旅の扉
- 【連載コラム】【厳選旅情報】編集部がみつけた、旅をちょっぴり豊かにするヒント
- 2026年8月27日更新
- リスヴェル旅コラム
Editor:リスヴェル編集部
2000年前の国際都市を歩く。一支国博物館から原の辻遺跡へ
zoom
- 原の辻遺跡の復元建物と空
- 今から2000年ほど前、壱岐には海の向こうから人や物が行き交う“国際都市”があった。その王都と特定されているのが、原の辻遺跡だ。中国の貨幣や朝鮮半島系の土器なども出土している。現在はのどかな田園風景が広がるこの場所に、かつて多くの人が暮らし、海を越えて交易していた。その姿を知ることができるのが、原の辻遺跡(はるのつじいせき)を見下ろす丘に建つ一支国(いきこく)博物館だ。
zoom
- 周囲の景観に溶け込む一支国博物館の建築
- 小高い丘の上に建つ壱岐市立一支国博物館は弥生時代の土器を模したかのように、周囲の景観に溶け込むような曲線の美しい建築が印象的だ。建築家の故・黒川紀章氏が設計を手がけ、2010年3月に開館した。弥生時代に中国の歴史書『魏志』倭人伝に『一支国』と呼ばれるクニとして登場した、古代の壱岐の歴史を再発見することができる。
zoom
- 一支国博物館の展望室から眺める原の辻
- 常設展示室では、映像やジオラマ、出土品などを通して、一支国の時代から現在までの壱岐の歴史をたどることができる。個人的に目が留まったのは、占いに使われた卜骨とイエネコの骨。2000年前の人々も未来を占い、身近に動物がいる暮らしをしていたのかと思うと、弥生時代が急に近く感じられた。書や写経に興味がある人なら、国の重要文化財に指定されている高麗版大般若経も見逃せない。展示を見ていると、壱岐が古くから海の向こうの世界とつながっていたことが見えてくる。
zoom
- 一支国博物館の常設展示
- 館内には甲冑や武具も展示され、壱岐が海を介した交流の拠点である一方、時には戦いの舞台にもなった歴史を伝えている。1274年の元寇では、対馬に続いて壱岐も攻撃を受け、大きな被害を受けた。原の辻が栄えた時代から約1500年後も、大陸に近い壱岐の地理的位置は変わっていない。壱岐の地理的な条件は、交流と衝突の両方をこの島にもたらし続けてきたと言える。
zoom
- まずは博物館で、2000年前の王都へ
- 館内の見どころの一つが、原の辻遺跡の集落を再現した大型ジオラマだ。竪穴住居や高床建物などが並ぶ様子から、当時の集落の規模や、人々の暮らしを具体的に想像することができる。原の辻遺跡は、幾重にも巡らされた環濠に囲まれ、周辺の遺構を含めると東西・南北ともに約1km四方に及ぶ、国内最大級の弥生時代の環濠集落とされる。集落内には6か所の墓域が確認されており、石棺墓や土壙墓からは、銅鏡や銅剣、腕輪などの青銅器のほか、ガラス玉や勾玉なども見つかっている。環濠の外側からは、東アジア最古とされる船着き場跡も見つかっている。発掘調査によって明らかになってきた王都の姿を、このジオラマでは一目で見渡すことができる。この模型を眺めてから、実際にその場所を歩いてみることにした。
zoom
- 柱の上には、神の使いと考えられていた鳥の姿も
- 博物館を出て、実際に原の辻遺跡公園へ足を運んだ。入口で目に留まったのが、二本の柱の上に鳥を配した独特な形の門だ。弥生時代には、集落や神聖な場所との境界にこうした門が設けられ、鳥は神の使いと考えられていた。現在の神社にある鳥居とは形が異なるが、こうした門が鳥居の起源になったという説もある。何気なく通り過ぎそうな場所にも、2000年前の人々の信仰を想像する手がかりがある。
園内に点在する復元建物のうち、一つは祭殿、もう一つは食糧庫とされる建物だった。どちらも思っていた以上に高い場所に床があり、そのぶん建物全体が大きく見える。食糧庫が高床になっているのは、ネズミなどから穀物を守るためとされている。ところが、現在の復元建物にも別の悩みがある。茅葺き屋根の茅を、鳥が巣づくりのために持っていってしまうのだそうだ。2000年前の人々も、動物を相手に同じような苦労をしていたのだろうか。そんなことを考えながら歩くと、復元された建物が少し身近に感じられた。
博物館のジオラマでは、原の辻遺跡の全体が一目で見渡せた。しかし、実際に公園を歩いてみると、建物と建物の間は思っていた以上に広い。原の辻遺跡は国の特別史跡にも指定され、登呂遺跡や吉野ヶ里遺跡とともに、日本を代表する弥生時代の遺跡として知られている。訪れたのは夕方に差しかかる時間帯で、人影もまばらだった。次に訪れるなら、夕方がいい。原の辻を歩きながら夕陽を眺め、そのまま星空を楽しんでみたい。
一支国博物館で2000年前の壱岐を知り、原の辻を歩き、最後に岳ノ辻から島を見渡す。広い平地には水田が広がり、その先には海がある。海の向こうは朝鮮半島や中国、反対側は九州だ。ここまで来ると、なぜこの島に一支国が栄えたのかが、少し分かる気がする。歴史の知識がなくても十分楽しめる。でも、博物館を見てから原の辻を歩けば、目の前の田園風景が少し違って見える。2000年前の人々もここを歩き、米を育て、海の向こうからやって来る人や物を迎えていた。そんな時間に想いを巡らせながら歩くのが、原の辻の面白さだと思う。
壱岐市立一支国博物館 公式サイト:http://www.iki-haku.jp/
壱岐市観光連盟 公式サイト:https://www.ikikankou.com/