旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2025年7月3日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

ワインの故郷を訪ねたくなる! イタリア・トスカーナ地方の赤ワイン「キアンティ・クラシッコ」の魅力

ザ・ペニンシュラ東京で催された「キアンティ・クラシッコ」の試飲イベントで振る舞われたワイン7種類と、オリーブオイル2種類。zoom
ザ・ペニンシュラ東京で催された「キアンティ・クラシッコ」の試飲イベントで振る舞われたワイン7種類と、オリーブオイル2種類。
イタリア・トスカーナ地方を代表する赤ワイン「キアンティ・クラシッコ」を知っていますか?

「キャンティ」は日本でもイタリアンレストランの名前になっているので、耳にしたことがある人もいることでしょう。よく混同されるのですが、明らかに異なるワイン。キャンティがトスカーナ地方の広い地域で生産されるのに対して、「キアンティ・クラシッコ」と名乗ることができるのは、特定の地域で厳格な条件のもと造られたワインだけ。その特徴は、酸と果実味、タンニンのバランスがよく、食事を引き立ててくれること。

その「キアンティ・クラシッコ」の魅力を存分に味わう試飲イベントが、キアンティ・クラシッコ協会(Consorzio Vino Chianti Classico)の主催によりザ・ペニンシュラ東京にて催されました。ナビゲーター役は、ワインジャーナリストでエッセイストとしても活躍する宮嶋勲さん。宮嶋さんは同ワインの名誉アンバサダーです。2年前にも同様のイベントが開催され、宮嶋さんのワイン愛にあふれ、なおかつわかりやすく軽妙な語り口に聞きほれた経験があります。今回はどんなお料理との組み合わせで味わえるのか、そして宮嶋さんのキレのあるトークも楽しみに出かけました。
名誉アンバサダーを務める宮嶋勲さんと、今回のイベントに合わせ来日した、キアンティ・クラシッコ協会のシルビア・フィオレンティーニさん(右)と、カルロッタ・ゴリさん(左)。zoom
名誉アンバサダーを務める宮嶋勲さんと、今回のイベントに合わせ来日した、キアンティ・クラシッコ協会のシルビア・フィオレンティーニさん(右)と、カルロッタ・ゴリさん(左)。
メディチ家の時代より300年の歴史を誇るワインの伝統を守る
「キアンティ」はトスカーナ州中央部にある地方の名称、「クラシッコ」は“古典的”という意味です。その歴史はメディチ家がこの地方を支配していた300年ほど前まで遡り、トスカ―ナ大公により優れたワインの産地として認定されたことが始まり。文化や歴史とともにワインの品質を守るため1924年、イタリアで最初のワイン生産者団体として設立されたのが、今回のイベントの主催者であるキアンティ・クラシッコ協会です。宮嶋さんは、ワインそのものの魅力とともに、産地の特徴、生産者の取り組み、産地にまつわるエピソードも熟知していることから、名誉アンバサダーとしての役を任せられたのだそうです。

キアンティ・クラシッコ協会によって定められた、厳格な条件の一部をご紹介しましょう。
・トスカーナ地方の中央部に広がる丘陵地帯のなかでも、特定の地域でさらに認定を受けたブドウ畑と生産者により造られていること。
・トスカーナ地方の最重要品種であるサンジョヴェーゼというブドウを80%以上使っていること。
・協会が定めた醸造法により、醸造からボトリングまで、すべての工程を地区内で行うこと。
・最低でも12カ月間、熟成させること(ちなみに、キャンティの場合は4カ月間)
などなど。これだけでも、どれだけ厳しい条件をクリアし、選ばれたワインであるかがわかるでしょう。
赤ワイン6種類と、ヴィンサント1種類の合計7種類をコース料理とともにテイスティング。zoom
赤ワイン6種類と、ヴィンサント1種類の合計7種類をコース料理とともにテイスティング。
また、本物のキアンティ・クラシッコの目印は、「ガッロ・ネーロ」という黒い雄鶏のマーク。シンボルマークの背景には、かつてトスカーナの覇権を争ったフィレンツェ軍とシエナ軍の少しばかり愉快なエピソードがあるのですが、これについては2年前のコラムをご参照ください。

300年の歴史を誇るイタリアの赤ワイン『キャンティ・クラシッコ』の世界を堪能
https://www.risvel.com/column/1209

「キアンティ・クラシッコ」を初夏のコース料理とともに味わう
「キアンティ・クラシッコ」の最大の魅力は、食事に合わせやすいガストロノミックなワインであること。この日はランチのコース料理とともに、以下の赤ワイン6種類とヴィンサント(デザートワイン)1種類の合計7種類がテイスティングに振る舞われました。

