旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2026年6月28日更新
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コラムニスト:Tomoko Nishio

森の舞台で上演される妖精譚、第37回清里フィールドバレエは新作『ラ・シルフィード』

『ジゼル』2幕より。『ラ・シルフィード』と並ぶ三大バレエ・ブランに数えられるzoom
『ジゼル』2幕より。『ラ・シルフィード』と並ぶ三大バレエ・ブランに数えられる
夏の清里高原の風物詩「清里フィールドバレエ」が萌木の村の野外特設ステージで約2週間にわたり開催される。日本で唯一、継続して行われている野外バレエで、今年は37回目。今回の上演作品は19年ぶりの新作『ラ・シルフィード』だ。スコットランドの森を舞台に繰り広げられる空気の精シルフィードと人間の男性ジェームスの恋模様を描いた妖精譚で、本物の森が舞台セットとなるフィールドバレエにはぴったりの演目。バレエを統括するバレエ・シャンブルウエスト総監督の今村博明氏に話を伺いながら、見どころを紹介しよう。
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『ラ・シルフィード』(イメージ)
妖精が夜空に舞う、スコットランドの妖精ファンタジー

清里フィールドバレエは森に設えられた野外ステージで行われる公演。本物の森の舞台に古城、湖畔、あるいは小さな家などが浮かび上がるなか、華麗な衣装を纏ったダンサーたちがバレエによる物語を紡ぐ。時には月明かりや星空も舞台に趣を与える、自然が作り出す幻想世界に魅了される人は多く、現在では期間中に約1万人を動員する清里を代表するイベントとなっている。

このたび上演される『ラ・シルフィード』は1832年にフランスのパリ・オペラ座で初演された、全2幕のバレエ。『白鳥の湖』『ジゼル』とともに「三大バレエ・ブラン(白いバレエ)」と呼ばれる、ふわりとした衣装が特徴の古典バレエで、現在残っている最古のバージョンは、パリ版と同じ原作(あらすじ)をもとに1836年にデンマークで新しくつくられたブルノンヴィル版だ。これが現在の『ラ・シルフィード』を代表する作品となっている。

『ラ・シルフィード』が誕生した時代はロマン主義全盛で、バレエの世界ではスコットランドやドイツの田舎といった田園を舞台にした妖精物語がブームとなった。『ラ・シルフィード』はフランスの作家シャルル・ノディエが1822年に発表した小説『アーガイルの妖精トリルビー』に着想を得て創作されており、物語はスコットランドの田園が舞台。青年ジェームスは婚約者エフィとの結婚式を控えているが、空気の妖精シルフィードに心奪われてしまう。シルフィードを追いかけて、結婚式を放り出し森の奥深くへ誘われ、幸せな時を過ごしていくうちに……、という内容だ。田舎の村や森の中を舞台とする作品なので、本物の森も舞台セットの一部となる、清里萌木の村の野外ステージで行われるフィールドバレエにはぴったりの演目だ。
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『眠れる森の美女』より
今村総監督は「実はずいぶん前から、フィールドバレエでぜひ、『ラ・シルフィード』の上演を、というお声は頂戴していました」と世に出すタイミングを見計らっていたことを明かす。その理由の一つが、先のあらすじでは多くは語っていないが、この物語は様々な余韻を残す、アンハッピーエンドであることだ。もちろん森を舞う妖精や、2幕のシルフィードとジェームスのパ・ド・ドゥはこのバレエならではの華麗な見どころであるが、物語を含めた総合的な観点も含め、祝祭的なフィールドバレエのイベントにふさわしいかどうかというのも、総監督が悩んでいた点であるという。「でも、フィールドバレエも2026年で37回目となり、清里のお客様もとても目が肥えて熟していらっしゃる。今が新作に挑戦するタイミングだと思い、上演しようと思いました」(今村総監督)。

清里フィールドバレエにとって、今作『ラ・シルフィード』は2019年以来の新作上演となる。そして実は、バレエ・シャンブルウエストにとってもこの演目はこれまで上演したことのない、初めてのレパートリーとなる作品だ。本物の森というセットを生かしたスコットランドの物語がどのように展開されるか、今から期待が膨らむ。
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伝説のダンサー、マリー・タリオーニ
トゥーシューズが芸術に昇華した歴史的作品

