旅の扉

  • 【連載コラム】すべて知りたい!カナダ・ニューファンドランド島
  • 2018年11月15日更新
ジャーナリスト:平間 俊行

すべて知りたい!カナダ・ニューファンドランド島 vol.1 豊かな海と、氷山と

ニューファンドランドの海岸で見ることができる独特の風景zoom
ニューファンドランドの海岸で見ることができる独特の風景
これからカナダのいちばん東の端っこ、大西洋に浮かぶニューファンドランド島の話をしたい。連載の初回にもかかわらず、唐突なスタートで申し訳ない。それに、一般的にはあまり聞きなれない地名であることは僕自身が重々、承知している。

カナダには取材で20回ほど訪れている。取材をしてはWEBサイトや雑誌に原稿を書き、本を出版したり、講演会でしゃべったり。そんなふうにして日本ではあまり知られていないカナダの新しい魅力を伝え続けている。

そんな僕にとっても、2018年夏に初めて訪れたニューファンドランドは、まったく想定を超える場所だった。これまで取材対象にはしてこなかった島。一体何があるんだろうと、首をかしげつつ空港に降り立った島。

しかし、ニューファンドランドにはとんでもなく壮大で奥深い人間の物語があった。だから、僕が味わった感動を多くの方にお伝えしたいと思う。

と言ったものの、それを全部伝え切るまでに、連載はいったい何回続くんだろうと不安にもなる。書く側が急にこんなことを言い出せば、編集の方はもっと不安になるだろう。しかし申し訳ない、今の僕にも着地点が見えていないのだ。感じたことがあまりにも多すぎる。僕はこの連載で、ニューファンドランドを語り尽くすことができるのだろうかー。
夏の間、子育てのためエリストンの岬に集まるパフィン。人を警戒することなくトコトコ歩くzoom
夏の間、子育てのためエリストンの岬に集まるパフィン。人を警戒することなくトコトコ歩く
夏にだけ暮らす岬

ニューファンドランド島は、カナダに10ある州のうちの1つ「ニューファンドランド&ラブラドール州」のおよそ半分を構成している。ニューファンドランドという島と、ラブラドール地方という2つのエリアを合わせて1つの州となる。ただし、ラブラドール地方は北極に近く、住む人も少ない。「アドベンチャー」という言葉がしっくりくるような土地だ。

日本からニューファンドランド島に入るなら、カナダ最大の都市トロントで飛行機を乗り換え、島の東側にある州都セント・ジョンズに入るのが一般的だろう。ただし、州都は後回しにして、まずは島の北東に位置するエリストン(Elliston)という岬にご案内したい。

この岬にはパフィン(Puffin)の営巣地がある。パフィンという鳥は飛ぶのも泳ぐのも得意で、ほとんどの時間を海で暮らしている。しかし、さすがに夏の子育ての時期だけは陸地に上がってくる。エリストンの岬の先にある小さな島が子育ての場所で、パフィンの親鳥たちは手前の岬の側にも渡ってきて、訪れた人たちに間近で愛らしい姿を見せてくるのだ。

白黒の胴体にオレンジの縁どりの大きなクチバシ。パフィンはまったく警戒することなく、トコトコと歩いている。周囲の人間は、びっくりさせないよう静かに、ゆっくりと近づいて写真を撮ることができるのだ。

本当の「インスタ映え」

だからここでは、パフィンといっしょに記念撮影だってできる。ほふく前進でそろそろと近づき、くるっと振り返ってパチリ。まさに究極の「インスタ映え」だ。自撮り棒では難しいだろうから、カメラは旅の同行者に託した方がいいだろう。

僕の想像だけれど、ここにはあまり大勢の人が押しかけないことや、みんながマナーを守り、パフィンに対して「撮影させていただいている」という姿勢でいることが、この貴重な「インスタ映え」を可能にしているんじゃないだろうか。

ここでちょっとだけ脱線させてもらうと、僕は常々、狙いに狙ったあざとい「インスタ映え」には疑問を抱いている。食べられるはずもない巨大なパフェとか、危険を承知で断崖絶壁に立ったりとか。しかも時々、事故も起きている。本当に「インスタ映え」を目指すのなら、ニューファンドランドのエリストンの岬みたいなところに来るべきなのだ。
オレンジ色の伸縮自在な部分のおかげでシシャモを大量にくわえることができるzoom
オレンジ色の伸縮自在な部分のおかげでシシャモを大量にくわえることができる
シシャモをたくさんとれるわけ

