旅の扉

  • 【連載コラム】***独善的極上旅日記***
  • 2026年5月28日更新
フリージャーナリスト:横井弘海

必見、東博!! #特別展「百万石!加賀前田家」と #アイルランド チェスター・ビーティー・コレクション 絵巻と絵本のたからばこ

「百万石!加賀前田家」ポスターzoom
「百万石!加賀前田家」ポスター

前田育徳会創立百周年記念
特別展「百万石!加賀前田家」

6月7日に最終日を迎える東京国立博物館で開催中の「百万石!加賀前田家」が平日も盛況です。
加賀前田家は、徳川御三家に次ぐ百万石の大藩として知られます。江戸時代後期、徳川家以外で100万石超えは前田家のみで、それに次ぐ薩摩島津家が約77万石、仙台伊達家が約62万石。外様大名でありながら、徳川に次ぐ経済力をもっていたことで、幕府から警戒される立場だった前田家は、武力ではなく教養と美によって自らの存在を表現しました。文化によって家格を示しただけあり、そのコレクションの多彩さと質の高さ、保存と管理の素晴らしさに目を見張ります。

第1章 加賀前田家歴代
第2章 百万石の文化大名
第3章 加賀前田家の武と茶の湯
第4章 天下の書府
第5章 伯爵前田家のコレクション

の5章からなる展覧会は、茶道、能、工芸、書画、刀剣など、あらゆる分野の文化を保護し、莫大な財力を注ぎ込み、しかも単なる収集に止まらず、京都から蒔絵師、陶工、染織職人、茶人、能役者などを招き、自らの領国で新たな美を生み出した大名家400年の歴史を見ることができます。
明治維新で多くの大名家は財政破綻などにより、そのお宝を散逸させましたが、前田家は、近代に入って東京に本拠を移し侯爵となった後も伝来の文化財の保全に努め、大正15年(1926)には16代・利為(としなり)が育徳財団(現在の前田育徳会)を設立しました。
現在の金沢に加賀蒔絵、金工、漆芸、加賀友禅、九谷焼、金沢箔など、独自の文化が残るのは、背景に前田家の文化政策があったからにちがいありません。
今年、創立百周年を迎える前田育徳会を記念して開催されている同展覧会は、加賀前田家歴代当主の事績を振り返るとともに、旧蔵品を含めた「加賀前田家伝来」文化財の全貌を紹介する貴重な機会です。

大名物 唐物茄子茶入 銘 富士(中国 南宋時代・13 世紀 )  附 茶杓  千利休作 ( 安土桃山時代・16 世紀) 東京・前田育徳会 zoom
大名物 唐物茄子茶入 銘 富士(中国 南宋時代・13 世紀 )  附 茶杓  千利休作 ( 安土桃山時代・16 世紀) 東京・前田育徳会

コレクションは多岐にわたります。戦国大名、前田利家ゆかりの武具・陣羽織。刀剣では国宝「大典太光世」が圧倒的存在感。天下五剣の一つで、利家の娘の豪姫の病気平癒のために利家が豊臣秀吉から借り受け、返却を繰り返すうちに拝領したという伝承があるそうですが、将軍家伝来の霊験あらたかな守護刀です。
茶の湯の名品中の名品は、中国南総時代の茶入で「天下三茄子」のひとつとされる「茄子茶入」が驚くべき来歴です。室町時代の将軍家である足利義輝から、名医の曲直瀬道三を経て、織田信長に渡り、その後、豊臣秀吉が1587年の「北野大茶湯」に使い、1597(慶長2)年に、秀吉から前田利家に下賜されたそう。
歴史でしか知ることのない権力者たちの手を渡ってきた掌で包めるほどの小さな茶入れを間近に眺めるなんて、めったにできない体験です。
巨大なベルギー製のタペストリーも目を引きます。西洋の美術品まで所蔵する加賀前田家の国際感覚にも感心。
個人的には、狩野探幽の「達磨図」も素晴らしいなと思いましたが、これとて、著名な幕府御用絵師が描いた禅宗の祖とされる「達磨」の姿を、前田のお殿様はどんな思いで見ていらしたのでしょうか。
閉幕間近ですが、見逃せない展覧会です。

会期中は「東博能」を開催。前田家は宝生流能楽を厚く保護した家でもありますzoom
会期中は「東博能」を開催。前田家は宝生流能楽を厚く保護した家でもあります

#アイルランド チェスター・ビーティー・コレクション 絵巻と絵本のたからばこ

アイルランド・ダブリンのチェスター・ビーティーが収集した日本の絵巻・絵本コレクションが7月20日まで里帰りしています。

チェスター・ビーティーは、アイルランドの首都・ダブリンの中心地にある国立の文化施設です。ニューヨーク出身のアイルランド系実業家チェスター・ビーティー卿が世界から集めた文化財2万5千点余のコレクションを所蔵する私設図書館として設立され、その後展示ギャラリーを加えて美術館としての機能も備え、2005年に現在あるダブリン城の敷地内に移設されました。
日本の美術品は合計1900点余りで、今回展示されている絵本や絵巻のほか、江戸時代の摺物や印籠・根付なども所蔵、ヨーロッパにおける日本文化研究・普及の拠点として一役買っています。