この『ラ・シルフィード』は、実はバレエ史においても革新的な転換期ともいえる重要な作品だ。バレエと聞いておそらくほとんどの人が思い浮かべるアイコン、トウシューズでのつま先立ちを「芸術的な表現」として初めて本格的に確立させた、歴史的作品なのである。

そのダンサーはマリー・タリオーニ。ふわふわとした長いドレスのようなロマンチック・チュチュにつま先立ちのトウシューズで踊るタリオーニの姿は、危うさとはかなさも伴い、本当に妖精が踊っているようだと評判を呼んだという。

そして今回上演されるブルノンヴィル版は、随所に軽やかで小刻みなステップが組み込まれているのが特徴で、どれも非常に難易度が高い。技術ばかりでなく、妖精との出会いにときめく繊細な心理描写もこめられている。なかでも特に第2幕、ジェームスとシルフィードによるパ・ド・ドゥは、男性ダンサーの見せ場ともいえる鮮やかな足技が次々と繰り広げられる。「このバレエの見せ場はやはりこの足さばきと、そして男女ともに求められる軽やかさ。ダンサーたちにとっては非常に難しい挑戦だと思いますが、体重を感じさせない華麗な幻想世界をぜひ、ご覧いただきたいと思います」と今村総監督。現役時代にこの役を踊った総監督ならではの言葉だ。

舞台上では森の妖精の世界に加え、スコットランドの民族衣装を纏った村人による民族舞踊や、森の魔女も登場するなど、見どころは多彩。さらにフィールドバレエ名物の、隅田川花火大会の職人らによる打ち上げ花火がどこで上がるのか、これも期待したいところだ。
華やかな花火が舞台に色を添えるzoom
華やかな花火が舞台に色を添える
トップクラスのゲストダンサーも。期間中はイベントも開催

出演は八王子に拠点を置くバレエ・シャンブルウエストを中心に、新国立劇場バレエ団プリンシパルの小野絢子と同シーズン・ゲスト・プリンシパルの福岡雄大、東京バレエ団ゲスト・プリンシパルの上野水香、元英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ プリンシパルの厚地康雄ら。会場となる萌木の村ではこの時ならではのショップが並ぶほか、「バレエウィーク八ヶ岳」として、ダンサートークやバックステージツアー、バレエ衣装展など、日中も楽しめるイベントが予定されている。開演前には「バレエナビゲートタイム」として見どころ解説もあるので、初めてバレエを見る人もぜひ、安心して訪れていただきたい。期間中は清里駅から萌木の村一帯、清泉寮方面にもフィールドバレエのバナーフラッグが並び、日中の観光でもお祭り気分が高まる。昼間に野外舞台を訪れれば、リハーサルの様子を見られるチャンスもある。清里の幻想的な一夜はきっと忘れられない体験となるだろう。
開演前の黄昏時zoom
開演前の黄昏時
第37回清里フィールドバレエ
《新作》ラ・シルフィード 全2幕


■公演日程:2026年7月28日(火)~8月9日(日) ※休演日:8月3日(月)

同時上演
・7月31日(金)/8月1日(土):全国バレエコンクールin八王子エキシビション
・8月2日(日):未来をつくる子供たちのための交流コンサート

■公演時間:開演19時30分/終演21時30分(予定)
 ※7月31日・8月1日は開演19時(開場18時15分)
 ※8月2日は開演19時(開場18時15分)

■会場:萌木の村 特設野外劇場

■総監督:今村博明

■芸術監督:川口ゆり子

■出演:
日にち/シルフィード/ジェームス
・7月28日(火)/松村里沙/藤島光太
・7月29日(水)/吉本真由美/土方一生
・7月30日(木)/村井鼓古蕗/江本拓
・7月31日(金)/阿部美雪/鈴木諒羽
・8月1日(土)/柴田実樹/早川侑希
・8月2日(日)/川口まり/藤島光太
・8月4日(火)/上野水香/厚地康雄
・8月5日(水)/小野絢子/福岡雄大
・8月6日(木)/上野水香/厚地康雄
・8月7日(金)/小野絢子/福岡雄大
・8月8日(土)/川口まり/鈴木諒羽
・8月9日(日)/柴田実樹/早川侑希
バレエ・シャンブルウエスト

■公式ホームページ:https://www.fieldballet.com
コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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