旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2025年9月15日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

世界自然遺産の西表島でエコツーリズム体験 ①日本初のエコツーリズムリゾートを目指す「西表島ホテル」

アジアの離島リゾートを思わせる「西表島ホテル」。客室はすべて海に面し、居ながらにして目の前の月ヶ浜を眺められます。zoom
アジアの離島リゾートを思わせる「西表島ホテル」。客室はすべて海に面し、居ながらにして目の前の月ヶ浜を眺められます。
世界自然遺産の西表島を4年ぶりに訪れました。前回の訪問は2011年5月。その2カ月後の7月26日、西表島は奄美大島・徳之島・沖縄本島北部のやんばるとともにユネスコの世界自然遺産に登録されました。再訪したのは、世界遺産登録が島にもたらした変化が気になっていたことと、また前回はタイミングが合わなかったサガリバナを見に行くクルーズを体験するのが目的です。

「エコツーリズムリゾート」として持続可能な観光の仕組みを創出
滞在した「西表島ホテル by 星野リゾート」は、日本で初めての「エコツーリズムリゾート」を目指し、2021年春から「エコロジカルなホテル運営」「島の魅力と価値を感じるネイチャーツアー」「イリオモテヤマネコの保護活動」の3つの取り組みをスタートしています。

西表島は、島のおよそ90%が手つかずの亜熱帯ジャングル。ホテルに到着してまず感じるのは、東南アジアの離島を訪れたような雰囲気です。ジャングルの中に立つホテルの佇まいやビーチからの距離感が、同じ沖縄でも本島や八重山諸島への玄関口・石垣島のリゾートとは明らかに異なることが分かります。
ジャングルに囲まれた大自然の中に佇む「西表島ホテル」。左奥が沖縄県最長河川の浦内川、緩やかな弧を描くビーチが月ヶ浜。zoom
ジャングルに囲まれた大自然の中に佇む「西表島ホテル」。左奥が沖縄県最長河川の浦内川、緩やかな弧を描くビーチが月ヶ浜。
日本各地で環境負荷を軽減する運営を行っている「星野リゾート」。そのなかでも、ここ「西表島ホテル」の取り組みは突出しています。プラスチックフリー、ペットボトルフリーを徹底し、施設内でペットボトルの飲み物の提供や販売は一切ありません。館内には無料で利用できるウォーターサーバーを設置し、ゲストにはマイボトルの持参を推奨。持参していない場合はボトルのレンタルサービスを利用でき、このボトルのデザインがなかなかお洒落であることもポイントです。客室で歯ブラシ、クシ、ヒゲソリなどのアメニティの提供はありません。以前はロビーに自由にピックアップできるアメニティバーを設置していましたが、現在は必要な場合にリクエストするシステムに変わっていました。

都市部のような下水道が完備していない離島で、川や海を守るための排水処理は大きな課題のひとつ。その負荷を軽減するため、バスメニティとしてオリジナルのオールインワンソープをスキンケアブランド「OSAJI」と共同で開発。さらに、洗剤を使わずアルカリイオン電解水のみで洗い上げるランドリーなど、持続可能な観光への取り組みがいっそう強化されていました。

滞在中、総支配人の細川正孝さんにお話を聞くことができました。
「私たちは島全体を一つのリゾートとしてとらえています。島の自然環境を保護しながら事業として活用することが地域貢献になり、『持続可能な観光』に繋がるという考えです。そのため、島内のネイチャーガイドや農業者の方たちとも連携したプログラムを季節に応じて提供しています。西表島を訪れるお客様は日帰りの方も多いのですが、ぜひ宿泊して島の自然と触れ合うこれらのプログラムを体験をしていただきたいです。チェックイン時には、西表島の自然環境とホテルの取り組みをきちんと説明しご理解いただく『インフォームドチェックイン』を実施しており、島の自然環境の価値と魅力を知ることで、楽しみながら自然保護について関心を持っていただけるといいですね」と、細川さん。

