「たぶんこれが好みに合うだろう」と、感覚で選びがちなのがコーヒー豆だ。深煎りの苦みのある味わいの1杯を、砂糖もクリームも加えないでブラックのままたしなむ私もその1人だ。ところが、東急電鉄田園都市線・大井町線の二子玉川駅前にある大型商業施設「玉川高島屋S・C」(東京都世田谷区)の南館地下1階に3月12日オープンした堀口珈琲の新店では実際にテイスティングをし、好みの豆やひいた粉を「しっかりと選んで買う」ことができる。その結果、私が購入したコーヒー豆とは…。
【堀口珈琲】輸入した高品質のコーヒー豆を焙煎し、販売している企業。本社は東京都世田谷区。1990年に創業し、日本国内では東京都内に5店構えているほか、フランチャイズ(FC)の店舗が中国・上海に2店ある。国内店舗は玉川高島屋S・C店のほかに小田急電鉄小田原線の千歳船橋駅に近い世田谷店(世田谷区)、狛江店(狛江市)、「Otemachi One店」(千代田区)、上原店(渋谷区)がある。
▽“ブラックボックス”になりやすいブレンドコーヒー
コーヒーを愛飲する1人として、特定の生産地や農園、品種を選ぶ「シングルオリジン」はもちろん好きだ。例えばコーヒー豆や、それをひいた粉を販売する店舗で「インドネシアのオナンガンジャンの農家が栽培したマンデリンをください」などと指名して買う方法だ。
さまざまなコーヒーを飲んできた経験に基づき、シングルオリジンの産地や品種を聞くと「こんな味かな」と想像が沸きやすい。実際、私も店舗でシングルオリジンの豆を紹介され、自分の好みに合うと想像して買ったところ「ドンピシャ」だったこともある。
これに対し、“ブラックボックス”になりがちなのがブレンドコーヒーだ。特性が異なるコーヒー豆をブレンドしている場合が多いため、どのような味なのかつかみにくいのだ。
▽フレンチローストを全て試飲
だからこそ、取り扱っているブレンドコーヒーの味わいのチャートを作成して特色を説明し、実際に試飲できる堀口珈琲の販売方法は好ましいと思った。沿線に住んでいる東急電鉄大井町線に乗り、二子玉川駅で降りて開業間もない堀口珈琲玉川高島屋S・C店へ向かった。
指定したコーヒー豆の2カップ、各60ミリリットルを試飲するのに600円かかるが、欲しい商品を確実にチョイスできると考えれば悪くない。私もそうだが、好みに合わないコーヒー豆を買ってしまい、仕方なく飲みきった経験を持つ方はいらっしゃるだろう。
堀口珈琲には通常取り扱っているブレンドコーヒーに1~9の番号を付けており、チャートでは味の特色を示す縦軸と、焙煎度の深さを表す横軸に当てはめている。明らかに私の口に合うのは焙煎度がかなり深い「フレンチロースト」で、堀口珈琲のチャートでは6段階のうちイタリアンローストに次いで2番目に深い。そこで、6~8の番号が付けられたフレンチローストの3種類を全て試飲することにしたが、ここで1つ迷いが生じた。
▽最も深煎りではなく、試したのは…
試飲は2カップ1セットの場合、3種類に加えてもう1種類試すことができる。深煎りの路線を追求する場合、最も焙煎度が深い9番のイタリアンローストに手を出すことになる。
その一方で、3月限定販売という「プリマヴェーラブレンド」という商品も気になった。グアテマラとホンジュラスの豆と、インドネシアのマンデリンの豆をブレンドしており、堀口珈琲ブランディング部の中川紗彩さんから「春を感じさせる味で、ミカンのような果実感とトロピカルフルーツのような華やかさを楽しめます」との説明を受けた。正直なところ「私の好みに比べるとかなりライトな感じかな」との印象を抱いた。
ただし、ここで味わわないと“今生の別れ”になってしまうかもしれない。そこで、フレンチローストの6~8番に加え、プリマヴェーラブレンドも試飲させていただくことにした。いざカップが運ばれ、漆黒のフレンチローストに比べると、まるで紅茶のような薄茶色のプリマヴェーラブレンドをひと目見て「失敗したかな」と率直に思った。
▽選んだコーヒー豆で再認識した「縁」
というのも私の経験上、薄茶色のコーヒーは軽すぎる場合が多かったからだ。あまり期待せずに口に運んだところ、意表を突かれた。確かに華やかな果実感があるものの、焙煎が優れているためにコーヒーらしいコクもしっかりと引き出しているのだ。中川さんも「当社の強みは焙煎技術です」と胸を張った。
他の3種類はいずれも期待通りの味だった。6番は赤ワインの共通する苦みと口当たり、7番はしっかりとした苦みとほのかな甘さがあり、コクもしっかりしている。8番は重厚な苦みの中にも、華やかさがある。結論から言うと、全てが「結構なお味」だった。
迷いながら購入したのは、200グラムで1998円(税込み)の7番の豆だった。グアテマラやホンジュラスの豆をブレンドした味わいはフレンチローストの中でも存在感があり、口当たりが滑らかで、「堀口珈琲の王道」と自賛するだけの味だと感心したからだ。
自宅で味わうのを楽しみにしながらも、開封済みのお気に入りのコーヒー豆が“先約”としてある。その開封済みのコーヒー豆の袋と、他で買った未開封のコーヒー豆の袋の原産地を見て驚いた。購入済みだった2袋の産地は南米のブラジルとコロンビアで、今回は中米のグアテマラとホンジュラスなのだ。コーヒー産地はアフリカやインドネシアなどにも点在しているにもかかわらず、私が意識せずに選んでいた主要産地は全て中南米だった。
通算で10年間アメリカに住み、ブラジルなどにも旅行しただけに、帰日した今もアメリカ大陸との「縁」はこんなところでもつながっていた。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)