旅の扉

  • 【連載コラム】***独善的極上旅日記***
  • 2026年1月7日更新
フリージャーナリスト:横井弘海

年の始めを心豊かに。必見!都内5つの展覧会

「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」看板(国立西洋美術館)zoom
「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」看板(国立西洋美術館)

新しい年の始まり。
 初詣や街の賑わいも楽しいけれど、静かに心を整える時間を持ちたい。そんな方におすすめしたいのが展覧会巡りです。

 東京では今、年の初めにこそ訪れたい、質の高い展覧会が目白押し。日々の忙しさの中で置き去りにしてきた感覚や思考を、そっと取り戻すような時間を与えてくれるはずです。

 今回注目したいのは、次の5展。
• 「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」(国立西洋美術館)
• 「綾錦 近代西陣が認めた染織の美」(根津美術館)
• 「小林徳三郎」(東京ステーションギャラリー)
• 「国宝 熊野御幸記と藤原定家の書」(三井記念美術館)
• 「たたかう仏像」(静嘉堂文庫美術館)

 時代もジャンルも異なりますが、いずれも自分が「どう感じ、どう在るかを実感しながら過ごす時間」と深く結びついた表現である点が共通しています。
 印象派が描いた室内の光、西陣が受け継いできた身にまとう美、ひとりの画家が見つめ続けた日常、国宝の書に刻まれたリズムと余白、そして人々を護るために立つ仏像。

 どれも声高に主張するのではなく、静かに見る者の内側に届いてきます。
 鑑賞後には心に確かな余韻が残るでしょう。

 展覧会の見どころを簡単にご紹介しましょう。

「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」(国立西洋美術館内)zoom
「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」(国立西洋美術館内)

# オルセー美術館所蔵 印象派ー室内をめぐる物語(上野公園・国立西洋美術館)

 世界最大規模の印象派コレクションを誇るパリ・オルセー美術館の約70点の名品を中心に、国内外の重要作をあわせた約100点によって、印象派の画家たちが“室内”をどのように見つめ、どのように表現してきたかをたどります。
 ドガ初期の代表作《家族の肖像(ベレッリ家)》が日本初公開。他にもマネ、モネ、ルノワール、セザンヌらの名品が一堂に会した珠玉の展覧会です。

 印象派といえば、まず戸外での自然光の風景画を思い浮かべる人が多いでしょう。でも、実際には室内空間を舞台にした作品も多数残しています。印象派が誕生した1870年代のパリは、都市化と近代化が急速に進んだ活気に満ちた大都会。夜の街は華やぎ、オペラ座やカフェなど都市の室内文化が隆盛を迎えました。家庭やサロン、劇場、音楽室といった日常生活の情景のなかの新たな光のあり方に画家たちは興味を抱き、人間関係など内面的な関心をも表現しています。

会期:
2025年10月25日(土)〜2026年2月15日(日)
休館日:毎週月曜日。ただし1月12日(月・祝)と2月9日(月)は開館。1月13日(火)は休館。

「綾錦 近代西陣が認めた染織の美」根津美術館入口zoom
「綾錦 近代西陣が認めた染織の美」根津美術館入口

#綾錦 近代西陣が認めた染織の美(南青山・根津美術館)

 西陣織物館(現・京都市考古資料館)が、大正4年(1915)から約10年間にわたり京都周辺の著名な寺院のほか、当時の染織コレクターから借用した染織品を陳列する展覧会を開催しました。
 展示品の中から特に優れた染織・刺繍の名品の文様を選定し、図案家たちが原寸大で模写した陳列品を多色木版とコロタイプによって忠実に再現した染織図案集が『綾錦』です。
 西陣織物の技術者や図案家のための参考資料として、また産業の発展を促すことを主目的として発刊されました。

 『綾錦』の能装束や古更紗の巻に、出品者として根津美術館の基礎を築いた初代根津嘉一郎(1860~1940)の名を数多く見出すことができます。これにより大正期に嘉一郎が染織品のコレクターとして知られていたこと、さらには掲載図案により当時の所蔵品が判明したのです。

 本展では、『綾錦』に掲載された嘉一郎の所蔵品のうち、現在確認できる20点を展観。縫箔、唐織、厚板など、近代の西陣で認められた染織の粋を紹介します。
  
 見事な能装束などを鑑賞するのみならず、『綾錦』により、それがどんな発想で作られ、文様や色の選択がどのようにその美を作ったかの理解を深めることも出来る稀有な機会となっています。
 

会期:
2025年12月20日(土)〜2026年2月1日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし1月12日は開館)、1月13日(火)

※来館前の日時指定入場券の購入を推奨。

 

「金魚を見る子供」小林徳三郎 1928年 東京国立近代美術館zoom
「金魚を見る子供」小林徳三郎 1928年 東京国立近代美術館

#小林徳三郎
(丸の内・東京ステーションギャラリー)

 日本近代洋画が大きく変わる時代、流行や画壇から距離を置き、静かに描き続けた画家・小林徳三郎(1884–1949)の全貌を初めて紹介する大回顧展です。
 油彩、水彩、版画、舞台美術や出版物の原画、素描まで、約300点の作品と資料で、その静かで濃密な画業をたどります。  
 ほぼ同時代を生きた画家の硲伊之助が「もっと評価されるべき画家」と語ったと言いますが、私自身、今回の展覧会で初めて小林徳三郎を知りました。
 でも、東京駅にある東京ステーションギャラリー入口脇に掲げられたメインビジュアルの「金魚を見る子供」(1928年 油彩 東京国立近代美術館)の何ともあどけない少年の表情を見たとたん、他の作品も観てみたいと、ワクワクしながら美術館に飛び込みました。
 何気ない日常が、これほど心を惹きつける――そんな発見に満ちた心温まる展覧会です。