アルフレッド・チェスター・ビーティー卿は、鉱山事業で成功した実業家であり、20世紀を代表する世界的コレクターでもありました。彼は世界各地の文化財を収集したのですが、とりわけ日本の物語絵に強い関心を示したと言います。

(部分)  酒呑童子絵巻 巻下  江戸時代・17世紀 チェスター・ビーティー蔵zoom
(部分) 酒呑童子絵巻 巻下 江戸時代・17世紀 チェスター・ビーティー蔵

本展には、17世紀の日本人の理想化された異国趣味や恋愛観まで映し出しているという狩野山雪筆「長恨歌絵巻」や、日本人が長い間語り継いできた「源氏物語絵巻」「酒呑童子絵巻」「義経地獄破り」などの物語絵巻が登場します。
そのなんと色彩の鮮やかなこと。思わず物語の世界に引き込まれます。
学芸員にお話を伺ったところ、ビーティ卿は質の高いものにこだわって収集をしていたそうです。昔、良いおうちでは、絵巻物はお嫁入道具だったとか。でも、一度も広げられることなく、そのまま保管されていたのだろうとのこと。きれいな色のままなのはそのおかげでしょうか。そんな絵巻物に急に親しみが湧いてきます。
それにしても、こうした日本美術が、遠い異国の地で大切に守られてきたことが感じられて、心が温かくなる特別展示です。日本国内では失われた作品や類例の少ない作品も含まれているそうです。

百鬼夜行絵巻 伝田中訥言筆 ー巻•江戸時代・18~19世紀 紙本着色 チェスター・ビーティー蔵zoom
百鬼夜行絵巻 伝田中訥言筆 ー巻•江戸時代・18~19世紀 紙本着色 チェスター・ビーティー蔵

見逃せない作品ばかりですが、伊藤若冲の「乗興舟」はお忘れなく。若冲が淀川下りの体験をもとに制作した拓版画によるこの巻物は、多くの若冲作品で見られる華麗な色彩世界とは異なり、静かで幻想的です。
そして、伝田中訥言筆「百鬼夜行絵巻」もぜひ。
少し前に、NHKの朝ドラでラフカディオ・ハーンを主人公にした「ばけばけ」が放映されて人気を集めましたが、ハーンの故郷であるアイルランドには、怪談や鬼など異類やスピリチュアルなものを理解する風土があることを、チェスター・ビーティー・コレクションの中にこの絵巻を見つけて、あらためて感じました。

(部分)  伊藤若冲筆 乗興舟  江戸時代・明和4年(1767)頃 チェスター・ビーティー蔵zoom
(部分) 伊藤若冲筆 乗興舟 江戸時代・明和4年(1767)頃 チェスター・ビーティー蔵

「江戸時代の文化成熟」を示すふたつの展覧会。「百万石!加賀前田家」では武家文化の洗練が、「アイルランド チェスター・ビーティー・コレクション  絵巻と絵本のたからばこ」
では物語文化や出版文化の豊かさが紹介され、日本社会が長い平和の中で高度な美意識を育てていたことが見えてきます。そして、両展とも「文化は偶然残るのではなく、守ろうとした人がいたから残った」という事実を静かに語っているように感じました。

展覧会情報:詳細は 東京国立博物館のHPで確認してください。
           (https://www.tnm.jp/)

#前田育徳会創立百周年記念
特別展「百万石!加賀前田家」


会場
東京国立博物館 平成館(上野公園)
会期
2026年4月14日(火) ~ 2026年6月7日(日)
開館時間
9時30分~17時00分
(注)毎週金・土曜日は20時00分まで開館
(入館は閉館の30分前まで)
休館日  月曜日
※本展は事前予約不要
※ 詳細は展覧会公式サイト等でご確認を。https://tsumugu.yomiuri.co.jp/kagamaedake2026/

※東博能はチケットの売り切れもあるようです。
下記サイトで詳細をご確認ください。https://tohakunoh.com/


#特別企画

アイルランド チェスター・ビーティー・コレクション  絵巻と絵本のたからばこ

会場
東京国立博物館 本館 D室・E室(上野公園)
会期
2026年4月27日(月) ~ 2026年7月20日(月・祝)
開館時間
9時30分~17時00分
(注)毎週金・土曜日は20時00分まで開館
(入館は閉館の30分前まで)
休館日  月曜日
※本展は事前予約不要
※ 特別展「百万石!加賀前田家」のチケットでご覧いただけます。
※ 詳細は展覧会公式サイト等でご確認を。050-5541-8600(ハローダイヤル)


フリージャーナリスト:横井弘海
元テレビ東京アナウンサー。各国駐日大使を番組や雑誌でインタビューする毎に、自分の目で世界を見たいという思いが強くなり、訪問国は現在70カ国超。著書に「大使夫人」(朝日新聞社刊)。国内旅行は「一食一風呂入魂!」。美味しいモノと温泉を追いかけて、旅をしています。
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