① NARDIVITICOLTORI 
Chianti Classico Nardi Viticoltori 2022
② I FABBRI
Chianti Classico Terra di Lamole 2021
③ CASTELLO DI VOLPAIA 
Chianti Classico Castello di Volpaia Riserva 2021
④ CASTELL’IN VILLA
Chianti Classico Castell’in Villa Riserva 2019
⑤ ROCCA DELLE MACIE
Chianti Classico Il Crocino Gran Selezione 2021
⑥ CASTELLO DI VERRAZZANO 
Chianti Classico Sassello Gran Selezione 2018
⑦ FONTODI
Vinsanto del Chianti Classico Fontodi 2014

①は、果実味が感じられるとても素直な味わい、②は日本未輸入で、ツウ好みのワインだそうです。③と④は、どちらも熟成期間が長い“リゼルヴァ”ですが、前者は比較的新しい、後者は伝説的な生産者で、対照的なワインなのだとか。
ガツンとくる印象的な味わいだったのが⑤のワイン。一方、⑥はやや優しい感じがして、宮嶋さん曰く、「スミレ系のアロマが特徴ですが、やや締りが足りなくて、物足りなさを感じるかもね」とのこと。このあたりのユーモアを交えた解説も、宮嶋さんならでは。辛口コメントの中にもそのワインを見守るような温かな視線が感じられます。⑦は、ほとんどハチミツのように濃厚な甘さのデザートワインです。
この日のメニュー。パンにはワインと並ぶキアンティ・クラシッコの名産品、オリーブオイルも2種類が添えられた。zoom
この日のメニュー。パンにはワインと並ぶキアンティ・クラシッコの名産品、オリーブオイルも2種類が添えられた。
赤ワインといえば肉料理のイメージがありますが、魚料理にも合うのが「キアンティ・クラシッコ」の大きな魅力のひとつ。今回の試飲イベントの良かったところは、料理の進行を待たずにデザートワインを除いた6種類が次々とサーブされたこと。前菜、魚、肉料理、それぞれのワインとの組み合わせを行きつ戻りつしながら味わえ、ワインがゆっくりと開いて味わいが変わっていくのを楽しむことができました。

2年前のイベントで、とても印象的で今でも記憶に残っている宮嶋さんのお話が、
「外では個性の強いグラマラスなワインを指名して飲むイタリアのワインジャーナリストたちが、自宅にはキアンティ・クラシッコを常備して、毎晩飲んでいる」というもの。
その言葉を改めて思い出しながら、今回もコース料理とともに堪能することができました。
春の名残りの桜海老やホタルイカに加え、トウモロコシ、アスパラなど初夏の食材をふんだんに取り入れ、この時期ならではの日本の季節の移り変わりが感じられた料理。zoom
春の名残りの桜海老やホタルイカに加え、トウモロコシ、アスパラなど初夏の食材をふんだんに取り入れ、この時期ならではの日本の季節の移り変わりが感じられた料理。
ブドウ畑と田園風景が織りなす美しい景観で世界遺産登録を目指す
現在、キアンティ・クラシッコ地区は世界文化遺産登録リストに名を連ねています。この地区がフランスなどの代表的なワインの生産地と異なるのは、ブドウ畑の占める割合が地域全体のわずか10%しかないこと。森の中にブドウ畑とともにオリーブや野菜などの農場が広がり、単一耕作ではない自然の多様性の価値も大いに注目されています。

世界遺産登録をサポートしているイタリア都市研究の第一人者、法政大学名誉教授・陣内秀信先生によると、昔からこの地は貴族のヴィラを中心にワイン造りが行われ、生物多様性を大切に守りながら独特の風景を保ってきたとのこと。
「日本にたとえるなら、棚田や茶畑のようなところ」と、陣内先生。
土地に根付いたワイン造りの歴史以外にも文化的遺産が多く、自然と人間が手を携え長い年月をかけて作りあげた美しい風景にこそ、世界遺産として登録する価値があるのだそうです。
世界遺産登録をサポートする陣内秀信名誉教授(左)と、料理を担当したザ・ペニンシュラ東京 副総料理長の原田シェフ。zoom
世界遺産登録をサポートする陣内秀信名誉教授(左)と、料理を担当したザ・ペニンシュラ東京 副総料理長の原田シェフ。
陣内先生のコメントを聞き、改めて「キアンティ・クラシッコ」への産地としての興味も高まってきました。これから、旅のデスティネーションとしてますます注目度が高まってくるに違いありません。この日のイベントで、その美しい風景の中で飲む「キアンティ・クラシッコ」の味わいをイメージし、うっとりとした気分に浸っていたのは私だけではないはず。世界遺産登録への動きにも注目しながら、ウィンショップやレストランで黒い雄鶏のマークのワインを探し、味わってみたいと思います。

◆協力/キアンティ・クラシッコ協会(Consorzio Vino Chianti Classico)
https://www.chianticlassico.com/ja/chianti-classico-characteristics/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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