同展は以下の構成です。
1:洋画家を目指して
2:大正の大衆文化のなかで
3:画壇での活躍
4:彼の日常、彼の日本   

 若き日には前衛的な仲間とともに表現の可能性を切り拓き、やがて鰯や鯵、家族の日常といった身近な題材へ、晩年には海や渓流、室内の静物など、同じ場所・同じ主題に繰り返し向き合い、簡素でありながら深い余韻を残す作品へと到達。

 同じ主題に何度も向き合い、筆致と色を研ぎ澄ませることで、何気ない生活の時間や空気そのものを画面に定着させました。
 派手さとは無縁ですが、画面には積み重ねられた時間の重みが宿っています。描き続けた、その誠実さがにじむ絵画に、心が緩むでしょう。


会期:
2025年11月22日(土)〜2026年1月18日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし1月12日 は開館)

「国宝 熊野御幸記と藤原定家の書」ポスター(三井記念美術館)zoom
「国宝 熊野御幸記と藤原定家の書」ポスター(三井記念美術館)

#国宝 熊野御幸記と藤原定家の書
(日本橋室町・三井記念美術館) 

 年の始まり、言葉と美の源流に立ち返る一展です。鎌倉時代を代表する歌人・藤原定家の自筆による国宝《熊野御幸記》が、久方ぶりに全巻公開されます。建仁元年(1201)、後鳥羽上皇の熊野参詣に随行した定家が記した旅の記録です。
 定家といえば和歌ですが、《熊野御幸記》には感情を直接詠嘆する歌はほとんど出てきません。そこには院政期の宮廷に漂う政治的緊張感、行幸という国家的儀礼の重圧、その渦中にいて「面目過分」と栄誉に感じたり、体力の心配を記すも、言葉を抑え、記録に徹しています。

 鑑賞のために書かれたものではないため、行を揃えすぎない構成、わずかな字間の揺れ、強弱を抑えた線など、どれも装飾ではなく、逆に文字が思考の痕跡として残り、結果として極めて洗練され、800年後の私たちにも「新しい」と感じられる書作品です。
 一巻を通して緊張と緩和のリズムが保たれた時間と身体が生んだ造形。だからこそ「全巻展示」には意味があります。

 本展では当館初公開となる《大嘗会巻》、小倉色紙、歌切、消息など、定家の書の多様な表情も厳選展示。さらに小堀遠州ら近世茶人が愛した「定家様」の書を、茶道具や箱書とともに紹介し、定家の筆が時代を超えて生き続けたことを示します。
 百人一首かるたや歌仙絵、そして《東福門院入内図屏風》へと連なる構成は、和歌が育まれた宮廷文化の奥行きを体感させてくれるでしょう。


会期:
2025年12月6日(土)~ 2026年2月1日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし1月12日・26日は開館)、1月13日(火)、1月25日(日)

重要文化財 広目天眷属立像 康円作(部分) 文永4年(1267)静嘉堂文庫美術館 後期展示(2月10日~3月22日展示)zoom
重要文化財 広目天眷属立像 康円作(部分) 文永4年(1267)静嘉堂文庫美術館 後期展示(2月10日~3月22日展示)

#たたかう仏像
(丸の内・静嘉堂文庫美術館) 

 「たたかう仏像」という勇ましいタイトル。本展では浄瑠璃寺旧蔵十二神将立像をはじめとする静嘉堂所蔵の江戸時代以前の仏教彫刻全点と絵画にみる「たたかう仏像」の多様な姿を展示。あわせて神将像の鎧のルーツである中国・唐時代の神将俑を丸の内で初公開します。

 目をいからせ、武装する仏像たちがふけさたたかう相手は外敵だけではありません。病、災厄、不安、迷い――人が生きるうえで避けられない内なる脅威はさまざまあります。仏像は勝利を誇示するためではなく、護るために立つ。その姿は、共同体の祈りと恐れを一身に引き受けています。
 仏像は敵を倒すためではなく、人の内側に生じる恐れ・迷い・災厄を鎮めるために、見る者を守る存在として立っているのではないでしょうか。

 浄瑠璃寺旧蔵の十二神将、鎧の起源である唐代神将俑は必見。権力の誇示ではなく、「守るためのかたち」として洗練されていった像です。


会期:
2026年1月2日(金)~3月22日(日)
[前期]1月2日(金)~2月8日(日)
[後期]2月10日(火)~3月22日(日)

休館日:毎週月曜日(ただし1月12日、2月23日は開館)、1月13日(火)、2月1日(日・全館停電日)、2月24日(火)

※日時指定予約優先です。当日券の販売もあり。


※各展覧会の会期や休館日などの詳細は、各館にご確認下さい。

フリージャーナリスト:横井弘海
元テレビ東京アナウンサー。各国駐日大使を番組や雑誌でインタビューする毎に、自分の目で世界を見たいという思いが強くなり、訪問国は現在70カ国超。著書に「大使夫人」(朝日新聞社刊)。国内旅行は「一食一風呂入魂!」。美味しいモノと温泉を追いかけて、旅をしています。
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