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旅の扉
- 【連載コラム】カナダ大西部 いろいろアルバータの秋
- 2019年6月20日更新
TVディレクター:横須賀孝弘
カナダ大西部 いろいろアルバータの秋 (1) ロッキーのふもとに広がる大平原
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- 新旧の建物が並存するカルガリー市街
- 日本と直結!国際都市カルガリー
去年の秋、カナダ西部の町、カルガリーを振り出しに、アルバータ州南部をぐるりと廻ってきました。先住民の歴史と文化を訪ねるのが主な目的でした。
「アルバータ州? あまり聞かないなあ。そんなマイナーなエリアの、先住民の歴史と文化って・・・どんだけ地味やねん!」とまあ、率直に言ってそう思われたことでしょう。
でも、実際に訪ねてみると、「ヘー!」「ホー!」「なるほど!」の連続でした。
しかも、州内のツアー会社が企画した旅行にも参加したので、先住民だけではなく、カナダ西部の自然や人々の営みにも触れ、秋のカナダならではの景観も堪能しました。
旅の起点、カルガリーへは、成田から直行便でひとっ飛び。太平洋を渡り、ロッキー山脈を越え、真っ平らな裾野に移ると、ほどなくカルガリー国際空港に着陸です。
カルガリーは、130万人が住む、アルバータ州最大の都市です。愛称は「カウタウン」。開拓時代、カウボーイが集めた牛を、ここで列車に積みこんだことから、牧畜業の中心地として栄えました。いまでは石油産業の中心地として急速な成長を遂げています。
繁華街では、町の生い立ちを映し出すように、古風な二階建ての商店街と近代的な高層ビルとが仲良く並んでいました。
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- 都心に出現したティーピー
- ビル街でティーピーに遭遇!
新しいビルには、壁がガラス張りのものが目立ちました。太陽のエネルギーを室内に取り込んで省エネを図っているんだそうです。
そんな近代的なビル街で、風変わりな光景に出くわしました。なぜか、西部劇でおなじみの「インディアンのテント」、ティーピーが立っていたんです。
「ティーピーのパワーは大したものだ」と、かつてある本に書いたことがあります。
野原でも、都会のストリートでも、ティーピーが一張りあるだけで、たちまち「絵になる風景」を造り出す。「ここにインディアンあり」ということを、ティーピーほど明確に、力強く宣言するアイテムがあるだろうか・・・
そのパワーに引かれて、というか、好奇心に駆られて、何をやっているんですか?と、ティーピーの近くに陣取る人たちに尋ねてみました。
彼らは地元の先住民で、自分たちの窮状、つまり、寄宿舎学校の爪痕とか、行方不明になる先住民女性が多いとか、貧困から抜け出せない問題などを、世に訴えるための活動なんだそうです。
北米先住民「インディアン」の諸部族は、カナダでは「ファースト・ネイションズ(第一の国々)」と呼ばれています。
現代の彼らは、他のカナダ人とあまり変わらない暮らしを送っています。でも、周りの社会にすっかり埋もれ、消えてしまったわけではありません。
近代的なビルに抗うように立つティーピー。まさに「ここにインディアンあり」を宣言しているように感じられました。
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- 果てなき空間
- スカッと爽快!大平原
カルガリーに着いたのは9月25日。翌日から5日間、アルバータ州南部を時計回りに一周するツアーに参加しました。
まず向ったのは、カルガリーの北東120kmにあるドラムヘラーという町でした。
カルガリーはロッキー観光の拠点です。西へ2時間ほどドライブすれば、バンフ国立公園。山々と湖が織りなす絶景に出会えます。
では、カルガリーの東には何があるかと言うと・・・何もありません。ただただ、草と雲が広がるばかりです。
その何もないことこそが、大きな魅力。広大無辺な大平原の景観は、実にスカッとして、爽快そのものです。
「何もない」があるバータ!なんてね。
何もないとは言っても、畑もあれば、池もあり、防風林に囲まれた家屋も現われます。牧草地には、牛が放牧されていました。広々とした牧場でのんびり草を食む牛たちは、狭い畜舎に閉じ込められている仲間に比べて、幸せそうに見えました。
ほんの200年ほど前には、畜牛のかわりに毛むくじゃらの野牛、バイソンが群れをなしてさまよい、先住民はそのバイソンを追う暮らしを送っていたんだなあ・・・なんてしみじみしているうちに、時差ボケでうとうと。
目が覚めたら、ドラムヘラーでした。カナダ名物のドーナッツチェーン、ティムホートンズでひと休みして、町の郊外にある王立ティレル古生物学博物館に向いました。
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- 「ブラック・ビューティー」と名付けられたティラノサウルスの化石
