旅の扉

  • 【連載コラム】【厳選旅情報】編集部がみつけた、旅をちょっぴり豊かにするヒント
  • 2025年9月29日更新
リスヴェル旅コラム
Editor:リスヴェル編集部

奈良で出会った幻のお茶「手もみ茶」体験で広がる新しい旅の扉

手もみ茶の茶葉は針のように細く長いzoom
手もみ茶の茶葉は針のように細く長い

手もみ茶を飲んだことはありますか?
市場に出回ることがほとんどない幻のお茶を、今回はJWマリオット・ホテル奈良のアレンジで実演と体験を通して知る機会をいただきました。マインドフルネスや地域文化の継承を大切にする同ホテルの提案に導かれ、奈良という土地が育んできた深い茶文化に触れる時間は、思いがけない旅先での出会いとなりました。

手もみ茶の世界を案内してくれたのは、奈良市月ヶ瀬で茶園を営む茶師・上久保淳一氏。平成29年に開催された第25回全国手もみ茶品評会(日本茶の最高峰とされる大会)で農林水産大臣賞を受賞し、全国手もみ茶振興会から関西で初めて「茶聖(ちゃせい)」の称号を授与された名匠です。専門的でありながらユーモアあふれる語り口で、茶葉がどのようにして「一杯の特別な味」へと変わっていくのかを実感させてくれました。

茶の葉と実、三点の地図記号は種に由来zoom
茶の葉と実、三点の地図記号は種に由来

茶畑の地図記号がなぜ、三つの山形の点なのかというお話しから始まりました。写真は茶葉と実なのですが、実の中に三つの種が入っているそうで、地図記号はその形に由来しているそうです。そして、このお茶の原点ともいえる種は、弘法大師が806年に唐から持ち帰り、奈良に植えてお茶の製法を伝えたことが始まりで、大和茶の起源と言われています。その大和茶は現在、奈良市東部の月ヶ瀬や田原など自然豊かな山間部を中心につくられています。

さて、本題に入りますが、手もみ茶とは、茶葉をすべて手作業で揉み上げて仕上げる日本独自の伝統技法によるお茶。針のように細く長い形状に整えるまで、約8時間もの時間をかけて何度も揉み込み、乾燥させながら茶葉のうまみと香りを最大限に引き出します。

江戸時代には高貴な人々に愛され、現在でも品評会に出品される最高級茶として知られています。機械化が進んだ現代では非常に希少で、生産量はごくわずか。市場に流通する量は日本茶全体の0.01%にも満たず、1キロあたり150万円という驚くべき価格がつけられることもあるほど。一般に出会う機会はほとんどないそうです。

茶聖 上久保淳一氏による手もみ茶の実演zoom
茶聖 上久保淳一氏による手もみ茶の実演

最初に茶葉を目で見て、香り、針のような茶葉1本を手にとってポリポリとかじってみます。固くはなく独特な歯触りで、青々しい香りと甘みが口の中に広がります。その後、上久保氏は、流暢にお茶の説明をしながら茶葉の入った急須に水を少量入れ、一煎目として小さじ1杯ほどのお茶をワイングラスに注ぎました。透明感のある淡い緑色のお茶は、口に含むと驚くほど濃くて上品な旨みが広がります。まるで昆布の出汁を味わっているかのような深い旨みの余韻がしばらく続きました。茶畑の肥料には、カニやエビ、ホタテ、マグロ、ニシンなど、人間が食べても美味しいものを与えているということで、すべての旨みが茶葉の先端に凝縮されると伺い納得。こうしてできた茶葉はまさに宝物です。

その後も一杯ごとに味わいは変化していきます。次第にほのかな甘みや青々とした香りが強まっていき、だんだん馴染みのある日本茶の味へと寄っていきました。手もみ茶は、飲むというより、五感で「感じる」体験。茶葉の色、香り、味わいの移ろいを一つひとつ確かめる時間は、静かに心を解きほぐしてくれ、感覚が研ぎ澄まされていくのを実感しました。

茶葉に鰹節と醤油、贅沢な逸品にzoom
茶葉に鰹節と醤油、贅沢な逸品に

続いて、茶葉に熱湯を注ぐと、甘み、渋み、苦味が絶妙に調和し、日本茶の奥深さを改めて実感。さらに驚いたのは、お茶を楽しんだ後に茶葉そのものを食べる体験。鰹節に少し醤油を垂らしてお浸しのように口にすると、シャキッとした歯応えと、青菜に似た爽やかな風味があり、栄養を丸ごといただく感覚です。飲むだけでなく、食べても美味しい!

手もみ茶は、単に飲み物として楽しむだけでなく、茶葉に込められた職人の技と精神、そしてお茶文化の奥深さを感じられる特別な存在です。日本茶の文化が「飲料」にとどまらず「食文化」としても深い可能性を持っていることが伺えました。

上久保茶園7代目 茶聖 上久保淳一氏zoom
上久保茶園7代目 茶聖 上久保淳一氏

茶筅、日本酒、そして手もみ茶。一煎ごとに変わる香りを丁寧に味わう、「今ここ」に集中する感覚は、まさにマインドフルネスそのもの。JWマリオット・ホテル奈良が大切にしている「マインドフルネス」という理念のもと、こうした地域文化体験と自然に結びついていて、観光地を巡るだけでは出会えない奈良の深さを感じさせてくれるとても貴重な体験でした。

JWマリオット・ホテル奈良のロビーラウンジ「フライングスタッグ」では、「手もみ茶 月ヶ瀬上久保茶園 茶聖・上久保淳一作」(¥12,650)と、「煎茶 上久保茶園 茶聖・上久保淳一作」(¥1,771)を味わうことができます。手もみ茶の希少性を知った後なら、この価格にも納得がいくはずです。

さらに、奈良・月ヶ瀬にある上久保茶園では、代々大切に育てられた茶葉を使い、手もみ茶の実演や体験を見学できるティーサロン「TEA UEKUBO」を開いています。ここでは、大和野菜や地元の旬の食材を使った料理と、茶聖が選んだお茶を組み合わせたペアリングランチも楽しめるのだとか。次の奈良旅では、ぜひ月ヶ瀬まで足を延ばしてみたいと思わせてくれる場所です。

奈良の旅は、東大寺や古都の景観だけでは語り尽くせません。幻の手もみ茶に出会い、その背後にある歴史や職人の情熱を知ることで、旅はより豊かで知的な時間へと変わります。上久保茶園「TEA UEKUBO」は、旅人がその世界に触れることができる貴重な場所。奈良を訪れる際は、ぜひ足を運び、自分だけの“お茶時間”を見つけてみてはいかがでしょうか。

取材協力:上久保茶園、JWマリオット・奈良、中本酒造店
上久保茶園:https://www.teauekubo.org/
JWマリオット・ホテル奈良公式サイトはこちらから!


取材:RISVEL編集部 N.C.

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