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ボリビアの村 Photo by Maco-Chan
ちょっとご無沙汰してしまいました。何をしてたかって?
えーと、既婚女性と恋に落ちて、まわりを巻き込んで何もかもめちゃくちゃになって、もうこれは逃げるしかないとなって、ふたりでボリビアに行きました。これが失敗で、まず最初に到着したラパスで僕が高山病にかかりました。体調はすぐに回復しましたが、早々に彼女に迷惑をかけることになってしまいました。思いのほか英語が通じないのも困りました。彼女はスペイン留学の経験があってスペイン語が堪能でしたが、僕はひとりではバスの切符すら買えないような状況でした。行く先々で食べ物にも困りました。ご存知の通り、僕は鳥、豚、牛、など、いわゆる「肉」を食べません。ボリビアにも魚料理はあるにはあるのですが、所詮海のない国の話です。しょうがないからキヌアと呼ばれるアワとかヒエのような穀物でできたパンばっかりを食べていました。
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DJ中の僕 なかなかかっこいいでしょ? Photo by Takahiro Wada
と、言うのは全部嘘です。ごめんなさい。僕はけっこう嘘をつくのが得意なんです。奥さんにはすぐにばれちゃうんですけどね。ボリビアは嘘で、実際はずっと東京にいまして、最近はよくDJをやっています。DJって、そうです。あのレコードをかける人のことです。いいでしょ?50を前にしてDJデビュー。とは言っても、クラブとかディスコなどのダンスミュージックは専門外。いつもカフェやレストランなどで静かにBGMを流しています。空間のムードを演出する「インテリア・ミュージック」がスタイル。
ちなみに音源はレコードオンリー。CDもパソコンも使わずにアナログレコードに限定しています。コレクションも今や1500枚ぐらいになりました。レコードは音の良さももちろんですが、1曲1曲の重みが違います。そして、盤は物理的にとても重いです。ひとりで運べるレコードの数はせいぜい100枚ぐらい。そのぐらいがちょうどいいと僕は思っています。パソコンでDJする人みたいに何万曲もの中から次の1曲を選べと言われたら僕なんかはもう混乱してしまいます。女の子だってスパイスガールズ(古い?)の中で一番好きな人は誰か言えるけど、最近のみたいに40何人とかいたら全員同じ顔に見えてしまいます。
レコードは基本中古ですから、例えばラジオなんかで耳にした曲を欲しいなと思っても、そう簡単に手には入りません。中古レコード屋を回って探しまくって、まあすぐに見つからない。あってもプレミア扱いでとんでもないプライスがついてたりしてね。そうやって苦労して手に入れた曲には思い入れがあります。iTunesのワンクリックで買ったのとはやっぱり違う。
DJはソロの時とあとDJ友達3人で組んだチームでも活動しています。3人ともタイプが全く違って、まあ他の2人はもうDJとしては大先輩なので、肩を並べるだけでも恐縮なんですけど、音質とかストーリーの組み立てとか何もかもがバラバラでとても面白いの。好きなアーティストとか曲は3人でけっこう共通してるんですけどね。同じ曲でもかける人によって全く違う風に聴こえるのは不思議です。
メンバーのひとりがハラダさん。本業が映像関係ってこともあってか、まるで映画の中に迷い込んだかのような気分にさせる選曲をします。彼が持ってるレコードのコレクションがまた凄いの。特にフランスモノとかどこのレコード屋でも見たことないようなお宝がレコードバッグの中にあふれています。知識も深くて、それぞれのレコードが作られた際のエピソードとか詳しく教えてくれます。そして盤をとてもとても大事に扱います。彼の奥さんはレコードに嫉妬したりしないのかな。
ねえハラダさん。そのレコードはどこで買ったんですか?
パリです。
パリ?
そう、レコードを買いにパリまで行くんですよ。
なるほどね。
えーと。マイアミから東京には向かわずに北大西洋をこえてパリに向かいました。使ったのはアエロフロート。ロシアの航空会社です。LCCが登場する前からずっと料金の安いアエロフロートは貧乏旅行者の味方でした。で、隣に座ったのが金髪のロシア美人。彼女はマイアミ大学の留学生。あまり知られてないのだけど、マイアミ大学は何人もの有名な建築家を輩出しているらしいです。で、彼女の学校が長期の休みに入ったのでモスクワに一時帰国する途中にパリに寄って観光するんだとか。お目当のお菓子屋があってそこのチョコレートタルトがもう絶望的に美味しいのだそうです。
で、あなたは何しにパリへ?
あ、僕?僕はね、うん、ええと、レコードを買いに。
レコード?あの丸くて音が出るやつ?
そう、レコードを買いにパリまで行くんですよ。
そのためにわざわざパリへ?
うん。でも君の話を聞いてチョコレートタルトも食べてみたくなってきた。