旅の扉

  • 【連載コラム】空旅のススメ
  • 2018年4月26日更新
あびあんうぃんぐ
航空ライター:Koji Kitajima

シドニー近郊「HARS歴史的航空機修復協会」でお宝機体と遭遇

シドニー南方 ウォロンゴン郊外イラワラ地域空港の一角にありますzoom
シドニー南方 ウォロンゴン郊外イラワラ地域空港の一角にあります

HARSとは
旅の目的はいろいろありますが、趣味の世界へ没入させてくれる場所が見付かるととても嬉しいものです。私にとってのそんな場所のひとつとなったのがHARS=Historical Aircraft Restoration Society)です。歴史的航空機修復協会は、その名の通り、歴史的名機を復元して保存するというもの。可能な限り飛べる状態にするのも協会の目的です。カンタス航空で1989年にロンドン⇒シドニー間を20時間9分のノンストップで飛んだ「ボーイング747-400、VH-OJA」が退役後にここに収蔵されたことでも有名になりました。

場所は
シドニー空港から南へ90キロ。ウォロンゴンという街の近くのアルビオンパークにイラワラ地域空港があり、その一角にあります。シドニー空港から、1時間強のドライブで到着します。赤い尾翼のジャンボジェットが見え、敷地奥の建物「Air Museum」と書かれた場所が入り口とわかりました。

受付から
「Reception」と書かれた受付は、機体内部を模した造り。ボーイング707の内装パネルに、カウンター部分はボーイング747機のフラップでできています。707は、1979年までカンタスで運航していた実機から部品を取りました。受付の様子から、その凝ったつくりに感嘆しながらボーイング747のプレミアムツアーにウィングウォークのオプションを付けて申し込みました。

この施設は、屋内展示場、屋外展示場、格納庫にわかれています。屋内には、受付、カフェ、スーベニアショップ、映像ホールで構成されます。屋外展示場には、ジャンボジェットが。その他の機体は格納庫にて、修復・保管されています。

ボーイング707の内装パネルと747のフラップでできた受付zoom
ボーイング707の内装パネルと747のフラップでできた受付

見学スタート
まずは二階に上がり、映像ホールでSteveさんから全体の解説があって、ジャンボジェットが博物館に来た日の様子がビデオで流されます。栄えある記念の日。多くの人が大きな機体を迎え入れたことがわかります。

ジェンボジェット見学
続いて屋外へ。脚廻りから見せてくれます。日本のエアラインではジャンボジェットに採用されなかったロールスロイスのエンジンRB211-524Gを間近で見るのは初めて。GEやプラットアンドホイットニー社のエンジンよりスマートに見えますが、実は3つのエンジンの中で一番重量の重いのがロールスロイス。アヴィオニクスの解説はRogerさん。前輪すぐ後ろのエレクトリックベイの扉を開けて、梯子を引出し、中に入れてくれました。ここは、ジャンボの心臓部。機体の電源装置のサーキットブレーカーが集まった場所ですので、いざという時は機内最前方コンパートメント床からもからもアクセスすることができます。後ろに続く前方カーゴルームも見ることができましたし、カーゴドアも油圧を作動させて開けてくれました。

ジャンボジェットの心臓部 エレクトリックベイは前輪上部にzoom
ジャンボジェットの心臓部 エレクトリックベイは前輪上部に

機内各所へ
一旦外に出て、L4(左舷4番目)ドアから機内へ入ります。座席は就航時のまま残されていました。ここからは、カンタス航空カスタマーサービスマネージャー経験者のMichaelさん。普段見られない部分を案内してくれるというので付いていくと、機体最後部天井部分に造られたクルーバンクへ。今の機体に比べて8人がゆったりできるスペースがありました。左舷後部の下段ベッドの横にはFDR(フライトデータレコーダー)とCVR(コックピットボイスレコーダー)の設置されている箇所もありました。最後部の壁を開けると、おわん型の圧力隔壁までが見えています。

エコノミークラス、プレミアムエコノミークラス、ビジネスクラスへと前方へ。
アッパーデッキを通ってコックピットへ向かいます。プレミアムエコノミーが装着されているということは、まださほど前の退役ではありません。2015年3月8日にシドニー空港から、このイラワラ空港へ11分の飛行で飛来しています。「パナソニックのエアコンのおかげで夏の見学も快適だよ」と教えてくれました。

