旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2025年10月1日更新
共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

「優しい微笑み」の新型車両、東京臨海部で出発進行!従来車両の行き先は…

△東京臨海高速鉄道りんかい線を走る新型車両71―000形(大塚圭一郎撮影)※身体を車外に出す行為は非常に危険ですので、絶対におやめください。zoom
△東京臨海高速鉄道りんかい線を走る新型車両71―000形(大塚圭一郎撮影)※身体を車外に出す行為は非常に危険ですので、絶対におやめください。

 東京臨海高速鉄道は2025年10月1日、先頭部が「優しい微笑み」を浮かべたようなデザインの新型車両「71―000形」(ななまんいっせんがた)の出発式をりんかい線東京テレポート駅(東京都江東区)で実施した。東京都の臨海部を駆けるりんかい線が部分開業した1996年3月以来、29年半にわたって駆けてきた初代型車両「70―000形」がバトンを渡すとあって注目度が高く、大勢の鉄道ファンらが集まった。順次退役する70―000形の一部は遠く離れた地で“第二の人生”を歩み出すが、その線区にはりんかい線との共通点があった。

△東京テレポート駅で71―000形の一番列車の出発合図をする飯島康之管理駅長(右)と「りんかる」(大塚圭一郎撮影)zoom
△東京テレポート駅で71―000形の一番列車の出発合図をする飯島康之管理駅長(右)と「りんかる」(大塚圭一郎撮影)

 【りんかい線】東京都が大株主となっている第三セクター、東京臨海高速鉄道が運行している直流電化された複線の全長12・2キロ、計8駅の路線。東京都臨海部を走っており、JR東日本の山手線や湘南新宿ラインなどが乗り入れる大崎駅(品川区)から人工島「お台場」を通り、JR京葉線・東京メトロ有楽町線と接続する新木場駅(江東区)までの主に地下を走る。2002年12月に全線開業し、多くの通勤通学客らが利用している。
 多くの電車がJR東日本埼京線・川越線と相互直通運転をしており、「通勤快速」や「快速」は新木場―川越(埼玉県川越市)間の65・2キロという長距離を結ぶ。途中で東京の副都心の渋谷、新宿、池袋各駅を通るため、りんかい線の車両は東京都心部などでの露出度が高い。

△東京テレポート駅での71―000形の出発式でテープカットをする東京臨海高速鉄道幹部(大塚圭一郎撮影)zoom
△東京テレポート駅での71―000形の出発式でテープカットをする東京臨海高速鉄道幹部(大塚圭一郎撮影)

 ▽一番列車の所要時間はわずか…
 2025年10月1日午後4時5分、りんかい線東京テレポート駅のプラットホームに71―000形が進入した。終点の新木場まで3駅、所要時間わずか約7分という短距離ながら、一番列車とあって大勢の愛好家らが乗り込んだ。
 午後4時7分に客室の両開き扉と駅の可動式ホーム柵が一斉に閉まると、飯島康之管理駅長とりんかい線のイルカのマスコットキャラクター「りんかる」がそれぞれ右手を高く上げて出発の合図をした。長い警笛を鳴らした後、一番列車は拍手を浴びながら滑らかに滑り出した。

△東京テレポート駅での71―000形の出発式で話す西倉鉄也社長(大塚圭一郎撮影)zoom
△東京テレポート駅での71―000形の出発式で話す西倉鉄也社長(大塚圭一郎撮影)

 ▽バリアフリー化を推進、その中身とは
 71―000形は10両編成のステンレス製車両で、1両当たり全長20メートルの車両に片側4カ所の両開き扉を設けている。車体幅を70―000形より15センチ広げたことで、混雑時の車内スペースにゆとりを持たせている。
 銀色の車体にエメラルドブルーとスカイブルー、白色で装飾しており、丸みを帯びた先頭部は「優しい微笑み」を表現したデザインが特色だ。窓際に沿ってロングシートが並んでいるのは70―000形と同じだが、3人掛けの優先席はピンク色を基調にしたモケットを採用することで識別しやすくした。
 バリアフリー化を進めたのも特徴で、車両の床面の高さを5センチ下げることでホームとの段差を縮小。フリースペースの設置を全車両に広げることで、車いすやベビーカーの利用者が過ごしやすくした。補助席に1本追加した保護棒は大きく湾曲した形状にすることで、利用者がつかみやすいようにした。さらに、両開き扉の上にあるランプの点滅によってドア開閉を案内したり、チャイム音でドアが開いている位置を知らせたりする機能も設けた。

△りんかい線の従来車両70―000形(大塚圭一郎撮影)zoom
△りんかい線の従来車両70―000形(大塚圭一郎撮影)

 ▽全ての面で従来車両を「大きく上回る性能」と西倉社長
 一番列車の発車に先駆けて東京テレポート駅構内で実施された出発式で、東京臨海高速鉄道の西倉鉄也社長は初めての“世代交代”となる71―000形の運行開始がりんかい線にとって「まさに新たなステージを象徴するものになる」と強調した。
 「安全性と安定性、快適性、バリアフリー、セキュリティーの全てにおいて従来車両(70―000形)を大きく上回る性能の実現を目指した」とし、「この71―000形が皆様のご利用に際し、これまで以上に快適さと彩りを添えることができるよう精一杯努めていく」と訴えた。

△JR九州筑肥線の103系1500番台(大塚圭一郎撮影)zoom
△JR九州筑肥線の103系1500番台(大塚圭一郎撮影)

 ▽従来車両の行き先に共通点!
 71―000形は総合車両製作所(J―TREC)新津事業所(新潟市)が製造しており、これまでに2編成、計20両が引き渡された。2027年度までに発注した8編成、計80両が全て引き渡され、従来車両の70―000形は全て引退する。
 関係者によると、同じく10両編成が8編成ある70―000形の一部はJR九州に譲渡され、改造後に筑肥線の筑前前原(福岡県糸島市)―西唐津(佐賀県唐津市)間で運行する。JR九州小倉工場(北九州市)で先頭車同士の2両編成に改造し、5編成(計10両)を導入する。この区間では現在の103系1500番台が老朽化しているため置き換える。103系は1963年から84年までの約21年間に3447両が製造された“国電の雄”だが、うち末期の82年以降に製造されたのが1500番台だ。
 首都圏の複線の繁忙路線から、福岡県と佐賀県の間ののどかな単線区間へ移籍するが、臨海部を走るというりんかい線との共通点がある。筑肥線の筑前深江(糸島市)から4駅先の浜崎(唐津市)までは国道202号と併走しながら海外線を塗って走り、まるで南国のようなエメラルドグリーン色の玄界灘が車窓いっぱいに広がるのだ。JR九州は運行開始時期について「現時点で当社から公表しているものはございませんので、回答は控えさせていただきます」とコメントしているが、りんかい線の初代型車両にふさわしい次の舞台の幕開けはそう遠くはなさそうだ。

共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。2024年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
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