もあるのだとか。「ワードビレッジ」でこれから味わえる料理とともに、再び彼の料理を日本で味わえることにも期待したいと思います。
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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