旅の扉

  • 【連載コラム】舞台とハワイと時々ニューヨーク
  • 2019年7月15日更新
アート&トラベルライター:青山ルビー

王様の凱旋 ミュージカル三都物語【ニューヨーク、ロンドン、東京】

王様と私 ロンドン公演の際のパンフレットなどzoom
王様と私 ロンドン公演の際のパンフレットなど

ミュージカルの都といえば、ニューヨークのブロードウェイ、ロンドンのウェストエンドの名前がすぐに浮かびます。ブロードウェイではオン・ブロードウェイの主要劇場だけでも40程あり、毎年40前後の新作が公開されているそうです(ブロードウェイの公式団体The Broadway Leagueウェブサイト公開の統計資料より)。ウェストエンドも40程度の劇場数と言われています。これだけ多くの作品がひしめく中、ニューヨークとロンドン双方で大絶賛されたミュージカル「王様と私」が、いま東京で上演されています。

「王様と私(原題、King and I)」は1800年代後半のサイアム(SIAM、シャムとも読み、現在のタイ)を舞台に、王様と、王族の子供たちに英語や教養を教えるために迎え入れられた英国人女性教師、アンナを中心に繰り広げられる物語です。ストレートなラブストーリーというわけでなく、異文化が出会う際に生まれる驚きや確執、和解や融合、そして、何よりも友情と家族愛の物語です。

NY公演の舞台となったリンカーン・センター 美しい建物と中央にある噴水はニューヨーカーや観光客の憩いの場となっている。zoom
NY公演の舞台となったリンカーン・センター 美しい建物と中央にある噴水はニューヨーカーや観光客の憩いの場となっている。

もともとはアメリカを代表する作曲家リチャード・ロジャースが、作詞家・劇作家のオスカー・ハマースタイン2世と共に、英国人女性の自伝をもとにした本や映画にインスパイアされて、歌と踊りを加えてミュージカルとして制作し、1951年に発表した作品です。その後、舞台でも主役を務めたユル・ブリンナー主演でミュージカル映画化され、日本にも広く知られるようになったそうです。代表曲シャル・ウィー・ダンスは、あまりにも有名ですが、それ以外にも王様の見せ場となるパズルメント、第一婦人レディ・チャンの独唱サムシング・ワンダフルなど、名曲が散りばめられています。

そして2015年、そんな往年の名作を、ブロードウェイが久しぶり(20年近くのブランクを経て)に再演するというニュース、それも日本人俳優の渡辺謙さんが王様を演じると発表されたとき、ミュージカルファンは沸き立ちました。日本人俳優がブロードウェイで主演するなんて、夢のような話です。一方、少したどたどしい英語を話す役柄とはいえ、日本人俳優の英語の歌やセリフに関して、一部ミュージカルファンの間で心配する声も聞かれました。

そんな心配の声をよそに、ニューヨークの芸術の殿堂リンカーンセンターで上演が始まったあとは、大絶賛の嵐となりました。その年のトニー賞で主演男優賞にノミネートされたときも、大きく報道されましたので、記憶にある方も多いのではないでしょうか。このプロダクションは、トニー賞のリバイバルミュージカル作品賞や最優秀主演女優賞含む4冠に輝きました。

リンカーン・センターの劇場はすり鉢状で舞台と観客の距離が近い。Playbillでは渡辺謙さんの予定より早い復帰を伝えている。zoom
リンカーン・センターの劇場はすり鉢状で舞台と観客の距離が近い。Playbillでは渡辺謙さんの予定より早い復帰を伝えている。

今回のプロダクション、正式タイトルは「リンカーン・センターシアタープロダクション ミュージカル 王様と私、Rodgers & Hammerstein’s The King and I, directed by Bartlett Sher」です。前述のリチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタインがつくりあげたミュージカルを、リンカーンセンターのプロダクションとして、バートレット・シャーの演出でリバイバルさせた舞台という背景がきちんと盛り込まれています。

ニューヨーク公演の舞台となったリンカーンセンタは、とても素敵な場所です。建築物としても美しいため、ニューヨークの撮影スポットとしても知られています。ブロードウェイのシアターとはいっても、他の劇場が多く立地するブロードウェイの42ndから53rdあたりまでの中心地からは少し離れた65thまで上がったところ、ミッドタウンからアッパー・ウェストに変わるエリアにあり、ミュージカルだけでなく、オペラホールやコンサートホール、映画館、ジャズハウスなど、様々な芸術施設がおかれた総合芸術施設となっています。有名なニューヨーク・メトロポリタン・オペラの本拠地であり、様々な著名音楽家を輩出したジュリアード音楽院も、こちらにあります。芸術施設に囲まれた中央の噴水で休んでいると、体中に芸術が満ちてくる気分になれる、素敵な時間が流れる場所ですので、散策にもおすすめできるスポットです。王様と私が上演されたVivian Beaumont Theaterもその一部で、すり鉢状のつくりで、演者さんと観客の距離が近い、とても素敵な劇場です。つい最近までは同じバートレット・シャー演出のマイ・フェア・レディが上演されていました。