ペットボトルを持ち込まない、使い捨てのアメニティを極力使わない、バスアメニティや日焼け止めは環境負荷が少ない成分のものを選ぶ・・・。一つ一つは小さな行動ですが、その取り組みの先にあるものに想像を巡らせると、滞在中の行動がいつもと少しだけ変わっている自分に気付きました。

西表島の生態系がギュッと詰まった敷地内をガイドウォークで散策
ほぼ自然そのままのジャングルの中に立つ「西表島ホテル」。敷地に隣接して流れる浦内川は、ホテルの前の月ヶ浜に注ぎます。いわば、西表島の自然環境をギュッと凝縮したようなところ。チェックイン当日に参加した「イリオモテガイドウォーク」は、敷地内のジャングルやマングローブの林をスタッフが案内してくれる無料のガイドツアーです。
西表島の基本情報を学べる「Kichi(キチ)」はアウトドアのライブラリー。滞在中は自由に利用できます。zoom
西表島の基本情報を学べる「Kichi(キチ)」はアウトドアのライブラリー。滞在中は自由に利用できます。
ツアーは、ホテルエントランスのすぐ目の前にある「ジャングルKichi(キチ)」からスタート。ここは、島内マップや島に関する図鑑、絵本などの資料を自由に閲覧しながら寛げるスポットで、アウトドアのライブラリーのような場所です。まずガイドを担当するスタッフから西表島の基本情報や、希少な動植物についての紹介があり、いよいよジャングル探検に出発します。ジャングルの中ではイノシシの痕跡、傘の代わりになりそうな大きな葉っぱ、木のコブや幹の穴、寄生植物などを観察しながら散策します。自然の造形、足元に落ちた木の実など、ただ歩いているだけでは見逃してしまいそうなものの一つひとつにスタッフの説明が加わると、たちまち生命力を得て特別なものに見えてくるから不思議です。

ジャングルと川、海がとても近くて、潮の満ち引きによってまるで違う景色が現れることも、この場所の魅力です。ホテルの敷地に沿って流れる浦内川は、沖縄県最長の河川。400種類以上の水棲生物が生息し、海水と淡水が混ざり合う汽水域には日本最大のマングローブ林が広がります。マングローブが海水でも枯れない理由、汽水域の生態系のなかでの役割、細長いサヤのような種が砂に突き刺さって発芽する仕組みなど、知れば知るほど「マングローブってすごい!」と思わずにはいられません。このときは夕刻の干潮時で、マングローブの根が今にも動き出し、行進を始めて迫ってきそうな光景に出合いました。
上/干潮時のマングローブ林。中左/大きな貝は、なんとシジミ!。中右/「ウルトラマンの実」の別名をもつサキシマスオウの実。下/ホテルの目の前に広がる月ヶ浜。沖縄の言葉で「トゥドゥマリの浜」と呼ばれ、“神様がとどまる場所”の意味があるそう。zoom
上/干潮時のマングローブ林。中左/大きな貝は、なんとシジミ!。中右/「ウルトラマンの実」の別名をもつサキシマスオウの実。下/ホテルの目の前に広がる月ヶ浜。沖縄の言葉で「トゥドゥマリの浜」と呼ばれ、“神様がとどまる場所”の意味があるそう。
浦内川が注ぐホテル前の月ヶ浜は、海岸線が三日月のように美しい弧を描くことからこう呼ばれるようになったのだそう。細かな白砂を踏みしめると“キュッ、キュッ”と音がする、沖縄県唯一の鳴き砂のスポットです。また、サンセットも美しく、夕暮れの浦内川から月ヶ浜までカヤックでこぎ出すアクティビティもあります。

