旅の扉

  • 【連載コラム】***独善的極上旅日記***
  • 2025年7月25日更新
フリージャーナリスト:横井弘海

#この夏、新制作の東京二期会オペラ『くるみ割り人形とイオランタ』が素敵!

公演ポスターzoom
公演ポスター

 東京二期会オペラ『くるみ割り人形とイオランタ』が、7月に東京文化会館で4日間上演され、イオランタ役のソプラノ梶田真未さんはじめ、東京二期会の実力派歌手たちが喝采をあびました。
チャイコフスキーによるバレエ「くるみ割り人形」とオペラ「イオランタ」を、ウィーン・フォルクスオーパー芸術監督であるロッテ・デ・ベア氏のアイデアにより、ひとつの舞台作品として融合させたこれまでにない新しい作品で、2022 年ウィーン・フォルクスオーパーでのワールドプレミアで大きな話題を呼びました。
 二期会の舞台はウィーン・フォルクスオーパー、ウィーン国立バレエ団との共同制作公演で、演出をロッテ・デ・ベア氏、振付をヨーロッパで活躍するアンドレイ・カイダノフスキー氏が担当。
この後、愛知(7月26日)・大分(8月2日)の2都市でも公演が行われます。
 東京公演の指揮はマキシム・パスカル氏。愛知・大分公演 では、名古屋フィルハーモニー交響楽団音楽監督、川瀬賢太郎氏が務めます。

演出のロッテ・デ・ベア氏 写真提供:公益財団法人東京二期会 (c)Philipp Ottendoerferzoom
演出のロッテ・デ・ベア氏 写真提供:公益財団法人東京二期会 (c)Philipp Ottendoerfer

 作品は、盲目の王女イオランタの内なる目でみる幻想の世界(『くるみ割り人形』)と彼女が生きる現実の世界(『イオランタ』)が、物語の展開に従って交錯し、いつしかその区別もなくなり、劇的なフィナーレへと向かいます。
 オペラファン、バレエファンの垣根なく、初心者の方やお子さまでも楽しんでいただけるようにとの想いから創造された舞台だそう。上演時間が2時間15分(休憩1回含む)。
 ロシア語原語で上演されますが、もちろん日本語の字幕がついています。

東京公演ゲネプロ風景zoom
東京公演ゲネプロ風景

 より深く舞台を味わうことができるよう、この2つの作品についてのそもそもを抑えておきましょう。
 オペラ「イオランタ」は、ロシアの偉大な作曲家ピョートル・チャイコフスキーによる約90分の一幕物のオペラで、彼の最後のオペラ作品です。1892年12月18日、ロシアのサンクトペテルブルクにあるかの有名なマリインスキー劇場で初演されました。
原作はヘンリク・ヘルツの戯曲『王の娘』。
台本はモデスト・チャイコフスキー(作曲者の弟)。ロシア語です。

物語のあらすじは以下の通り。
 中世の南フランスが舞台。主人公は盲目であることを知らずに育てられた王女イオランタ。父のルネ王が、彼女の心の平穏を守るためにその事実を隠し、周囲の者には盲目を口外しないよう命じていた。ある日、王女の庭にヴォデモン伯爵が迷い込む。イオランタと出会ったヴォデモンは、彼女が盲目であることに気づき、それを告げてしまう。初めて自分が「見えない」ことを知ったイオランタは大きな衝撃を受けるが、「見えるようになりたい」という強い意志が芽生える。
 王は最初怒ったが、医師イヴン=ハキアは「本人の強い意思がなければ治療は成功しない」と説得する。王はついに治療を許し、イオランタは視力を取り戻し、ヴォデモンとの愛も実を結ぶ。

 主なキャストは、
イオランタ(Iolanta):盲目の王女
ルネ王(King René):イオランタの父
イブン=ハキア(Ibn-Hakia):医師
ヴォデモン伯爵(Vaudémont):イオランタと恋に落ちる青年
ロベルト公爵(Duke Robert):イオランタの婚約者
アルメリク(Alméric):王の侍従 など。

