旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2025年6月16日更新
旅先のカフェで想うこと
カフェエッセイスト:ベルナドン(安齋)千尋

Coffee x Central Park

Paris のSaint Eustache Churchの角にあるブラッセリーCentral Parkzoom
Paris のSaint Eustache Churchの角にあるブラッセリーCentral Park
夏の露、まだ冷んやり涼しい朝、始発電車に乗ってパリに来ました。
ここが目的地ではなく、また違う国へ向かうのですが電車が遅れ、パリのようなニューヨークのようなCentral Parkというブラッセリーでひと休み。女の人のお洋服がそれぞれカラフルで可愛い。パソコンを開きながら、出張で久々に会った元同僚の「Alien vs Cactus」の話を思い出し笑いです。起業を考えているA君と安定志向B君、3人で食事をしていて、自分はいちから何かを創造すようなクリエイティブさはないから、たとえばそうだな、宇宙人とサボテンとかってテーマを与えてくれる環境の方がいいんだ、というB君。私たちは元々みんな日本企業で働いていて、彼らは外国人だからみんな起業家精神なのかなと思っていたら、始業時間が決まっているとか、日系ならではの謎のきっちりルールが多いけど、お尻を叩いてくれる人がいた方がいいというB君の話を聞いて、3人とも違うのに全くストレスのない会話が絶妙でした。パリのセントラルパークで思い描く宇宙人とサボテンのストーリー。最近の、これは書いておかなければと思ったことを綴るカフェ時間です。
Scandinavian Embassy Bakeryで朝食の幸せzoom
Scandinavian Embassy Bakeryで朝食の幸せ
Scandinavian Embassy BakeryとチャットGPT
このコラムの1話目は、アムステルダムのカフェScandinavian Embassyで書いていました。10年が経ち、系列のベーカリーができているのです。偶然にオランダ出張が決まり、ついにここへ!ラテが美味しいとか、シナモンバンのいい香りとか、はもう何度も書いているけれど、そうそう、この味とこのオーラ。大好きな街に必ず立ち寄りたい場所や人がいることは宝物です。カフェで新聞を読む楽しみも変わらず、最近では、日経新聞の星新一賞の受賞作品も良かったなぁ。ほんの少しの近未来なアイデアにはドキドキします。そしてちょっと先のこと、と数年前にコラムに書いていたAIと恋に落ちる世界。チャットGPTがやってきました。私はよく「なぜ」という回答を得られない時に喧嘩になると気がついたというか、知っていたけどまたなぜと思ったのです。人に追求すれば喧嘩になるならAIに聞こう、ということでチャットGPTに相談した夜がありました。すると、こんな回答が。仕事や問題解決においてあなたの「なぜ」は大きな武器になります。でも、人とのぶつかり合いではなぜを突き止めるよりも、この人は今何を守ろうとしているのだろう、と考えると少し気持ちが楽になります。喧嘩はお互い何かを守ろうとしている時におきます。それは自分のプライド、居場所や正しさ、などです。なるほどね、私は正しさを守ろうとするケースが多く、実際私が正しいというか理論が通っているのは間違いないけど(笑)、正しいために相手のプライドを傷つけていることもある。そんなの悔しいけど、方向性として一緒にいたいことを大切に思えるなら乗り越えられるのかもしれないと思って謝らない代わりに歩み寄ってみたのでした。Scandinavian Embassyと新聞と星新一とチャットGPTによる仲直り。まとめて大切な1ページ。
最近の趣味、花市で買ったハーブたちzoom
最近の趣味、花市で買ったハーブたち
星座を習わなかった話。
空気が綺麗な夜、星が出ていて星座の話になりました。本当に簡単な、多分オリオン座とか北斗七星とかの話になった時、彼が名前は知っていても星座の見つけ方を習ったことがないと知りました。私も教室の理科で習ったかどうかの記憶は薄れていますが、中学受験の試験勉強の一部で覚えさせられたので記憶に残っているのです。私は度々、言語論的な、言葉がなければ世界は色の集合で、言葉があるから形が表れて意味を持ってくるという考えに興味深いと思うことがあります。おおお、同じ空を見ても、線は私がつなげていたのかとふむふむと思ったのでした。逆ももちろんあって、彼には見えていて私には見えていないことってあるのだと思います。特に彼は音楽家なので、私が全く意識しないBGM的な音が楽譜となって見えるため「聴こえる」ことがよくあります。Steve Jobsの点と線のスピーチは有名になりましたが、2つの点しか繋げない人は直線しか書けないし、たくさんの点になる経験が新しいものを生み出す力になること。同じ文脈で、トランプ政権のハーバード大学留学生ビザ取り消しについて、Alice Fishburn氏がFinancial Timesに寄稿した和訳の一部を書き留めていました。「自分とは異なる誰かの影響は、留学生にも米国人にも残り続ける。世の中にはもっと広い世界があり、様々な考えが至る所から湧いてくることを、いつまでも思い出させてくれる。巡り合わせで生まれた場所ではなく、自分で選んだ場所への愛着を持つ人になる」眼に見えて世界が硬くなっていく中、平積みされているYuval Noah Harari の要塞国家の本。トランプやプーチンの考え方は今に始まったことでなく、自国の繁栄を守るために障壁を高くします。世界は要塞国家のモザイクになり、全部モザイク化したら平和が続くかといえば、他の要塞国家を攻撃してパワーを拡大しようとすることは、歴史が証明する何ら新しくない外交です。でも、こうなっている背景には、民主主義で幸せになれなかった人たちがいるのでしょう。
