夏休みを迎えて連日の暑さに辟易されている皆様、遊園地で涼しい気分を味わうのはいかがだろうか。富士山のふもとにある遊園地「富士急ハイランド」ならば標高が800メートルを超えているため比較的涼しく、さまざまな角度で冷涼感を味わうことができる。ところが、東京都心部などから富士急ハイランドの最寄り駅へ直通する特急「富士回遊」の車掌は英語の車内放送で「富士除外」と伝えており、富士山を目当てにした外国人乗客は「間違った列車に乗り込んだのではないか?」と背筋が寒くなったかもしれない―。
【富士回遊】JR東日本と富士山麓電気鉄道富士急行線を直通運転している定期の特急列車。世界遺産の富士山を訪れる外国人旅行者らの利用獲得を目指し、2019年3月16日の運転開始から今年で5年を迎えた。
新宿駅または千葉駅と河口湖駅(山梨県富士河口湖町)の間を原則1日4往復しており、夏休みなどの繁忙期には臨時列車も設定される。JR東日本が運行する中央線の他の特急である「あずさ」〈新宿―松本(長野県松本市)間など〉、「かいじ」(新宿―甲府間など)と同じく全座席指定となっている。
▽初報道に初乗車
富士急ハイランドへの移動手段で特急「富士回遊」を選んだのは、東京都心部から1本の電車で迎える利便性に加えてもう一つ理由があった。乗ったことのない列車だったので、是非乗車したいと考えていたのだ。
とはいえ、私はこの特急列車が走り出すことをJR東日本が発表する前からつかんでいた。このため、2018年に主に新宿駅と河口湖駅と結ぶ定期特急列車の運転を19年3月に始めることと、特急名が「富士回遊」になると勤務先の共同通信社から最初に報じてその通りとなった。
しかし、運転開始後は勤務先の福岡支社、さらに日本から見て地球の反対側にあるワシントン支局に異動したため乗る機会がなかった。2024年5月に帰任し、登場から5年余り経過してからの初乗車だ。
▽連結した列車はあずさ2号ならぬ…
特急「富士回遊」は主に新宿駅と河口湖駅を結んでいるが、錦糸町駅(東京)から乗り込んだのは千葉駅が始発の3号だ。錦糸町から富士急ハイランドまでは大人で特急料金が1620円(通常期)と新宿からとは変わらず、集積回路(IC)乗車券を使った運賃は2618円だ。
この列車は千葉駅を午前6時38分に出発して総武線を走り、船橋駅(千葉県船橋市)、錦糸町駅に止まった後で新宿駅に到着する。新宿駅からの停車駅は他の富士回遊と同じで、中央線の立川(東京)、八王子(東京)、大月(山梨県大月市)と続いた後に富士急行線に乗り入れる。
富士回遊はいずれもE353系の3両編成の車両で運転している。大月駅以東は9両編成の特急「あずさ」または「かいじ」と併結運転して計12両で走る。
富士回遊3号に始発の千葉駅から途中の大月駅まで連結して走る松本行きのあずさは、狩人の曲「あずさ2号」ならぬ「あずさ3号」だ。
▽車内に「信号機」
富士回遊は全座席指定のためあらかじめ予約しており、予約した座席の上にある荷棚裏の緑色の小さなランプが光っているのを確かめて座った。緑、黄、赤の3色が並んだ信号機のようなランプは、座席が空席か否かを示す「信号機」の役割を果たしている。
緑色が点灯している場合は指定席発売済みの区間で、黄色は先の駅から指定席発売済みの区間になり、赤色は空席なのをそれぞれ示す。赤色が灯っている座席ならば空席で、座席指定を受けていない特急券の「座席未指定券」を持っている乗客も座ることができる。
座席未指定券を持っている利用者の視点に立てば、空席が緑色のランプが点灯し、指定席発売済みの区間が赤色のランプが灯った方が分かりやすいように思われる。だが、関係者によると「全車指定席の列車なので、座席指定を受けている乗客が緑色のランプが灯った自分の座席に安心して座れるように案内している」という。
▽富士山麓を回遊のはずが「富士除外」!?
錦糸町駅の総武快速線のプラットホームを出発した列車は、ポイントレール(分岐器)を通って新宿駅方面へ向かう総武緩行線の線路へと移った。隅田川を渡り、御茶ノ水駅を過ぎると再びポイントレールを渡って中央線の快速電車が主に通る線路へシフトした。
午前7時半ごろに新宿駅のホームに滑り込むと、座席上のランプが一斉に緑色に切り替わった。赤色が灯った座席は全くなく、満席状態となった。周囲に陣取った他の乗客はほとんどが外国人で、富士山麓へ直通する特急列車の人気ぶりを再認識した。
ところが、JR東日本の男性車掌はたどたどしい英語の車内放送で列車名を「フジ・エクスクルージョン」と繰り返している。正しい列車の英語名は「FUJI EXCURSION」(富士回遊)で、車掌が言う「FUJI EXCLUSION」ならば「富士除外」になってしまう。
女性の声による英語の自動放送は正しく「フジ・エクスカージョン(FUJI EXCURSION)」と言っており、幸いにも私の周囲で戸惑っている様子の乗客はいなかった。
だが、肉声の車内放送だけを聞き取った外国人旅行者がいたのならば、富士山麓へ向かう正しい切符を持っていても「富士行きが除外されるのか!?」と耳を疑ったに違いない…。
(シリーズ「富士急ハイランドに無事入らん!?【第2回】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)