zoom京王電鉄が2026年1月31日に営業運転を始める新型車両「2000系」が25年10月28日、東京都稲城市の車両基地で報道陣らに公開された。「ミキティ」の愛称で知られるタレントの藤本美貴さんが登場し、京王の車両で初めて採用された車内スペースを「素晴らしい」と絶賛した。3人の子どもがいる母親として「絶対に乗りたい」と声を弾ませた驚異的なスペースとは―。
zoom 【京王2000系】京王電鉄のステンレス製の新型電車で、新型VVVFインバーター制御装置の採用で従来車両より約2割の省エネルギー化を実現した。営業運転開始後は東京都内の新宿―京王八王子間を結ぶ京王線などで使われ、東京都営地下鉄新宿線への乗り入れには用いない。
1編成に10両を連結し、客室には1両当たり片側4カ所に両開き扉を備えている。JR東日本の子会社、総合車両製作所(横浜市)が製造。最初の編成が2026年1月31日に営業運転を始め、25年度中に計2編成、26年度に2編成の計4編成、40両を27年3月末までそろえる。2000系の導入に伴い、1984年に京王初のステンレス製車両としてデビューした7000系は順次廃車にする。
京王が2000系と名付けるのは2代目となり、1957年に登場した初代2000系は鋼鉄製車体を緑一色に塗ったカルダン駆動の新性能車だった。初代2000系が円形の前照灯だったのを踏襲して新型も「丸目」の前照灯を採用し、位置は初代2000系の尾灯があったのとほぼ同じ場所に配置した。
zoom ▽見た目は古代魚?
新型2000系の外観は先頭部、側面ともに「円」をモチーフとしており、中でも「丸目」の前照灯が強いインパクトを与える。発光ダイオード(LED)を組み合わせた丸い前照灯の周りにも、LEDを円形状に配置している。前進する際には白く光って先を照らし、尾灯として使う際には円形状に赤く光る。
京王がデザインを公開すると、交流サイト(SNS)では古代魚「サカバンバスピス」の顔のようだという反応が相次いだ。京王の井上晋一取締役常務執行役員は「大変丸いフォルムを中心に全てが構成されております。この丸いフォルムで安心とか、優しさとかを表現しております」と解説する。
zoom ▽いったん消滅した色が復活
2000系では、有料座席指定列車「京王ライナー」などに使われている5000系でいったん消滅していた京王線の象徴的な色も復活した。それはアイボリー(クリーム色)だ。
2000系の設計を担当した京王電鉄車両電気部車両企画担当の宮園朋菜さんは私の取材に対し、「アイボリーを採用することによって電車に京王らしさが出るため今後も踏襲していきたいという声が社内で上がり、復活させることになりました」と説明した。
車体側面も「円」のモチーフに則り、水色や紫色、ピンク色などの水玉模様が装飾した。また、京王の特色であるチェリーレッドのラインが上部に、インディゴブルーのラインが下部にそれぞれ伸びている。
車体上部にラインを引いたのは、京王が2030年代前半に整備完了を目指している可動式ホーム柵(ホームドア)が閉まっていても隠れないようにする狙いがあるそうだ。
zoom ▽京王初の空間、その名は「ひだまりスペース」
水玉模様は車内の黄色やオレンジ色などで彩られたロングシート座席にもあしらっており、ドアと座席の間にある袖仕切りも丸みのあるデザインに仕上げている。ドアの上には次の停車駅などを案内する液晶パネルを2つ設けた。
そして最大の目玉が、ベビーカーや車いすの利用者と同行者らが過ごしやすいように配慮した京王初の大型フリースペースだ。25年5月7日~6月10日に三つの愛称候補を示して利用者に投票してもらったところ、最多の1196票を獲得した「ひだまりスペース」に決まった。残る「ぬくもりライド」の388票、「ひまわりライド」の227票に大差を付けた。
この空間は1カ所のドア間にあり、中央部には「S」字状の仕切りを設置。壁沿いと中央部に取り付けたクッションは簡易座を果たすようになっており、「普通の座席に深く腰かけた場合だと立ち上がる時に結構大変な高齢者らが、ちょっと寄りかかれるぐらいの高さにしています」(宮園さん)。
側面の窓を大型化しているのは「窓の(下部の)位置を下げることによって、小さなお子様が車窓を眺められるようにした」というきめ細やかさだ。
zoom ▽なぜ中間の5号車なのか
似た大型フリースペースは西武鉄道の有料座席指定列車「S―トレイン」などに使う車両40000系にもあり、「パートナーゾーン」の名称で片側の先頭車に設置している。
一方、京王2000系の「ひだまりスペース」は中間の5号車にある。これは京王線の駅でこの位置にエレベーターが設置されている駅が多く、ベビーカーや車いすの利用者らが乗降しやすくする配慮からだ。
これについて藤本さんは「すごい、素晴らしいじゃないですか」と絶賛。「エレベーターはすごく遠くにあるイメージですけれども、ひだまりスペースに乗ればもう近いってことですね。それも分かりやすくていいですね」と評価した。
その上で「電車となると、ベビーカーは畳まなければいけないのかなとか、そのまま乗っていいかなとかちょっと悩みがちですが、堂々と畳まずに乗れそうなくらいスペースも広くて、いろんな使い方ができそうで、多種多様な方たちが安心して乗れるスペースが出来上がったなと思います」と話した。
国土交通省はベビーカーを畳まずに乗車していいとの指針を出しており、父親である私も以前から理解を示してきた。しかしながら、藤本さんは「ちょっと前は畳めよ(と圧力をかける)みたいなおじさんもいた」と振り返り、ベビーカーに子どもを乗せていない時も「荷物を載せるためにも使っているので、ぜひ優しくしていただけたらうれしいなと思いますね」と呼びかけた。
「ひだまりスペース」ならばもちろんベビーカーを広げていても堂々とできるが、国交省の指針に沿って各車両に1カ所ずつあるバリアフリースペースも使用可能だ。ベビーカー利用者も、車いすの乗客も、他の乗客も心穏やかに過ごせる「ひだまり」のような温かい車内空間がもたらされることを強く期待したい。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)