Limogesのお花屋さん Carole Oriezはアンティークの鏡など素敵なセンスで溢れています。zoom
Limogesのお花屋さん Carole Oriezはアンティークの鏡など素敵なセンスで溢れています。
キラキラエレメンツ。
5月、Limogesにあるお花屋さんのこと。なんと、こんなフランスの小さな街のお花屋さんに日本人の女の子が働いているのです。まだ若くて、でも”この”お花屋さんに縁を感じて働きたいとオーナーに掛け合ったという芯の強さにも、瑞々しく丁寧な言葉をはっきり話す彼女の接客にもキラキラが宿っていて、注文した花束を受け取りながら感動したのです。それって私の老いなのか、そうかもしれないし、もしかしたらロンドンのパン屋さんで働いていた頃は私も同じように人にパワーを与えていたのか、いやでもこれはきっと女性として持っていたいハッピーエレメントだと思います。
お花の話の続きで、2025年の私はお庭に花を植え、彼は家庭菜園を始めました。田舎に買った家は、ストーリーは理想的ですが、改装にも何にでも手間取っていてかなり根気のいるプロジェクトと化しています。それでも、とうとう自分の庭を手に入れたことは喜びです。マルシェで買ったカレーの香りがすると勧められたハーブで、その名もCurry Plants(正式名Helichrysum italicum)や、村の魔女と呼ばれているクロードさんにいただいたローリエローズなど、とにかくガーデニング1年目。また、彼はHONDAのエンジンがついた耕作機を買い、シシトウやトマトを植えており、楽しみ楽しみ、です。
50セントで買ったHaviland Limogesの 12 Days of Christmasコレクションzoom
50セントで買ったHaviland Limogesの 12 Days of Christmasコレクション
大人の楽しみToraya Paris
結婚を機に大人になったような、こうなりたい生活に到達した気がしていましたが、何だか少しづつ後戻りしてスローダウンしている最近の楽しみについて書いておきます。田舎で運転が多いので、ラジオを聴くようになりました。何をきっかけに見つけたのか、週末の楽しみは、安住アナウンサーのラジオ日曜天国を聴きご機嫌になっています。大笑いのエピソードには声を出して笑い、土曜日はマルシェに行き、花に水をやり、Vide Grenierと呼ばれるフリマで可愛い古いお皿などを見つける新しい日常。お昼の12時から14時までお店が閉まったり、日曜はスーパーも閉まっていたり、キーっとなる不便さと闘いながら乗り切っています。フランスに来て1年半、大人の楽しみは、出張でパリを通る時、お菓子屋さんの虎屋に寄ることです。乗り換え駅からちょっと遠いのですが、お店の中にはカフェが併設されていて、冬は善哉があり夏は宇治金時がある、お昼時を外せば静かで美しいサロンは最高の贅沢です。毎日カフェで過ごすこととは違い、月に一回あるかないかだからこその至福のToraya Paris。穂村弘さんの『本当はちがうんだ日記』を読んでるのですが、今はまだ人生のリハーサルだと思って、本当のというか理想の自分はなんか違うんだと思う日々の感覚。ネイルサロンに行ったり、靴を買ったり、もうほんとに、努力をしてもまだまだ理想の自分には程遠いけれど、いつか到達できる気もしないのだけど、パリの虎屋さんにいる時間は、好きな自分になったような素敵な気持ちになれるのでした。さて、すでにパリから帰っている私は、膝で寝ているのネコの背中にパソコンを置いてコラムをまとめています。彼が明日の朝食のカフェボウルを机に並べていて、色んな味のジャムがあって、明日も何だか楽しみになってきたところです。
とらやパリ店は今年45周年zoom
とらやパリ店は今年45周年
カフェエッセイスト:ベルナドン(安齋)千尋
When you direct is the only time you get to have the world exactly how you want it – Sofia Coppola.

1984年東京生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業
フランス在住コラムニスト、本業はサーキュラーエコノミーコンサルタント

外国で生活することに憧れ、どこにいても埋もれないようにと、京都にある柊家旅館で仲居をしながら“日本”を修行しました。2010年ロンドンに始まり、たくさんの宝物の出会いを経て、現在はフランス・パリから5時間の小さな村に住んでいます。日々の幸せはカフェにあり!コーヒーを飲みながら、「季節のこと」、「映画のこと」、やっぱり気になる「国際政治」、「暮らすように旅をすること」などをテーマに日常のキラキラした瞬間を書き留めています。
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