普段見ることの出来ない機内各所に稼働するコックピットzoom
普段見ることの出来ない機内各所に稼働するコックピット

コックピットで
コックピットでは、キャセイパシフィック航空元キャプテンのPeteさんが電源の入った計器を前に解説してくれます。エンジンの始動の仕方、離陸、エマージェンシー時のエンジンカットオフ。チェックリストを読み上げてくれるので、パイロットになった気分で操作できます。車輪収納以外の全てのスイッチを操作することができました。コックピットの窓の外はイラワラ空港の滑走路が見えており、まさに動き出しても違和感のない風景が広がります。コックピット内にパイロット用トイレとクルーバンク1台。もう一台は、アッパーデッキ後方の階段の横に機体のふくらみを活用して余った場所に作られていました。

翼の上を歩く
このツアーのハイライトは「ウィングウォーク」。文字通り、翼の上を歩きますが右翼のみ。R3(右舷3番目)ドア付近で、落下防止の装具を身に付けます。翼の上に渡したワイヤーに繋げて命綱にしています。翼の上の非常用ドアから、ハシゴを使って主翼に降ります。滑り止めのマットの上を主翼の中ほどまで歩いていきます。ここでの楽しさは、今までに目にしたことの無い光景が広がっていること。翼から見る機体の様子は、新鮮。ウィングレットも間近で見えて改めてジャンボジェットの巨大さを実感します。写真を撮ってくれるというのでカメラを渡すと、何故か自然に両手を広げて舞うポーズを取ってしまいました。誰もが自然にその形になると笑っていました。

ウィングウォークで新鮮な体験zoom
ウィングウォークで新鮮な体験

コニーを見る
飛べる機体として保管されているのは、「ロッキードC-121Cスーパーコンステレーション」で通称コニー。機体番号VH-EAGはゆったりとしたソファーのような座席が装備された機内も綺麗に残っています。当時のサービスの様子があたかもまさに今飛行中と言わんばかりに目に浮かびます。コックピットは密集した計器のある洞窟のような佇まい。隣に駐機していたのは海上自衛隊にも配備されているロッキードP3Cオライオン。

ロッキードスーパーコンステレーションの見学zoom
ロッキードスーパーコンステレーションの見学

お宝機体が続々と
飛べないけれど、保管用として「コンベア440」のVH-TAA、「ダグラスDC-3」VH-EAFや修復中の「ダグラスDC-4」VH-EAYなど、格納庫に所狭しとならんでいます。軍用機もあって、ジェナラルダイナミクスのF111C、ベルAH-1ヒューイコブラやロッキードP2Vネプチューンなどが知った機体でした。

受付に戻って来ると、ミュージアムショップを見て見学終了となります。キーチェーン、コースターやモデルなどグッズがたくさん。時間があれば、カフェ「コニー」で休んでいきましょう。

HARSの未来
俳優のジョントラボルタが所有するボーイング707が寄贈されることでも話題になりました。1964年製造の707はカンタス航空で30年以上飛行したあとにトラボルタの所有となりました。現在、アメリカのフロリダでオーストラリアまでの飛行に向け準備中で、博物館での受領に向けて用意が進められているとのこと。この博物館の素晴らしいところは、飛べる機体は飛ばす気概があることやジャンボジェットも電源が入って生きていること。実機を保存する事さえ日本人の感覚では難しいと思えますが、素晴らしい環境です。
トラボルタの707も飛べる状態で保存になりそうです。シドニーヘ戻る車の中で、ここへの訪問だけを目的にしてシドニーへ再訪してもいいと思わせる場所だったとその余韻を楽しみました。

協力:HARS ⇒ https://hars.org.au/

カンタス航空 ⇒ https://www.qantas.com/jp/ja.html

参考動画:Farewell VH-OJA

⇒ https://www.youtube.com/watch?v=qFqJNhX_hNI

航空ライター:Koji Kitajima
大阪府出身。幼少期より空への憧憬の念を持ったまま大人になった、今や中年の航空少年。
本業のかたわら情報を発信しています。週末は航空ライター兼ブロガーとして活動中。
旅のモットーは、「航空旅行を楽しまないと旅の魅力は半減です。旅の楽しみは空港から始まる」です。

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