トラベルコラム

  • 【連載コラム】イッツ・ア・スモール・ワールド/行ってみたいなヨソの国
  • 2013年9月3日更新
夢想の旅人=マックロマンスが想い募らず、知らない国、まだ見ぬ土地。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス

アドベンチャー・ラン イリノイ州から世界へ

ウォリアーダッシュって聞いたことある?

アメリカはイリノイで発祥したアドベンチャー・ランのイベントです。簡単に言えば「大人の障害物競走」。オフロードに様々な障害物が設置されたコースを走ります。と言うと、タフでマッチョな競技を想像しますけど、そのへんは他のランニングイベントとちょっと違います。まず、タイムや順位は関係なし。いくら早くゴールしても賞も何もありません。障害物はそれぞれハードなのとイージーなのが用意されていて、選手の体力によって選ぶことができます。スルーして次に行ってもオッケー。走るのがしんどかったら、歩いてもよし。実際、5kmほどのコースを一歩も走らずに記念撮影しながらゆっくり歩いてゴールする選手もいます。コスチューム賞というのがあって、これは観客の投票で決めます。

ランニングとアドベンチャーとフェスティバルを融合させたファン・イベント。当初2000人ぐらいの参加者を集めてスタートしたウォリアーダッシュは、あっという間に国境を飛び越え、世界中に伝染して、すでに190万人の参加者を動員した(主催者発表)とのこと。2013年にはいよいよ日本にも上陸。
で、先日、これに参加してきました。

会場のドイツ村は快晴。午前中のうちにすでに気温は30度を超えている。よく手入れされた芝生にスプリンクラーが水を与えている。現場はちょっとした野外フェスの趣。広大な敷地の中央にセットされたステージ。スピーカーから80年代のダンスヒットメドレーが大音量で流れている。屋台のまわりに立ち並ぶパラソルの下、ビール片手に骨付き肉をほおばる者。冷たいかき氷を喉に流し込む者。MCの女の子がいかにもアメリカ風なスピーチでルールを説明している。女の子がジョークを言う度に会場で笑い声が弾ける。スパイダーマン、忍者、ゾンビ、ドクターとナース、裸体(!)、、思い思いのコスチュームに身を包んだ選手たち、応援にかけつけた観客たち、皆、笑顔、笑顔、笑顔。

問題はと言えば、僕、ひとりで参加したってこと。普通のマラソン大会だと、ひとりで来て、ひとりで走って、ひとりでゴールして、ひとりで帰るというような選手は少なくないのです。マラソンなんてもともとが孤独な個人競技ですし、まあ、重要なのは鏡と自分、後はどうでもいいと言うようなナルシスト・ランナーは多いんじゃないかな。そう言う僕もそうかも。

ウォリアーダッシュには、そのような「鏡とオレ」みたいな陰気な人間の居場所はありません。このパーティーに属するために必要なチケットは「笑顔」。悩みや心配事、日常のストレス、そんなものはぜーんぶ忘れてとことんバカになって大騒ぎしようぜっ。会場中がそんな陽気な雰囲気に包まれています。それはそれでいいんだけどね。さすがにひとりきりでバカになるほど僕には度胸がないのです。シラフですし。ああ、何だか僕、場違いだなあ。しょうがないから隅っこの木の陰に身を潜めて静かにスタートの時間を待ちます。
ふと、外国人の団体が僕の横を通りすぎた時に、ひとりの選手と目があってしまいました。はっと目が覚めるような美女、ではなくて、総合格闘技の選手みたいにごっつい体つきをした黒人の方。ヘイユー、こんなところでひとりで何やってんだい?こっちへ来いよ、パーティーに参加しなきゃ。って、いえ、あの、僕は、えーと、レースのために集中しているんです。もうすぐ出走なんで、、。と苦しい言い訳。こう見えても僕、人見知りが激しいの。シラフですし。

やがて時間がやってきてレースのカウントダウンがスタート。3、2、1、号砲と共にスタートゲートからファイヤー。BGMはもちろんヴァンヘイレンの「ジャンプ!」。実際に走ってみるとこれが思っていた以上にタフなコース設定なんだ。アップダウンは激しいし、地面はゴロゴロ石だらけだし、障害物は意地悪だし。途中、僕の身長と同じぐらいの土管が3本積み重ねられてる障害物があってね。後で知ったんだけど、仲間と助け合ってクリアするものらしい。仲間のいない僕はしょうがないから自力でよじ登りましたよ。

まあ、とにかく、そんな風にして飛んだり跳ねたりすべったり、最後は泥のプールを腹這いでぐじゃぐじゃになりながら無事ゴール。

いやあ、これが楽しいのなんのって。

これまでにマラソンからトライアスロンまで色んなレースに参加してきましたけど、こんなに楽しいレースは本当に初めてでした。何でしょうね、こう、野生に帰った気分とでも言えばよいか。
ウォリアーダッシュが成功したひとつの要因に、「順位やタイムを競わない。」というのがあると思います。このイベントが、何でも数値化して白黒はっきりさせないと気が済まない国民性の「アメリカ」から発生したという事実とその背景に、少なからず興味があります。心残りはと言えば、せっかく声をかけてくれた例の外国人たちと仲良くしておけば良かったかなって。いっしょにバカみたいになって走ったらもっと楽しかったかも知れません。

ウォリアーダッシュは今や世界中のあちこちで開催されています。ぜひ、本国アメリカで参戦してみたいな。もちろん発祥地のイリノイ州で。その時はサムライのコスチューム、あるいはウルトラマン、もしくはフンドシ一丁で?あ、イリノイをウィキでチェックしてみましたよ。「イリノイ州はアメリカの縮図」ですって。ふうん。そうなんだ。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス
マックロマンス:プースカフェ自由が丘(東京目黒区)オーナー。1965年東京生まれ。19歳で単身ロンドンに渡りプロミュージシャンとして活動。帰国後バーテンダーに転身し「酒と酒場と音楽」を軸に幅広いフィールドで多様なワークに携わる。現在はバービジネスの一線から退き、DJとして活動するほか、東京近郊で農園作りに着手するなど変幻自在に生活を謳歌している。近況はマックロマンスオフィシャルサイトで。
マックロマンスオフィシャルサイト http://macromance.com
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