シャネルやルイ・ヴィトンなどヨーロッパのラグジュアリーブランドが、東京や大阪で相次いで展覧会を開催しています。卓越した技術と芸術性が融合したハイジュエリー(最高級宝飾品)のメゾンも同様です。
現在、東京では、詩情あふれるデザインと革新的な技巧で高い評価を得ているヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)が「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ」を開催中。
イタリアを代表するハイジュエラーのブルガリ(BVLGARI)は、国立新美術館で「ブルガリ カレイドス:色彩・文化・技巧」、大阪では、中之島美術館で伝統的フランス高級ジュエラーの「ブシュロン(Boucheron)ジャパン」が協賛する「新時代のヴィーナス!アール・デコ100年展」が開催されています。
私にはどれも手の届かないラグジュアリーメゾンですが、こうした展覧会を通して、それぞれのメゾンの歴史や遺産、そして、その「サヴォアフェール(匠の技)」を間近に感じることができるだけで至福の時です。
今年は、1925年に開催された通称「アール・デコ博覧会」こと「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」(Exposition Internationale des Arts Décoratifs et Industriels Modernes)から100周年。第一次世界大戦(1914〜1918)の惨禍から立ち直ったフランスが、「フランス芸術の復興と近代化を世界に示す」ことを目指して開催した博覧会です。大戦後に機械文明・大量生産の時代が到来するなか、「美」と「産業」を融合させた新しい装飾芸術をテーマとしました。
幾何学的、装飾的でありながら機能美を重視するデザイン様式が人気となり、現在では博覧会の名称を語源に生まれた「アール・デコ(Art Déco)」という言葉で世界中に知られています。
アール・デコ博覧会には日本も正式参加し、好評を博しました。一方、当時アール・デコ博覧会を現地で見ることができた日本人は極めて限られていましたが、そのなかに、フランスに滞在中の旧皇族・朝香宮鳩彦(やすひこ)王、允子(のぶこ)妃夫妻がいました。
朝香宮様と言えば、現在の東京都庭園美術館がかつて朝香宮家の自邸だったことをご存知の方も多いでしょう。
1910年(明治43)、久邇宮朝彦親王の第8王子・鳩彦王は、明治天皇の第8皇女允子内親王とご成婚され、大正10年(1921)に白金台の御料地約1万坪を下賜されました。日本に帰国後、その敷地に建設した自邸が、現在美術館となっているのです。
主な部屋の内装をアール・デコ博覧会の主要パビリオンの室内装飾を手掛けた装飾美術家のアンリ・ラパンに依頼し、その装飾にはガラス工芸家のルネ・ラリックをはじめとするアーティストを多数起用するなど、フランス人と宮内省内匠寮の合作により1933年(昭和8年)に竣工。そこは今も竣工時の建築意匠がほぼ完全な形で残る希少な建築、アール・デコの時代空間です。
さて、アール・デコは、造形美や素材や職人技の高い完成度がモダンデザインの原点として、21世紀に入り、再び脚光を浴びています。 中でもジュエリーは、身につけるという点で究極の実用品とも言われます。
東京都庭園美術館の「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ」は、そんなハイジュエリーを、本物のアール・デコの建物で鑑賞出来る特別な機会です。概要をもう少しご紹介しましょう。
同展はヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)のハイジュエリー作品を通して「現代装飾美術·産業美術国際博覧会(通称 アール·デコ博覧会)」の100周年を祝う展覧会です。ヴァン クリーフ&アーペルの「パトリモニー コレクション」と、個人蔵の作品から厳選されたハイジュエリー、時計、工芸品を約250点、さらにメゾンのアーカイブから約60点の資料を4章構成で展示。ひとつひとつため息の出る美しさです。
第1章「アール・デコの萌芽」
アール・デコ博覧会グランプリ受賞作品《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》を含む、アール・デコ期に制作された作品の数々。
第2章「独自のスタイルへの発展」
ダイヤモンドやプラチナが巧みにあしらわれたホワイトジュエリーを中心に、1920年代以降ヴァン クリーフ&アーぺルが追い求めた、新たな立体感を追求した造形。
第3章「モダニズムと機能性」
社会の変化に応じてヴァン クリーフ&アーぺルが制作した抽象的かつ幾何学的造形と機能性を備えた、モダニズムの魅力を伝える作品。
第4章「サヴォアフェールが紡ぐ庭」
ヴァン クリーフ&アーペルに継承される「サヴォアフェール(匠の技)」(「ミステリーセット」、形を変えるジュエリー、エナメル技法や宝石彫刻、または金細工等)を草花や動物をモチーフとしたジュエリーで紹介。
日本を代表するアール・デコ建築の邸宅で繰り広げられる同展は、展示の仕方も工夫をこらしています。宝石と言えば、そこだけにライトを当てて煌びやかに見せるのが一般的ですが、同展では、外光が差し込む部屋にもジュエリーを飾っています。
大きな窓の向こうは庭園の緑。鳩彦王と允子妃がくつろがれたであろう空間で、アール・デコ期のジュエリーの輝きを眺めれば、100年前に時間旅行した気分にひたれるはずです。そして、そのハイジュエリーの数々がいまだまったく古めかしくならずに輝き続けていることに驚きを感じるのではないでしょうか。
開催概要
「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ― ハイジュエリーが語るアール・デコ」
東京都庭園美術館
〒108-0071 東京都港区白金台5-21-9
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
会期:2025年9月27日(土)-2026年1月18日(日)
開館時間:10:00-18:00
※11月21日(金)、22日(土)、28日(金)、29日(土)、12月5日(金)、6日(土)は20:00まで
(入館はいずれも閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日および年末年始(12月28日–1月4日)
※祝日の月曜日(11月3日、24日、1月12日)は開館、翌日の火曜日(11月4日、25日、1月13日)は休館
観覧料
一般:¥1,400など
※日時指定予約制。
※詳細は展覧会公式サイトにて要確認。
公式X:@ArtDeco2025_26
展覧会特設サイト:https://art.nikkei.com/timeless-art-deco/