トラベルコラム

  • 【連載コラム】イッツ・ア・スモール・ワールド/行ってみたいなヨソの国
  • 2012年8月5日更新
夢想の旅人=マックロマンスが想い募らず、知らない国、まだ見ぬ土地。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス

ザンビア

ザンビアってどこだか知ってますか?アフリカ南部にあります。内陸なので海はない。大自然の中にゾウだのキリンだのシマウマだのたくさん住んでいる、ザッツアフリカみたいなイメージの国です。行ったことあるかって?いや、ないんです。今のはウィキに書いてあったのを引っぱって来ただけ。

それでもザンビアには少し親近感があります。同じアフリカの国でもタンザニアやモザンビークよりも愛着がある。その理由は、以前、僕の店(バーのようなところ)でザンビア人の女の子が働いていたことがあるから。

店の人員増やそうかと、でも面白いキャラクターがいいなと思って外国人向けの情報誌に求人募集を出したら、来るわ来るわ、ありとあらゆる国の人たちが大集結です。海を越えて写真入りの履歴書なんかも送られてくる始末、仕事の内容は皿洗いとかなのにね。
photo by Yoko Iwabuchizoom
photo by Yoko Iwabuchi
果たして、倍率100超の皿洗いポジションを得るためのワールドカップを手にしたのが、ザンビアという聞いたこともないような国からやってきた女の子でした。何で彼女を選んだか?たぶんそれは彼女が一番静かだったからでしょう。外国人てのはどこの国の人も自己主張がすごい。何人もと面接して、彼らの「特技」とか「やる気」みたいのを聞いているうちに、だんだん気が滅入ってきて、結局「何も主張しない」人を採用するに至ったってわけです。

結果はオーライ。文句も言わずよく働くいい子でしたよ。何でもちゃんとこなすし、機転も聞くし、僕の選力眼もまんざらでもなかったようです。ただ、びっくりしたのが計算。お金の計算はまあ普通にできるんだけど、ハカリが読めないんだなこれが。「コーヒ豆30グラムだよ。容器が100グラムあるから130グラムの目盛のところまで豆を入れればいいわけだ。」という話がいくらどうしてもうまく通じない。

お兄さんが大使館員だって言ってたから、そこそこの教育を受けられる環境で育ったと思うのだけど、国によってそういうのっていろいろなんだなあと思いました。ヨーロッパの人たちだって、引き算の仕方とか我々とは全然ちがうよね。
「おいおい、旅の情報サイトでさっきから何の話をしてるんだい?」

おっと、これは失礼しました。自己紹介もまだでした。僕はマックロマンス。普段はバーのようなところで働いています。若い頃はあっちこっち飛び回っていましたけれど、最近は旅行にいく機会もめっきり減りました。でも、仕事柄、旅行の話はよく耳にしますよ。想像を絶する美しい景色、恐ろしい体験、すごくまずい料理、現地人の奇妙な習慣、不思議な体験、聞いたこともないような音楽、出会い、別れ、また出会い。そういう旅のみやげ話を聞いて、いいなあ。いつか行ってみたいなあとって思ったのが、このエッセイの出発点。

これは、僕、マックロマンスが、行ってみたいと思う国の話、興味がある街、見知らぬ土地によせる想いなどを綴る一風変わった「旅エッセイ」です。どこそこに行ってきました。って話をする人はたくさんいるけど、行ってない場所の話をする人はあまりいないでしょ?ちょっと新しいと思うんだ。いかがでしょう?
photo by Yoko Iwabuchizoom
photo by Yoko Iwabuchi
ある日、僕がいつものように買ってきた花を花瓶に生けていた時のこと。出勤してきた、そのザンビアの女の子が僕の手にしてるユリを指差して「ミスタマスタ、それまさかお金払って買ったですか?」そうだよ。と僕がうなずいた途端にゲラゲラ大声をあげて笑いだしたからびっくりした。もう可笑しくて可笑しくてたまらないといった感じで腹を抱えて涙まで流しながら笑ってるもんだから、何だかこっちまで可笑しくなってきて、しばらくいっしょになって笑ったよ。

聞けば、ザンビアにはあっちこっちに自然のユリが生えていて、つまりは雑草で、誰も目もくれもしないんだって。それを僕が金出して買って神妙な目つきで花瓶に挿してる様子が笑えたらしい。そうなんだね。ともあれ、いつもはおとなしい彼女の素敵な笑顔が見れてよかった。

アフリカの大地に野生のユリが咲き乱れ、甘く官能的な香りをはなっている。女たちが集まって手仕事をしながら、あれこれおしゃべりしている。「日本ではあのユリを花屋で買って部屋の中に飾ってるのよ。」女たちが一斉に笑う。

行ってみたいなあ。ザンビア。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス
マックロマンス:プースカフェ自由が丘(東京目黒区)オーナー。1965年東京生まれ。19歳で単身ロンドンに渡りプロミュージシャンとして活動。帰国後バーテンダーに転身し「酒と酒場と音楽」を軸に幅広いフィールドで多様なワークに携わる。現在はバービジネスの一線から退き、DJとして活動するほか、東京近郊で農園作りに着手するなど変幻自在に生活を謳歌している。近況はマックロマンスオフィシャルサイトで。
マックロマンスオフィシャルサイト http://macromance.com
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