“幻の花”に出合う、念願のサガリバナクルーズへ
今回訪れたのは、7月下旬。この時期を選んだのは、初夏の早朝にだけ咲く、サガリバナを見るクルーズを体験するためです。サガリバナは西表島の夏の風物詩で、この花を見ると幸せになるとの言い伝えがあります。夜に咲いて早朝には散ってしまうため、“幻の花” “一夜花(ひとよばな)”とも呼ばれています。
ツアーは、まだ星が見える夜明け前にホテルを出発。島で三番目に大きな河川・仲良川(なからがわ)をボートで上っていくと、最初はポツポツと見えていた川面のサガリバナの数が段々と増えてきます。岸辺からは甘い香りが漂ってきて、耳を澄ますと水面にポトリ、ポトリと花が落ちる音も。別世界に引き込まれたような幻想的な光景に、うっとりとして浸ってしまいました。
◎絶景!サガリバナ鑑賞クルーズ
2025年は終了、2026年は2月ごろより予約開始予定。
6~7月限定の「絶景!絶景サガリバナ鑑賞クルーズ」。この光景に魅せられ、毎年訪れている人も少なくないそう。zoom
6~7月限定の「絶景!絶景サガリバナ鑑賞クルーズ」。この光景に魅せられ、毎年訪れている人も少なくないそう。
秋から冬に楽しみな、ネイチャーツアーの数々
空気が澄んでくるこれからの季節に楽しみなのが、星空観賞。西表島は日本で最も多くの星座を観測できる島。星空をイメージしたオリジナルドリンクを楽しみながら、ビーチに寝そべって星空を観測する無料のアクティビティが登場します。夜間にはレストラン、客室など全館のカーテンを閉めて、スタッフとゲスト全員で星空を楽しむための空間を作り上げます。波の音に耳を傾けながら、水平線まで広がる自然のプラネタリウムで過ごすひとときを想像するだけで癒されてくるようです。
◎Iriomote Starry Night
期間 : 10月1日~11月30日
時間 : 21:00~22:00
参加費 : 無料
上/デラックスツインの客室。下/西表島といえば、イリオモテヤマネコ。ヤマネコをモチーフにしたお菓子やグッズはお土産に。zoom
上/デラックスツインの客室。下/西表島といえば、イリオモテヤマネコ。ヤマネコをモチーフにしたお菓子やグッズはお土産に。
秋から冬に、次回はぜひ体験してみたいと思ったネイチャーツアーが、もう一つあります。それは、西表島の自然と文化を地元のイノシシ漁師から学ぶ、「カマイ狩猟文化体験ツアー」。“カマイ”とは島の言葉でイノシシのこと。古来から西表島に生息するイノシシは、島の自然環境を構成する重要な動物のひとつですが、増えすぎると食害や固有種の生態系に悪影響を及ぼすこともあります。個体数のバランスを保つために古くから行われてきたのが、タンパク源として食すこと。ツアーでは島の猟師がイノシシの生態について解説。その後、猟師の案内でジャングルを歩きイノシシの痕跡を探しながら、その生態を学びます。さらにディナーは、狩猟が許されるこの期間ならではの、カマイ肉を使った滋味深いジビエ料理。島のエコシステムを猟師から学ぶ、大人の社会科見学のような内容です。
◎カマイ狩猟文化体験ツアー
期間 : 2025年11月15日~2026年2月15日の土・日曜限定
料金 : 1組59,200円(税込み) ※ツアーは1日1組限定、1~3名で催行
予約 : 1週間前の18:00までに、TEL0980-85-7111にて要予約

「西表島ホテル」では、ほかにも季節限定や通年のネイチャープログラムなど、様々なアクティビティを体験できます。【世界自然遺産の西表島でエコツーリズム体験】第2回は、通年のアクティビティのひとつ、西表島のアイドル・イリオモテヤマネコの痕跡を訪ねるツアーをご紹介します。
◆西表島ホテル by 星野リゾート
沖縄県八重山郡竹富町上原2-2
TEL 050-3134-8094(星野リゾート予約センター)
料金:2泊24,000円~(2名1室利用時の1名分、税・サービス料込み、食事別)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/iriomote/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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