旅の扉

  • 【連載コラム】***独善的極上旅日記***
  • 2025年1月13日更新
フリージャーナリスト:横井弘海

#ベルエポック #ミュシャの世界を歩く

展覧会のポスター ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Irmersit-Bunkamurazoom
展覧会のポスター ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Irmersit-Bunkamura

 日本にもファンの多いアール・ヌーヴォーの旗手アルフォンス・ミュシャの代表的な作品を、高解像度のプロジェクションを通して没入感たっぷりの空間で楽しむ新感覚の展覧会「グラン・パレ・イマーシブ 永遠のミュシャ」が、2025年1月19日まで渋谷ヒカリエで好評開催中です。

 チェコ出身の画家アルフォンス・ミュシャ(1860-1939)は19世紀末から第一次世界大戦勃発(1914年)までの「ベル・エポック(美しい時代)」 と呼ばれた時代に、パリで大活躍しました。
 今回の展覧会は、グラン・パレ・イマーシブとミュシャ財団が、パリで2023年に開催した展覧会「Eternel Mucha」を日本向けにアレンジしたもので、ミュシャの人生、画業、後世への影響などを、イマーシブ映像を中心に学術的な視点と多彩な演出で紹介しています。
※「Eternel Mucha」の「E」にはアクサンテギュがつきます。

イマーシブな空間に遊ぶ ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Irmersit-Bunkamurazoom
イマーシブな空間に遊ぶ ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Irmersit-Bunkamura

展覧会は5章からなります。
第1章 ミュシャ:アイコン/1900年/ユートピア
第2章 ヒストリー
第3章 ミュシャのアトリエ
第4章 ミュシャのインスピレーション
第5章 インフルエンサー、ミュシャ 

第1章は、アール・ヌーヴォー様式を経て大画家へと転身するアルフォンス・ミュシャの作品世界を3幕構成で追います。
この展覧会の目玉である,会場いっぱいの映像を駆使したイマーシブな空間は、大迫力の一言です!

 ミュシャと言えば、華麗なポスターの印象が強いからか、「洗練」「エレガンス」「モダニズム」といったイメージがありますが、その創作活動のターニングポイントとなった 1900年パリ万博で担当したボスニア・ヘルツェゴビナ館の内装と、晩年の集大成「スラヴ叙事詩」にフォーカスしています。

第2章は、年譜で追うミュシャの生涯。実際の肉声を重ねてホログラムで表現されたミュシャの姿はリアルでちょっと不思議でもあります。

第3章は、アール・ヌーヴォー・スタイルの家具が置かれたミュシャのアトリエ写真と、制作
のために撮影されたモデルの写真や制作風景。

第4章は、大女優サラ・ベルナール主演の戯曲など、傑作ポスターの人物像を実在する俳優に置き換えた3Dアニメーションを展開。

そして最後の第5章は、「インフルエンサー」としてのミュシャの存在に迫ります。 1960年代にアール・ヌーヴォーが再評価される中、再び脚光を浴びることになったミュシャ。1970年代以降の日本の少女マンガの世界にミュシャ風の表現が現れているのだそう。
ご存知でしたか?

女性ファンも多いミュシャの描く女性たち ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Irmersit-Bunkamurazoom
女性ファンも多いミュシャの描く女性たち ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Irmersit-Bunkamura

 ミュシャの世界に没入して驚きの歓声を上げだけではなく、深い学びのある展覧会です。  
会期も残りわずかですが、ミュシャファンのみならず見逃しのありませんように。

 ところで、展覧会でミュシャを深く知れば知るほど、作品を生で見たくなるものではないでしょうか?
ポスター作品以外は、海外で展示される事はなかなかありません。今年はミュシャの母国チェコに旅してみてはいかがでしょう。

 歴史に文化にビールにワインなど魅力あふれるチェコにおいて、国民的な画家ミュシャが残した作品は、まさに国宝です。プラハには、美術館やプラハ城にミュシャが手がけた聖ヴィート大聖堂のステンドグラス他があり、その足跡を辿ることができます。

「スラブ叙事詩」をイマーシブ画像で楽しむ ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Irmersit-Bunkamurazoom
「スラブ叙事詩」をイマーシブ画像で楽しむ ©2024 Mucha Trust-Grand Palais Irmersit-Bunkamura

 そして、展覧会で紹介された「スラヴ叙事詩」は必見中の必見。日本のチェコ観光局にも,アクセスを尋ねてくる方が多くいるそうです。

 あらためて、「スラブ叙事詩」とは、1910年からミュシャが手掛けた20点からなる連作です。テーマは「スラヴ民族の統一の祝賀」。キャンバス地に描かれており、サイズは大きいものは約6✕8メートル。完成までに18年を要しました。
 1900年のパリ万博でミュシャがボスニア・ヘルツェゴビナ館の内装を依頼され、スラヴ民族の歴史を調査したことが制作のきっかけとされています。その時ミュシャは「残りの人生をひたすら我が民族に捧げるという誓い」を立てました。

 現在「スラブ叙事詩」が展示されているのは、南モラビアのモラフスキー・クルムロフの城館。
外見は古めかしい建物ですが、たくさんのノボリが立ち、すぐにそれとわかります。広大な屋敷には大きな作品がズラリと並んでいます。スラブ民族が辿った苦難の歴史と解放がファンタジックにまとめられた1枚1枚にテーマがあります。かなり近づいて鑑賞ができるので、筆使いもリアルに感じられます。細部まで描き込まれた作品にミュシャ晩年の自民族に対する思いが伝わるようで引き込まれます。

 作品は第二次世界大戦中はナチスの略奪を防ぐため覆いをかけられて隠されたり、戦後、1948年のチェコスロバキア政変で共産党政権が樹立すると、ミュシャは退廃的でブルジョワな芸術家とみなされ、作品も酷評されたり、作品自体にもストーリーがあります。

「スラブ叙事詩」が展示されている城館外観zoom
「スラブ叙事詩」が展示されている城館外観

 実は、2017年には日本の国立新美術館において、国外で初めて全20点が一堂に展示されたことがあります。それは奇跡のような話で、今後,国外に出ることはほぼ考えられないようです。

 展覧会のイマーシブ映像も、間近で見る「スラブ叙事詩」も,名作に触れる時間は何とも幸せです。

目の前に「スラブ叙事詩」の絵がある幸せzoom
目の前に「スラブ叙事詩」の絵がある幸せ

#グラン・パレ・イマーシブ 永遠のミュシャ 開催概要

会期 2024年12月3日(火)  〜  2025年1月19日(日)

開場時間
11:00~20:00( 最終入場は19:30まで)

会場
ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)
東京都渋谷区渋谷2-21-1

問合せ
050-5541-8600(ハローダイヤル)

会期中すべての日程で【オンラインによる事前予約】が可能。

尚、展覧会会場の作品画像には著作権があります。
©2024 Mucha Trust-Grand Palais Irmersit-Bunkamura


フリージャーナリスト:横井弘海
元テレビ東京アナウンサー。各国駐日大使を番組や雑誌でインタビューする毎に、自分の目で世界を見たいという思いが強くなり、訪問国は現在70カ国超。著書に「大使夫人」(朝日新聞社刊)。国内旅行は「一食一風呂入魂!」。美味しいモノと温泉を追いかけて、旅をしています。
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