私がニューヨークの舞台を観たのは、リバイバル初演の翌年となる2016年の3月でした。謙さんは、がん手術を終えて復帰後すぐのステージでしたが、力強く、威厳に満ち、そしてアメリカ人を笑わせ魅了するセリフと歌を、英語で演じる姿に、ミュージカルファンとして、そして日本人として感動を覚えました。と、同時に、家庭教師役のケリー・オハラの上品でクラシカルな立ち姿と美しい歌声に魅了されました。二人のダンスシーンは心に残る素晴らしい名場面となり、トニー賞の授賞式でも演じられて大変な話題になりました。

ロンドンでの劇場、パラディウムzoom
ロンドンでの劇場、パラディウム

ニューヨークのリバイバル初演から3年ほど経った2018年、渡辺謙とケリー・オハラのゴールデンコンビでの、ロンドンウェストエンド公演が実現しました。このお二人以外にも、首相役で大沢たかおが参加し、日本人ミュージカルファンを喜ばせてくれました。(ロンドン在住の日本人コミュニティの間でも、かなり盛り上がったそうです)

ロンドンでの劇場はパラディウムでした。立地(オックスフォード・サーカスの近く、リージェントストリートから少し入ったところ、リバティの近く)が良く、行きやすい、そして美しい劇場です。ニューヨーク公演での劇場とは形状が違うので、演者さんの入りやフォーメーションなど、ロンドン向けに調整したようです。横に広くなったステージで、NY公演とは違ったダイナミックな舞台でした。ダンスのシーンも、踊るスペースが横に広がったようでした。

ロンドン公演期間中の地下鉄ポスター ロンドン公演は完売となり、街でもかなり話題となっていた。zoom
ロンドン公演期間中の地下鉄ポスター ロンドン公演は完売となり、街でもかなり話題となっていた。

そして2019年7月、ロンドンキャストが中心となった日本凱旋公演となりました。ニューヨーク、ロンドンへとつながった王様とアンナの公演行脚はついに日本へ。

 

東京公演の舞台は渋谷ヒカリエに入る東急シアターオーブ。公演は英語で行われるので、舞台の左右に縦のラインでセリフと歌の日本語訳が流れます。日本でオペラが上演される際と同じ方式で、大変読みやすいです。

 

ニューヨーク、ロンドンの舞台を観てきて、今回の東京公演を見た感想は、一言でいうと、主役の二人の息の合い方が半端ない、ということです。お芝居や歌が相変わらず素晴らしいのはもちろんのこと、東京という自らの本拠地でよりリラックスしているように見える謙さんは、ケリーさんとの掛け合いもより自然に見えました。お芝居の中でも、徐々に親密さが増し、友情が醸成されていく過程が、よりナチュラルに表現されている気がしました。 

 

東京公演の前売りチケットは完売で、連日満席と聞いています。プラチナチケットをお持ちの皆様は是非楽しんできてください。

そして、今回チケットが入手できなかった、忙しくて東京の劇場まで来られないという皆様には、朗報があります。

東京公演の会場には記念撮影スポットも用意されている。zoom
東京公演の会場には記念撮影スポットも用意されている。

ロンドン公演を映像化したものを、東宝東和配給で2019927日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他全国にて凱旋公開されることが決定されたそうです。(シアターオーブ会場でも、映画館での上映情報チラシが配布されていました)

そちらも大変楽しみです。

 

「王様と私」東京公演は84日(日)まで、東急シアターオーブにて。

https://theatre-orb.com/

https://theatre-orb.com/lineup/19_KingandI/

 

ロンドン版『The King and I 王様と私』

927日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他にて凱旋ロードショー決定!

http://tohotowa.co.jp/news/2019/07/kingandi0711

 

今後、このコラムでは興味別、シーン別のおすすめミュージカル演目の紹介や、チケット入手方法など、ニューヨークやロンドンにミュージカルを観に行く方のプランニングに役立つ情報を発信していきます。

アート&トラベルライター:青山ルビー
ミュージカルやバレエなど、舞台に魅せられて約20年。ロンドン、ニューヨーク、東京で足しげく劇場に通う。「オペラ座の怪人」は25回以上、「レ・ミゼラブル」は15回以上、「RENT」は10回以上鑑賞。新作巡りやキャストにもこだわりが。また、ハワイの大自然と文化をこよなく愛し、ハワイ渡航歴25回以上。ハワイ州観光局公式ハワイスペシャリスト上級(ハープウ)。温泉ソムリエ協会認定温泉マスターソムリエ。
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