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旅の扉
- 【連載コラム】こだわり×オタク心
- 2025年1月21日更新
- arT'vel -annex-
コラムニスト:Tomoko Nishio
オクシタニー地方のローマ都市ニーム、「デニム」誕生地というもう一つの顔と滞在の魅力
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- 巨大な遺跡が街とともに自然と呼吸する
- オクシタニー地方のニームは、フランス有数の古代ローマ史跡の都市として知られているほか、ジーンズ生地「デニム」誕生の地という、もう一つの顔を持つ。市内には一度途絶えたデニム産業を復活させようと取り組む工房「アトリエ・ド・ニーム」があるほか、ショップでその製品を目にすることもできるのだ。今回は古代ローマ時代以降のニームにもふれながら、この都市の滞在の旅について紹介しよう。
なお、ニームとは切っても切り離せない関係にあるオクシタニー地方の世界遺産ポン・デュ・ガールやユゼスについてはRisvel記事「フランス・オクシタニー地方の古代ローマ、世界遺産ポン・デュ・ガール、メゾン・カレをより深く知る3つの地」もあわせてご一読いただきたい。
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- 市民の憩いの場となっているフォンテーヌ庭園 Ⓒニーム観光局
- ■「泉の精」ゆかりの水があふれる地
ニームは人口15万人ほどで、国鉄ニーム駅はTGVも停車する、オクシタニー地方のターミナル駅の一つだ。駅を降りると市内に向かって真っすぐ遊歩道が伸び、散策を楽しみながら徒歩10分弱で市内に到達できる。フランスをはじめヨーロッパの街は駅から中心地まで、トラムやバス、地下鉄などを利用することが多いため、こうした徒歩でのアクセス至便な都市はそれだけでもかなり便利で好感度が上がる。しかも中心地に到着するとすぐ左手には円形闘技場が出迎えてくれ、古代ローマ都市に来たのだなという気分を向上させてくれる。
他の記事と若干繰り返しになるが、ニームの名の由来は泉の精「ネモジウス」による。豊かな水がある地で容易に想像できる謂れだ。ニーム市内をさらに北西の方へゆくとフォンテーヌ庭園があり、ここがニームの名の発祥の由来となった泉があった場所。現在公園自体はバロック様式も交えた華麗な姿に整備されているが、月の女神ディアナの神殿遺構が残っているほか、古代ローマ都市には欠かせない浴場や劇場などもこの付近にあったそうだ。
また、ここの公園からの遊歩道を登ると「マーニュの塔」が現れる。これは紀元前1世紀頃に建てられた物見の塔で、ニームの市内が一望できるスポットともなっている。晴れた日はとても気持ちがいいので、足を延ばしていてみるのもいいだろう。
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- 伝統産業の復活、アトリエ・ド・ニーム Ⓒニーム観光局
- ■ニームが生んだ世界の繊維「デニム」の復活
ニームのもう一つの顔が「デニム発祥の地」だ。この地で繊維産業が発展したのは16世紀頃で、パリ、リヨンに次ぐ産地とされていた。繊維産業は豊かな水が必要なので、「水の街」ニームにこの産業が興ったのは道理があったのだろう。市内に水路を引き、水の恵みとともに繊維産業を発展させていったという。17世紀には地元のウールとシルクを使った「サージュ・ド・ニーム」と呼ばれる耐久性の高い生地が開発され、これがデニムの大元となった。この生地は英国などと取引され、都市に富をもたらした。だが、ルイ14世がユグノー(プロテスタント)の弾圧を始めると、ユグノーが多数を占めていたニームの繊維職人らは英国や新大陸に亡命し、ニームの繊維産業は途絶えてしまったのである。その後、諸説あるが、ニームから亡命した職人の子孫らが英国経由、あるいは新大陸で技術をつなぎ、アメリカでジーンズ生地としてのデニムが誕生したといわれている。ニーム郷土博物館の一角にはニームで誕生したデニムの歴史が展示されているので、衣類やファッションなどに興味のある人にはおすすめしたい。
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- ギヨーム・サゴ氏
- このニームの伝統産業「デニム」の復活に取り組んでいるのが2014年にギヨーム・サゴ氏が設立した工房「アトリエ・ド・ニーム」だ。ニーム近郊で生まれ、パリでデジタル系の仕事をしていたサゴ氏は「デニムの歴史を知り、伝統産業を復活させることに強くひかれた。ニームの新たな歴史を作っていきたいと考えた」と話す。2台の織機を入手したものの、そのメンテナンス方法などに試行錯誤するなどさまざまな困難があったが、引退した織機職人との巡り合いを経て、自社工房で生地を織り上げ製品を販売にこぎつけた。現在は地元ニームをはじめ、パリなどフランス各地のブティックやオンラインショップなどで製品販売を行っている。ニーム市内にはメゾン・カレの斜向かいにショップがあるので、ぜひ立ち寄ってみてほしい。工房では15名程度の観光客も受け入れているので、興味があれば問い合わせを。
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- MARGARET‐HOTEL CHOULEURの中庭
- ■ホテルはバラエティ豊富。ミシュラン星付きレストランも
ニームは古代ローマ時代の巨大な史跡を有しているためか、独特の広大な空間を感じることができる。その一方で街自体はコンパクト。市内のたいていのところは徒歩で巡ることができ非常に歩きやすい。ホテルも市内に集まっており、4つ星、5つ星、シティホテル含め、予算に応じた施設が探せる。
ミシュランの星付きレストランを備えたホテル、「マルガレット・ホテル・シュールー(MARGARET‐HOTEL CHOULEUR」(4つ星)も訪れてみたい。ニームが繊維業で栄えていた17世紀の個人邸宅をホテルに改築したもので、「こんなところに!?」と思うような、小さな路地に面した場所にあるのが、隠れ家的雰囲気も醸している。
1つ星レストラン「ROUGE」とビストロ「GIGI」を仕切るのは女性シェフのジョージアナ・ヴィオ氏。地元の伝統や食材を生かした料理が自慢だ。
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- 干しダラ・ブランダード料理はニーム名物。英国など欧州北部と取り引きが盛んだった時代の名残だろうか
- 訪れてみたニームはとにかく静かで居心地がよく、マイペースに生活を楽しむのにぴったりな街。街の市場を訪れてみれば、地元の食材や名物の干しダラ「ブランダード」を使った料理などをつまみながらの散策も楽しめる。「暮らすように旅をする」をのんびりと体感できる魅力を、ぜひ感じていただきたい。
■取材協力
オクシタニー地方観光局 Destination Occitanie
ガール県観光局 Gard Tourisme
ニーム観光局 Nimes Tourisme
フランス観光開発機構 Atout France
※一部アクサンの付くフランス語表記はアルファベットに置き換えてあります。