- 世界最大級!恐竜コレクション
実はこの博物館、大して期待してなかったんですが、実際に訪ねてみて、「なるほど、これはスゴイ!」と、感じ入りました。
恐竜化石のコレクションでは世界最大級。館内には、アルバータ州で発掘されたものを中心に、様々な恐竜の化石がズラリと並びます。「巨大な肉食恐竜が、足もとに倒れる草食恐竜をまさに食べようとするシーン」を骨格標本で再現した展示もありました。
そうした恐竜標本にもまして感銘を受けたのは、展示の志(こころざし)でした。「古生物学博物館」の名に恥じず、とても教育的で、しかも、見せ方が実に巧い。本を読んでもピンとこなかった古代生物の進化史が、ここではびっくりするほどスルッと頭に入ってきました。
特に後半は、「進化を辿るタイムトンネルの旅」という仕立てになっていて、5億年以上前、突如として生きものが大発生した「カンブリア大爆発」の時代から、1万2000年前のマンモスが繁栄した氷河時代まで、生物が進化してきた道筋をビジュアルに追体験できるんです。
呼び物は、様々な恐竜骨格が展示された「恐竜ホール」ですが、それも、あくまでも「生物の進化史をたどる旅」の一環として位置づけられていました。
実際には「北アメリカにおける生物の進化の歴史」という色が濃いんですが、それで「世界の生物の進化史」をほぼ語れてしまうのが、また凄い。
つまり、北アメリカ、特にアルバータ州周辺は、恐竜化石や、カンブリア大爆発を示すバージェス頁岩など、古生物学資料の宝庫だってことがよくわかりました。
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- ドラムへラー郊外のバッドランド。枠内はフードゥー
- 荒野の奇観!バッドランド
午後は、博物館を囲むバッドランドを探索しました。
「バッドランド(Badlands)」は、直訳すると「悪い土地」、つまり「荒れ地」ですが、ここでは、堆積岩の大地が雨風や川に削られて形作られた、特殊な地形を指します。お椀を伏せたような小山や、ドームのような丘、けわしい山岳に似た地形などが果てしなくつづきます。
特に変わっているのが、「フードゥー(Hoodoo)」と呼ぶ、キノコを想わせる造形。西アフリカやカリブ海の宗教「ブードゥー」が語源だそうです。
もともとは、炭酸カルシウムや鉄分を含む、浸食に強い岩の層が、砂岩など、削れやすい地層の間に挟まっていました。その後、融けた氷河が川となって流れ、強い岩の上に乗っていた地層をすっかり削り取ってしまい、さらに、岩盤の下の地層も少しずつ削られて、この奇妙な造形ができたといいます。
乾燥したバッドランドですが、セージ(ヤマヨモギ)など乾きに強い草が大地にへばりつくように繁茂していました。足元にはサボテンの姿も。こんな乾ききった土地でも、僅かな湿り気さえあれば、それを頼りにはびころうとする植物。逞しさというか、執念のようなものを感じさせられました。
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- アトラス炭鉱史跡の名物は、巨大な石炭積みおろし場
- 石炭ブームの夢の跡
ツアー2日目は、ドラムヘラーにあるアトラス炭鉱跡を訪ねました。ここの目玉は、木造の石炭積みおろし場。3階建てで、現存する木造石炭積みおろし場としては北米最大なんだそうです。なんだか、宮崎駿のアニメにでも出て来そうな光景でした。
ドラムヘラーはかつて石炭で大繁栄しました。恐竜の化石が豊富に出るということは、植物の化石である石炭もうなるほど埋もれていたんですね。町の名も、炭鉱開発に先鞭をつけたサミュエル・ドラムヘラーにちなむものです。
1911年、彼の尽力でこの地に鉄道が引かれました。鉄道は、大量の石炭を東部へ運び出すと同時に、東部から炭鉱労働者を連れて来ました。イギリスや東欧の男たちが多かったそうです。楽しみは酒と、バクチと、ケンカだけという、荒くれた男の世界でした。けれども、やがて女性も来るようになり、生活環境が整っていきました。
この地方で採れる亜瀝青炭は、建物の暖房にもってこいでした。カナダの冬は寒くて長い。全国の家庭や会社で使うストーブの燃料として、ドラムヘラーの石炭には膨大な需要がありました。
ところが、1950年頃から、石炭に代わって、天然ガスが使われるようになりました。おかげでドラムヘラーの石炭はさっぱり売れなくなり、炭鉱は次々と閉鎖されました。
アトラス炭鉱も1979年に閉鎖されましたが、国定史跡として保存されています。
石炭積みおろし場のほか、共同の洗濯舎や、トロッコなど、かつて人々のエネルギッシュな営みを支えた数々の施設が、秋の空の下で静かに眠っていました。
Canada Theatre(カナダシアター)
www.canada.jp/
カナダ観光局
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