旅の扉

  • 【連載コラム】カナダ大西部 いろいろアルバータの秋
  • 2019年6月27日更新
TVディレクター:横須賀孝弘

カナダ大西部 いろいろアルバータの秋 (2) 自然を満喫 恐竜公園

恐竜自然公園の紅葉。枠内は、復元されたジョン・ウェアの住まいzoom
恐竜自然公園の紅葉。枠内は、復元されたジョン・ウェアの住まい
燃え盛る秋色の恐竜公園

アルバータ州南部を巡るツアー、2日目の9月27日は、アトラス炭鉱国定史跡を訪ねた後、ドラムヘラ―の南東、車で二時間半ほどの「州立恐竜自然公園(Dinosaur Provincial Park)」に向いました。ユネスコの世界遺産に登録されている公園です。

「恐竜公園」という名前から、恐竜化石がズラリ立ち並ぶ施設と勘違いしてやってくる観光客がいるそうです。実際には、ただの公園でした。「恐竜公園」なんてまぎらわしい名前つけなきゃいいのに。

でも、実は、その名前にも、また、世界遺産に登録されているのにも、ちゃんと理由がありました。
公園の広さは73k㎡もあります。ビジターセンターの周りこそ「ただの公園」ですが、他の大部分はバッドランドが占めています。そして、そこから、大量の恐竜の骨が発掘されているんです。

「ただの公園」エリアでは、木々が見事に色づいていました。9月最終週は、紅葉のピークだったようです。公園のレンジャーの話では、もう一週間早かったらまだ緑っぽく、一週間遅れていたら落葉が目立ち始めていただろうとのことでした。

公園の木立ちに、一棟の丸太小屋がひっそりと佇んでいました。伝説の黒人カウボーイ、ジョン・ウェアの住まいを復元したものです。彼はアメリカの解放奴隷でしたが、1882年、アルバータ南部に初めて牛を運び、アルバータ牧畜業のさきがけとなったんだそうです。
雄大なバッドランドの景観zoom
雄大なバッドランドの景観
恐竜化石がごろごろ?

恐竜公園の、「ただの公園」ではない所を探訪しました。同じバッドランドでも、昨日訪ねたティレル古生物学博物館周辺よりもさらに壮大な景観が広がっていました。

レンジャーの案内で、ツアーの仲間と一緒に化石探しも体験しました。皆で懸命に探し、小さな恐竜の歯の化石(とレンジャーは言うけど、ホントかな?)が見つかりました。
見つけた化石は、もちろん、元の場所に戻さなくてはなりません。

ここの恐竜化石は、白亜紀後期、いまからざっと7500万年前の地層から見つかっています。これまでに58種もの恐竜の化石が発見され、発掘されたものは500体を越えます。見つかった種類も、発掘された数も、世界でも指折りの豊かさです。
 
かつて、それら恐竜の化石は、トロントやオタワ、ニューヨークといった大都市の博物館に送られていました。
恐竜の化石は、アルバータ州の宝なのに、当時は地元に適切な博物館がなかったばかりに、州外に運び去られるのを見ているしかなかったんです。

これじゃいかん、地元に化石を残そう、というわけで建てられたのが、ティレル古生物学博物館でした。開館は1985年。以後、アルバータ州で発掘された化石はこの博物館に収蔵し、研究・展示することになったというわけです。

州立恐竜自然公園での化石の発掘は今もつづいています。
夕陽に映えるバッドランドの岩山zoom
夕陽に映えるバッドランドの岩山
激写!大地の芸術

地中深く埋もれているはずの恐竜の化石が、バッドランドでは、地面をちょっと掘れば見つかったり、時には地表に露出していたりします。
大地が川や雨風に削られ、化石を含む地層の断面がぱっくり開いているので、化石が見つかりやすいんです。

バッドランドに現れた大地の断面は、幾重もの層をなし、層ごとに色が違います。
明るい灰色の地層は、川底に積もった砂が固まったもの。当時、この辺りは川の中だったことがわかります。
赤茶色は、生物の遺骸から出る鉄分に染まったから。生物が豊富に住める環境だったことを物語っています。