 一方の「くるみ割り人形」もチャイコフスキーの作曲。
原作は、ドイツのE.T.A.ホフマンの童話『くるみ割り人形とねずみの王様』を、アレクサンドル・デュマ・ペールがフランス語に翻案した『はしばみ割り物語』で、ストーリーは、クリスマス・イヴにくるみ割り人形を贈られた少女が、人形と共に夢の世界を旅するお話。毎年クリスマスの頃に世界中で上演され、日本でも人気です。チャイコフスキーが作曲した「白鳥の湖」「眠れる森の美女」と共に3大バレエとも呼ばれる夢のある作品です。

 「くるみ割り人形」は、チャイコフスキーが手がけた最後のバレエ音楽であり、「イオランタ」と同じ日に同じ劇場で初演されました。詳しいことは、少し調べただけではわかりませんでしたが、2つの作品は元々縁があるのです。


東京二期会『くるみ割り人形とイオランタ』初日(写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦氏)zoom
東京二期会『くるみ割り人形とイオランタ』初日(写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦氏)

 では、このオペラとバレエを融合させた新たな試みは、どのように生まれたのでしょう。演出を担当したウィーン・フォルクスオーパー芸術監督 ロッテ・デ・ベア氏は、東京公演を前にした記者会見の席上、こう語りました。
「『イオランタ』はとてもやりたかった作品。そして、多くのヨーロッパの人にとってそうであるように、『くるみ割り人形』は、子どもの頃、クリスマスに観るすごくノスタルジーを感じるバレエで、両方とも親近感がある。
 目が見えないイオランタが見えるようになるという物語は、子供から大人になっていく人間としての成長に重なる。『くるみ割り人形』のバレエでイオランタの子供時代を詩的に表現し、イオランタが大人になり、目が見えるようになったら、くるみ割り人形が消えてなくなってしまう、そういった構成にしています」 

東京二期会『くるみ割り人形とイオランタ』初日(写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦氏)zoom
東京二期会『くるみ割り人形とイオランタ』初日(写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦氏)

 さて、4日間の東京公演は、好評だったようです!
オリジナルの「くるみ割り人形」「イオランタ」をよく知る観客のなかには、2つを組み合わせたことによって、聴きたいところや観たい場面がカットされたことにネガティブな意見を持つ方もいたかもしれません。
 しかし、それは、それぞれの好みもあることですし、どんな演出であっても起きる事でしょう。
 オリジナルを忠実に再現するのは素晴らしいですが、さまざまな演出家の解釈により、新たな魅力ある作品を現代の人々が作ることは、とても意義あることに思えます。

 私はバレエやオペラの一ファンで、「くるみ割り人形」は何度も観ていますが、「イオランタ」は初めて観たくらいで、偉そうなことは言えません。
 ただ、キャストの演技に、物語が進むにつれて引き込まれ、バレエも素敵で、現実と夢の世界を行き来しながら、主人公のイオランタが成長していく過程がとてもナチュラルに楽しめました。
 「イオランタ」の主題である人間の尊厳と自立、愛の力といったものを、「くるみ割り人形」が素敵に彩ったように感じます。そして、チャイコフスキーの叙情的かつドラマティックな音楽はやはり美しい。

 名古屋、大分の2公演を残すばかりですが、新しい作品としても、ぜひご覧いただきたいです。


指揮:川瀬賢太郎氏(C)Tomoko Hidaki.jpgzoom
指揮:川瀬賢太郎氏(C)Tomoko Hidaki.jpg

今後の公演予定

#愛知公演
7月26日(土)13:00開演(12:00開場)
会場 愛知県芸術劇場 大ホール

#大分公演
8月2日(土) 13:00開演(12:00開場)
会場 大分県 iichiko総合文化センター
iichikoグランシアタ


指揮 川瀬賢太郎
演奏 名古屋フィルハーモニー交響楽団

キャスト(イオランタ)梶田 真未
    (ルネ)   狩野 賢一
    (ヴォデモン)伊藤 達人
    (ロベルト) 大川 博   他

     東京シティ・バレエ団 

詳細 https://nikikai.jp/


フリージャーナリスト:横井弘海
元テレビ東京アナウンサー。各国駐日大使を番組や雑誌でインタビューする毎に、自分の目で世界を見たいという思いが強くなり、訪問国は現在70カ国超。著書に「大使夫人」(朝日新聞社刊)。国内旅行は「一食一風呂入魂!」。美味しいモノと温泉を追いかけて、旅をしています。
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