さて、パフィンの口元というか、「クチバシの元」を見ると、鮮やかなオレンジ色をした柔らかそうな部分がある。これがかなり伸縮自在で、おかげでパフィンは大きくクチバシを広げることができる。だから写真のように口いっぱいシシャモをくわえることだって可能なのだ。

ただし、いくらクチバシを大きくあけられるといっても、シシャモが大量に泳いでいないことにはどうにもならない。つまりパフィンが口いっぱいにシシャモをくわえることができるのは、ニューファンドランド沖が非常に豊かな海であり、湧いてくるほどシシャモがたくさんいるという証しでもあるのだ。
僕がニューファンドランドのレストランで食べたシシャモのソテーzoom
僕がニューファンドランドのレストランで食べたシシャモのソテー
では、どうしてニューファンドランド沖の海が豊かなのか。この海域には、北からラブラドール海流という「寒流」と、南からメキシコ湾流という「暖流」が流れてきて、ちょうどぶつかっている。中学校ぐらいの地理で習っているはずだが、寒流と暖流が交わるところには双方の海流の魚が集まり、またプランクトンが豊富なことから好漁場となる。

おかげでニューファンドランドの旅では、たくさんの種類のシーフードを楽しむことができる。ただしシシャモは、もともと地元ではあまり食べられていなかったようだ。近年では日本にたくさん輸出されるようになり、シシャモを食べる人も増えてきたという。

僕もニューファンドランドのレストランで、粉をまぶしてソテーしたシシャモにマヨネーズをつけて食べた。なかなかの美味だったけれど、パフィンがシシャモをくわえているあの写真が頭に浮かぶと若干、味が落ちるような気がする。シシャモを食べている時はあの写真は思い出さないように努めたい。
ニューファンドランドで体験できる「氷山ウォッチング」zoom
ニューファンドランドで体験できる「氷山ウォッチング」
寒流が運んでくるもの

豊かな海の幸をもたらしてくれる海流がもう1つ、運んでくるものがある。それが巨大な氷山だ。ニューファンドランドは「氷山ウォッチング」ができる珍しい場所なのだ。

氷山とは何か。「氷山の一角」などという言葉はあるけれど、では氷山とは何かについてきちんと考えたことのある人はほとんどいないだろう。

まず、氷山のもとになるのは氷河だ。氷河は、はるか昔に大地に降った雪が積み重なり、押し固められてできた巨大な氷の「河」。その名の通り、氷河は「河」のように少しずつ移動しながら大地を削り、海へと降り下っていく。氷河によって深くえぐり削られた大地が「フィヨルド」であり、海まで到達した氷河が崩れて海に落ち、海流に乗って流れてくるのが氷山なのだ。

グリーンランドの氷河が海に崩れ落ちて氷山となり、寒流であるラブラドール海流に乗ってニューファンドランド沖までやってくる。だから僕らは、ここで「氷山ウォッチング」を楽しむことが出来るというわけだ。
寒流によってグリーンランドからニューファンドランドまで運ばれてくる氷山zoom
寒流によってグリーンランドからニューファンドランドまで運ばれてくる氷山
豪華客船と氷山

ところで、大西洋上を流れ行く氷山と聞いて、何か思い浮かぶことはないだろうか。1912年(明治45年/大正元年)4月、イギリスのサウサンプトンを出港し、アメリカのニューヨークに向かっていたタイタニック号は、まさにニューファンドランド沖の海上で氷山に衝突して沈没した。

豊かな海の幸をもたらしてくれる寒流は、その島の沖に氷山を運び込み、処女航海中の豪華客船を海へと沈めたのだ。

次回はニューファンドランド沖で沈んだタイタニック号に思いを馳せようと思う。

知りたい ニューファンドランド
https://www.canada.jp/newfoundland-and-labrador/


Canada Theatre(カナダシアター)
www.canada.jp/


取材協力: カナダ観光局

「すべて知りたい!カナダ・ニューファンドランド島 vol. 2 島と賢治とタラの話」へ続く...
ジャーナリスト:平間 俊行
ジャーナリスト。カナダの歴史と新しい魅力を伝えるため取材、執筆、講演活動を続けている。2017年のカナダ建国150周年を記念した特設サイト「カナダシアター」(https://www.canada.jp)での連載のほか、新潮社「SINRA」、「文藝春秋」、「週刊文春」、大修館書店「英語教育」などにカナダの原稿を寄稿。著書に『赤毛のアンと世界一美しい島 プリンス・エドワード島パーフェクトGuide Book』(2014年マガジンハウス)、『おいしいカナダ 幸せキュイジーヌの旅』(2017年天夢人)がある。
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