大地に刻まれた壮大な造形を、できるだけドラマチックに写したいものだと思いました。
それには、斜めからの光が欲しい。斜光が作る陰影は、造形に立体感を与え、くっきりと際立たせます。
日光が斜めに射すのは、夕方か早朝です。特に夕方は、光が柔らかく、赤みも混じって、風景がとてもつやっぽくなります。

でも、ここは、一番近くの街からでも50kmも離れています。個人旅行ならともかく、ツアーでは、ここで夕方まで粘るなんて、普通は許されません。

ところが、ラッキーなことに、気のすむまで風景を狙うことができました。その日は、バッドランドのふもとにあるテント小屋に泊まることになったからです。
カムフォート・キャンピングzoom
カムフォート・キャンピング
超お手軽キャンピング

恐竜公園の「ただの公園」エリアには、「カムフォート・キャンピング」と呼ばれる宿泊施設がありました。木製の屋根の下にテント張りの小屋が設けられ、すこぶる手軽にキャンプ気分が味わえるという趣向です。

テントの中は広々として、ベッドや長椅子、ストーブ、コーヒーメーカー、さらには冷蔵庫まで備えられていました。床は板張りで、リゾートのコテージに近い居住環境でした。
もっとも、さすがにトイレまでは付いていません。トイレやシャワーは公園の設備を使います。

住み心地はコテージ並みですが、堅い壁に囲まれたコテージと違って部屋全体が柔らかな陽の光に包まれ、テント生地一枚を隔ててアウトドアと繋がっているように感じました。

キャンプ場の前には、川を挟んでバッドランドの崖がそびえています。寝泊まりする場所から撮影できるので、バッドランドが夕陽に映える風景も、瑞々しい早朝の光を浴びて輝く光景も、余裕でカメラに収めることができました。

その日のディナーは、ツアーの仲間とバーベキューです。今回のツアーは、ガイドやドライバーも含めて総勢7人。男性3人、女性4人で、国籍は日本、カナダ、韓国、中国でした。全然知らなかった、いろいろな国の人と親しくなれるのも、こうしたツアーならではですね。
宿泊地に現れたミュールジカzoom
宿泊地に現れたミュールジカ
西部のシカに接近遭遇

夕食前のひととき、嬉しいハプニングがありました。宿泊施設の裏手にシカが現われたんです。ウサギみたいに大きな耳がとてもキュートな、ミュールジカでした。北アメリカ西部だけで見られるシカです。

なにしろ本職が自然番組のディレクターですから、シカなんか見たら撮影したくて堪らなくなります。驚かさないよう、物陰に隠れ、姿勢を低くして接近。ついには地面に腹ばいになり、シカのご機嫌をうかがいつつ、シャッターを切りまくりました。

今思うと我ながら間抜けな姿でした。そこまで気を使わなくても、ここのシカは人を嫌がらないんです。流石に野生のシカだけあって、時々頭をもたげて周囲を見ますが、すぐにまた草を食べ始めます。ここでは人間が危害を加えないことをよく知っているんですね。

1時間ほどの間に、子連れの母ジカをはじめ、何頭かを見つけました。どれもメスで、角がありません。大きな角を戴いた、カッコいい牡ジカも撮りたかったんですが、オスは狩猟の対象になっているからか、用心深く、中々姿を現しません。
翌朝8時前、去年生れた小さな角のオス2頭が現われ、辛うじてオスも撮影できました。

シカは主に夕暮れから早朝にかけて動きます。そんな時間に公園に居られたのも、現地に泊まれたからこそ。
恐竜公園で秋の自然を満喫しました。
Canada Theatre(カナダシアター)
www.canada.jp/


カナダ観光局

いろいろアルバータの秋 (3) ガスの街・先住民の聖地 を読む→
TVディレクター:横須賀孝弘
NHKエンタープライズに勤務。TVディレクターとして「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」などNHKの自然番組を制作。職務のかたわら、北米先住民の歴史・文化を調べている。
著書「ハウ・コラ~インディアンに学ぶ」「北米インディアン生活術」「インディアンの日々」ほか。訳書「北米インディアン悲詩~エドワードカーティス写真集」「大平原の戦士と女たち」。ここ5年ほどは、カナダ先住民の歴史や、毛皮交易史にハマっている。
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