旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2024年1月27日更新
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コラムニスト:Tomoko Nishio

エネルギー&遊び心満載の名作「ドン・キホーテ」、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24

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映画館で英国最高峰のオペラ・バレエを楽しむ英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24。シーズン最初のバレエ上映作品は、英国ロイヤル・バレエの開幕演目でもあった古典バレエ「ドン・キホーテ」だ。セルバンテスの同名の名作を原作としたこのバレエの初演は1869年のモスクワ、ボリショイ劇場。スペインのバルセロナを舞台とした、太陽の国へのあこがれも込められたようなエネルギッシュさ、バレエならではの超絶技巧もふんだんに盛り込まれた見どころ満載の作品である。英国ロイヤル・バレエで上演されているのは、かつてバレエ団でプリンシパルを務めたバレエダンサー、カルロス・アコスタ改訂振付による英国ロイヤルのオリジナルプロダクション。国王夫妻も臨席し、開幕前に国歌が演奏されるという高揚感もまた、英国ならではの文化に彩を添えている。
■世界中で上演される庶民主人公の痛快な物語

バレエ「ドン・キホーテ」は「白鳥の湖」「くるみ割り人形」などと並ぶ、古典バレエの名作中の名作。物語はセルバンテスの「ドン・キホーテ」の、原作中にチョイ役で登場する町娘キトリと床屋のバジル(バジリオ)を主人公に据え、そこに夢を追う冒険者ドン・キホーテが絡みながら2人の恋をハッピーエンドへ導いていく。庶民を主人公に据え、宿屋の親父やちょっとおかしな町のお金持ち、花形闘牛士に踊り子など、舞台中に市井の人々のエネルギーが満ち溢れるのが、「ドン・キホーテ」の魅力の一つだ。さらにバレエの技術的な面でも難易度の高いアクロバティックなテクニックがふんだんに盛り込まれ、特に終盤3幕で踊られるグラン・パ・ド・ドゥはその超絶技巧の応酬から、名場面集などのガラ公演では大トリを飾る機会の多い演目となっている。バレエ鑑賞の初心者でもわかりやすく楽しめるのもまた、この作品が世界中で上演され続けている理由のひとつだ。
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■ハバナの太陽も感じさせる、ハッピーオーラも満載

今回上演される英国ロイヤル・バレエ団の「ドン・キホーテ」は、このバレエ団ならではのオリジナル作品。キューバ出身のバレエ団の元プリンシパル、カルロス・アコスタが振付改し、2013年に初演された。物語の大筋はそのままに、独特な振付や、ジプシー(ロマ)の野営地ではギターの楽団を登場させるといった独特な工夫がなされているが、全体を通して満ち溢れているのは市井の人々のエネルギッシュな庶民パワーだ。ハバナ生まれのアコスタは13人兄弟の末っ子。父親はトラックの運転手で、息子の不良化を恐れてバレエ学校に入学させたのが、カルロス少年がバレエを始めるきっかけだったという。そうした兄弟たちでわいわいと過ごした日々へのオマージュだろうか、バルセロナの街には裸足の少年たちが踊りまわる。キューバを訪れたことがある人なら、もしかしたらハバナの太陽と土埃の香りを思い出すのではなかろうか。とにかく隅々まで幸せ感満載の、ハッピーオーラ溢れている舞台なのだ。
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こうしたこのアコスタ版「ドン・キホーテ」も初演から10年。かつてアコスタとともに踊った仲間たちが再演を重ねて作品を練りこみ、さらに進化させているのも、演技力に誇りを持つ英国ロイヤル・バレエ団ならではの味わいだ。とくに見どころとして注目していただきたいのが、ギャリー・エイヴィスが演じるドン・キホーテである。幕が開き、自身の部屋で夢想にふけり、ドルシネア姫の幻に導かれるがごとく、冒険の旅に出ていくのだ。「突き上げてくるかのような冒険への思い、夢、あこがれ。100%、目的のない旅だ」とエイヴィス。その「目的のない旅」を、ドン・キホーテは友であるサンチョ・パンサとともにゆく。キトリをドルシネア姫と思い込み、ジプシー(ロマ)の野営地では焚火を囲んで酒を酌み交わす人々をよそに風車を怪物と思い突っ込み気を失い、夢の中で幻のドルシネア姫と「再会」する。キトリとバジルの幸せな結婚を見届け、再び旅立つドン・キホーテは、やはりこの物語の中心にいるのだと思わせられるのだ。
英国王臨席のバレエも英国ならでは。ぜひお楽しみいただきたい。
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英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24
ドン・キホーテ


■振付:カルロス・アコスタ、マリウス・プティパ
■音楽:レオン・ミンクス
■編曲:マーティン・イエーツ
■デザイナー:ティム・ハットリ―
■照明:ヒューゴ・バンストーン
■ステージング:クリストファー・サンダース
■指揮:ワレリー・オブシャニコフ
■演奏:ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 
■出演
ドン・キホーテ:ギャリー・エイヴィス
サンチョ・パンサ:リアム・ボズウェル
ロレンツォ(キトリの父):トーマス・ホワイトヘッド
キトリ:マヤラ・マグリ
バジル:マシュー・ボール
ガマーシュ(金持ちの貴族):ジェームズ・ヘイ
エスパーダ(闘牛士):カルヴィン・リチャードソン
メルセデス(街の踊り子):レティシア・ディアス
キトリの友人:ソフィー・アルナット、前田紗江
二人の闘牛士:デヴィッド・ドネリー、ジョセフ・シセンズ
ロマのカップル:ハンナ・グレンネル、レオ・ディクソン
森の女王:アネット・ブヴォリ
アムール(キューピッド):イザベラ・ガスパリーニ
ファンダンゴのカップル:ミーシャ・ブラッドベリ、ルーカス・B・ブレンスロド
■上映時間:3時間19分


■上映劇場
北海道 札幌シネマフロンティア 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
宮城 フォーラム仙台 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
東京 TOHOシネマズ日本橋 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
東京 イオンシネマ シアタス調布 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
千葉 TOHOシネマズ流山おおたかの森 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
愛知 ミッドランドシネマ 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
京都 イオンシネマ京都桂川 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
大阪 大阪ステーションシティシネマ 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
兵庫 TOHOシネマズ西宮OS 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
福岡 中洲大洋映画劇場 2024/1/26(金)~2024/2/1(木)
※上映時間については劇場に直接問い合わせのこと。


https://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=don_quixote2023
コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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